ある公爵令嬢の生涯

ユウ

文字の大きさ
27 / 408
第一部目覚めた先は巻き戻った世界

25憧憬

しおりを挟む

「アンタやるじゃない」


挨拶回りが終わり待機するエステルにミシェルは肩を叩き笑った。


「はい?」

「やられっぱなしと思っていたのに」

第一印象が大人しすぎて腰の低い印象だったので意外だった。


「いえ、少々でしゃばり過ぎたと反省しています」

「あれぐらい生ぬるいわ。でも、あれでアウトだわ」

ミシェルは社交界の恐ろしさもサロンの重要性もよく理解していた。


「サロンを否定することはモントワール夫人への侮辱。寵姫を真っ向から否定なんて馬鹿よね」

「これからどうされるのでしょう」

「アンタが心配する必要ないでしょ?でもヴィオラ様も策士よね」


優しい笑みを浮かべながらガブリエル同様に腹黒さも持ち合わせている。


「あの発言で周りは馬鹿との婚約は白紙になったと勝手に判断するわね」

「はっきりと意思表示はしてませんわ」

「でも捕らえ方によってはねぇ?」

ヘレンとカルロの発言の数々で腸が煮えくり返っていたので少しだけ胸がスカッとした。


「サロンの出入り禁止なんていい気味よ」

「ミシェル様…」

迂闊な発言をしてしまえば命取りになるとエステルは身をもって知っている。


(気をつけないと)



常に頭を使い発言に気をつけようと思った矢先。


「「キャー!!」」

黄色い悲鳴が聞こえる。


「王太子殿下よ!」

「きゃあ!隣にはクロード殿下もいらっしゃるわ!」


今日の主役であるエドワードは特に輝いていた。


「エドワード殿下…」

「いやん、クロード様も素敵だけど、エドワード様も素敵」


さっきまでのミシェルは何処に行ったのか。
この変わり様に呆れるも、生き生きした表情をしているのでこれ以上何か言う気になれなかった。


(エドワード様…)



前世では初めて言葉を交わしたのはこの日が初めてだった。

今でも覚えている。


(あの時私は一人だった…)


両親も婚約者も友人もおらず社交界で蔑まれ疎まれていた。


誰一人ダンスを踊ってくれる人は居なくて。


耐え忍ぶばかりだった。


(でも…)


広いホールで一人ぼっちだったエステルにただ一人優しく声をかけてくれた人がいる。



「王太子殿下エドワード様のおなーり!」


「「「おめでとうございます!!」」


大勢の貴族からお祝いの言葉と拍手が送られる。


「おめでとうございます殿下」

「謹んでお祝い申し上げます」

大臣や重役達からお祝いの言葉が述べられる。
身分の高い貴族は玉座の傍でお祝いの言葉を述べることが許され、すぐそばに王と王妃がおり、近い距離でクロードとモントワール侯爵夫人もお祝いの言葉を述べていた。


「これほど多くの者に祝ってもらえたことを感謝します」

エドワードが感謝の言葉を述べる。


「今宵は存分に宴を楽しみなさい」

音楽が奏でられ今夜の宴を盛大に盛り上げる。


「ここでファーストダンスだが…本日は無礼講じゃ」

「婚約者がいる方も本日だけは大目に見てくださいな」

両陛下の言葉で誰がファーストダンスに選ばれるのか静まる中、ゆっくりと前に進むエドワード。



「お相手いただけますか?レディー」

「えっ…」


「どうか私とファーストダンスを踊ってください」


迷うことなくエドワードは手を差し出す。


「しかし…」


「フレッツ侯爵、何か問題でも?」

「今夜は無礼講ですわよ?」



すぐに止めようとしたが、先手を打たれる。
王妃とモントワール侯爵夫人が邪魔させまいと睨み何も言えなくなる。


「私でよかったら」

「ありがとう」


エドワードにエスコートをされ移動する。

「ワルツを!」

王妃が合図をするとオーケストラは音楽を奏でダンスが始まる。


あの時と同じだった。
好奇の視線に晒されて、耐え切れなかったエステルに救いの手を差し伸べてくれた。


両親も婚約者も助けてくれなかったのに、エドワードだけは心のサインに気づいてくれた。


「許してくださいエステル嬢…」


「いいえ、光栄です」


「よかった」

ホッと安堵するエドワードは何時でも他者を気遣っていた。


「僕はずっと貴方に声をかけたかったのです」

「え?」

「けれど貴方はカルロの婚約者。親しくなることはできないと思っていたのですが…音を合わせ、言葉を交わすことができてよかった」


エドワードにリードされながらも優雅にステップを踏む。
クロードとはリードの仕方が違うが、とても踊りやすかった。


(あの時と同じ…)

優しい気遣いも、言葉も、リードの仕方も同じだった。

「私は王太子様にずっと憧れておりました」

「光栄です…貴方ともっと親しくなりたいと思っていたのですよ」


王太子という立場上気軽に話せる友人はいなく孤独感に苦しんでいた。


「大勢の側近がいても友人は一人もいない…孤独なのです」

「私も友人はおりませんわ」

「では、似た者同士ですね」

苦笑しながらも嘘のない笑みを浮かべてくれた。

(王太子様…)


胸が絞めつけられるようだった。
あの日から何一つ変わってないのだから。


(いいえ、違うわ)

孤独であったが、王太子と王太子妃の二人は優しかった。


偏見の目で見ずに接してくれたではないか。

(思い出したわ)

哀しい記憶が多すぎて忘れかけていたが…


『貴方の演奏、なんてすばらしいの』

『王太子妃様…』


敵国から同盟の証で嫁いできた皇女。
天真爛漫で幼さが残りヘレンと似た所があったので当初は苦手意識を持っていたが、その明るさに惹かれていた。


先代国王が崩御され19歳という若さでエドワードは王となり若すぎる君主となった。

側近に裏切られ罪を着せられた二人。


無力で何もできずにいた。

重税の罪を王妃になすりつけた貴族は裏切り国を出て、すべての責任を負わされた両陛下。

(あまりにも残酷すぎる…)

エステルはどうしても同じ悲劇だけは繰り返したくなかった。

(お優しい王太子様をお守りしたい…)

孤独だったエステルを救ってくれた優しい王。
いつもさりげなく気遣ってくれた優しすぎた王を守る為にもエステルは運命を変えたかった。


(恋ではないけど…)

エドワードに抱く想いはとても強く恋ではなかった

(王太子様…)

切ない表情で見つめるエステルはこの気持ちが恋ではないことを知っていた。

もっと強い思い。

憧れと尊敬の想いが強くなり恋とは程遠い感情を抱いていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...