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第二章
13残ったもの
しおりを挟む「お前は自分の欲望の為に殺したのよ」
「いや…止めてぇ!」
距離を詰めながらそっと耳に囁く。
「おめでとう?自分の幸福の為に多くの人を不幸にして」
悪魔の囁きのようにも聞こえる言葉だった。
エミリーは考えないようにした罪悪感があふれ出していく。
「子爵令嬢の犠牲の上で幸せになりなさい。私を侮辱して同情した目を向けたお前の母親同然の悪女」
「止めてください!エミリーは悪くない…何一つ」
「ええ?そうね?貴女は婚約者の心を抉り、自分の幸福の為に消えろと言ったのだから…これで自害でもすれば二人は共犯だものね」
「そんな…」
「この先幸福はないわ。地獄だけ…ごきげんよう」
言いたいことは全て言い終えたのか優雅に微笑みその場を去って行く。
残ったのは絶望と後悔とお金だけ。
借金まみれの状況ではお金はありがたいが、直ぐに底は尽きる。
社交界で失った信頼と多額の借金を支払うには足りない。
「これからどうしたらいいの…こんな。この程度のお金で何ができるの」
「母上、もう…」
「エスターは私達と縁を切ったわ。アルソート家からの援助は当てにできない、商人達も私をどんな目で見ているか。どうしてこうなったの」
自分は何一つ悪くないといいたげだったが、ライアンも同罪である事に気づきもしない。
「母上、これからもう一度やり直せばいいんです」
「ランドルフ…」
「二人で頑張って行こう。きっと乗り越えられる…誤解だって直ぐに解ける」
社交界の噂は真実よりも偽りが多く、これまでも虚偽の噂は多くあったので時間が過ぎれば噂は消えるだろうと思い込んでいた。
「兄上も悪い噂を流された時も噂を払拭できるように行動していた。大丈夫だ」
「ええ…そうね」
「そう簡単に行くといいけど」
ランドルフの前向きな姿勢に安堵するエミリーだったが、今回ばかりは楽観的になれないライアンは不安しかなかった。
「母上、三日後に結婚式があります。参列してくださるお客様もいるはずですから」
「ええ…」
「大丈夫です。冷え切った夫婦よりも愛で結ばれる方がそれだけ素晴らしいか」
未だに現実が見えていないランドルフは結婚式当日にどれだけ甘い考えだったか身に染みる事になる。
―三日後の結婚式当日。
「これは…」
「たったこれだけか」
結婚式は縮小したが、招待客の一割程度しか来ていなかった。
天候も悪く今にも雨が降りそうで幸福な結婚式とは言い難かった。
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