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第一章侯爵令嬢の婚約者(仮)
閑話4とある伯爵のため息
しおりを挟む身を削って国に尽くしている貴族を蔑ろにして、己の保身と欲望の為に他者を踏みつけても当然と思う貴族。
(なぜこうも違うのだ)
建国前から存在する貴族を大事にしないと国がどうなるか解らないはずはない。
過去に大国と呼ばれた国も建国前から存在する辺境貴族を邪魔に思い、政治に関わらせないように北の最果てに追いやったことで国が沈んだ例がある。
国を外敵から守るのは王都の騎士団では足りない。
力の差だけでなく、常に辺境地に身を置く者達は地形を利用し敵を遠ざけることにも優れている。
しかしその知識、経験は厳しい環境いいるからこそ身についたのだ。
訓練だけで身につくわけではない。
「北方領土から手紙が来ました。最後通告だそうです」
「東南領地からも来ていたのでしょう」
東南領地はクレイン家の領地でもある。
現在はクレイン伯爵の弟が辺境伯爵の地位を先代から継承して当主の座についているのだ。
世間からは長男でありながらも弟、しかも異母弟に当主の座を奪われた無能だとも馬鹿にされていた。
だからこそアレクシウスも王宮内で馬鹿にされていたのだ。
「弟が随分と無礼を申していたようで」
「当然のことかと。殺されてもおかしくないでしょう」
「ハァー…」
頭を抱えるクレイン伯爵は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「弟には私から強く言い聞かせたのですが」
世間では色々噂の絶えない人物であるが、実際はかなりの兄大好き男だった。
そもそも愛人の子を跡継ぎにする時点で問題が起きるのに、起きていないのは片方が譲っているからと言ってもいい。
クレイン家の一番端っこで痩せこけた領地に追いやられた長男。
対する次男は長男として扱われ辺境伯爵の地位を継承しているのだから追いやられた本人からしてはたまったものではないが、本人は政治に関わることよりも田畑を耕すことの方が好きだった。
同時に、貴族としての生活よりも平民に近い生活が長かったこともあり、当主の座を追いやられた生活を楽しんでいるようだった。
「十年前息子を守れなかったのは私の無力故です」
「北の辺境伯爵の怒りを鎮める為でしょう」
「結果的にそうなったのです」
十年前の出来事は様々な波紋を呼んだ。
以前から辺境地に住まう貴族を差別している宮廷貴族に王族。
領地持ちの貴族が貧しいことを領主としての器がないなど馬鹿にして、社交界に出てもドレスの煌びやかさがないなど散々馬鹿にしていた。
常に戦場に赴くの男だけではない。
妻や娘も必要とあればサポートに向かうので煌びやかなドレスでは動けず、また身を守れないのだから。
そんな事情も知らない彼らは言いたい放題を言い、都合のいい時だけ利用する。
自分達では戦うことも作物を作ることもしないのに与えられるのが当然の顔をするのが不快だったのだ。
それでもギリギリの所で関係は保たれていたが、十年前の事件で一部の辺境貴族が反旗を翻そう担ったが、仲介に入ったのがクレイン家だった。
「あの時貴方が間に入ってくださらなかったらどうなっていたか…大帝国も今回の事は」
「私のような若輩者でも役に立てて良かったですよ」
シンパシー伯爵はもう言葉もなかった。
世間ではアレクシウスは家族にすら見捨てられたと噂をしているがむしろ逆だった。
「私は息子を信じています。あの時王宮に留まると決めた強い我が子を」
「クレイン伯爵…」
「ですが、許したわけではありません。殿下のして来た罪を…」
アレクシウスを深く愛していないはずがないのに。
穏やかな人間ほど本気で怒らせたら怖いと言うことを知らないのか。
「私を馬鹿にするのはいいでしょう…ですが愛する妻や息子をこれ以上傷つけるなら黙っていません」
穏やかな海が荒れた時。
人は本当に恐ろしいの物は何なのか理解する。
身を持って体験しないと解らない輩は一番怒らせてはならない人間を怒らせてしまったのだった。
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