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第二章
29爪はじき
しおりを挟む先程から突き刺さるような視線がした。
「見て。良くこられたわね」
「本当に」
「ベノア様は人が良すぎるのよ」
何故そんな視線を向けられなくてはならないんだ。
「ベノア、俺は少し失礼して良いか」
「ああ…」
これ以上この空気の中にいたくなかった。
しかしこの場を離れたからと言って居心地の悪い空気が変わる事はなかった。
「良く顔を出せたな」
「何処まで図太いんだ。シェパード」
そこに現れたのは学生時代の同級生だった。
「何だ?何が言いたい」
「罪人が参加するなんてどういう神経をしているのかと思ったんだ」
「それとも自覚がないのか?本当に自覚のない馬鹿は怖いな」
さっきから何を言っているんだ。
俺が罪人だと?
「伯爵令嬢に結婚詐欺を行い家を乗っ取ろうとしたんだってな」
「慈善活動を行う我らの前に詐欺師がいる難なんて気分が悪い」
「お前のような男はこの場に…いや社交界に出るべきではない」
さっきから好き勝手を。
俺を詐欺師さと?罪人だと!
「既に噂になっている」
「聡明な父を追い出し、これまで虐げていた妹君を追剥のような真似をした挙句跡継ぎになりたいからと義弟までも放り出したと…人間じゃないな」
「言うだけ無駄だろ。人の心を持たない悪魔だ」
「お前が何でディアス様の息子なんだ。お前のようなろくでなしが!」
どうして誰もがあんな無能な男を褒めちぎる。
俺ならばもっと上手くやれるのに。
優秀なんだ俺は。
「勝手な事を言うな!」
「は?」
「俺はあんな馬鹿な男とは違う!見っとも無い出来損ないとその娘…あの男が無能でなければ!」
そうだ。
あの男が出来損ないだから俺は今もこんな辛い思いをしなくてはならないんだ。
本当なら王都に住んで、多くの使用人に囲まれていたはずだ。
あんな貧乏くさい領地で過ごす事もなかった。
そしてあんな女よりも早く結婚して。
それで――。
「どうしたんだ皆」
「ベノア!」
俺の中で何かが壊れるような気がした。
「何を騒いでいるんだ」
「ベノア、何故かこんな人間を呼んだ」
そうか、俺を今夜呼んだのは全てこの男が仕組んだのか。
心配そうなそぶりを見せて俺を笑っていたのか。
ユナ嬢を紹介する振りをして俺を馬鹿にして恥をかかせて孤立させるのが目的で。
「シェパードどうし…」
「貴様ぁぁ!」
「わぁ!」
こんな男にまで馬鹿にされているのが許されなかった。
何のとりえもない田舎貴族にまで馬鹿にされるなんてありえない。
「許さない…絶対に」
「止めろ!ベノアを離せ」
ベノアに掴みかかった俺は、ここが何処か忘れていた。
バルコニーだったことも。
我を失い俺は勢い余ってベノアを突き飛ばしたせいでバルコニーから落ちてしまった。
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