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第三部騎士科の道
20.雲泥の差
しおりを挟む一学期が終り、夏休みを迎える少し前。
学園での出来事は王都の社交界にも広まった。
ノーアン大司教が身分を剥奪され、永久労働の罪となったことはもちろんのこと。
エステルが白銀の騎士の称号を与えられたことなど。
「聞きましたエステル様のお話」
「ええ、何でも称号を与えられたそうですわね」
「騎士としての才能をお持ちだったのですね」
貴族社会とは窮屈なので娯楽の一つは噂話。
他人の噂話を楽しむ令嬢や夫人達にとってスキャンダルが大好きだが、悪い噂だけが楽しみではなく良い噂も好んでいた。
ただしのその噂の後に誰かを貶めたりすることもあるのだが…
「エステル様は本当に素晴らしいですわね」
「ですが…妹君はねぇ?」
「先日も夜会で粗相をしたそうで」
彼女達はエステルを褒めちぎった後、このところ日陰にいるヘレンの悪口を言い始める。
「そういえば謹慎中にあの二人」
「街に遊びに行っていたそうですわ」
「まぁ…なんて恥知らずなのかしら」
謹慎中は邸で大人しくしているのが当然なのにあの二人は社交の場に出なければ問題と思ったのか、邸で大人しくしているどころか街に出て遊んでいた。
「姉君から婚約者を奪っても平気でいらっしゃるぐらい神経がおかしい方ですものね」
「悪いと思ってなくとも周りにそう思わせないといけませんのに」
「ご両親も咎めないということは…やはりあの噂は本当なのかしら」
社交界である噂が流れていた。
信憑性もあるので夫人達は半信半疑だったのだが…
「アルスター伯爵は領地に引っ込むとか」
「領地の半分以上は公爵様に返上して田舎暮らしをしなくてはならないと聞いてます」
「最近は領地の管理も上手く行ってませんものね」
ヒソヒソと話す。
実際彼女達が言っていることは嘘ではない。
最近は不作が続いており税金が上がっている。
普通に領地を管理するだけでは難しいのだがラウルは領民からさらに税を絞ることで対策をしたが、何の意味もない。
「ロバート様とヴィオラ様は貿易を広めてドレスや宝石の価格を少し上げて領民の負担を減らしているそうですわ」
「領民が過労死しては意味がありませんものね」
「ええ…同じ兄弟でも兄君は本当に優秀ですのね」
ロバートは商売が得意ではないが、ヴィオラの助言により危機的状況を潜り抜けていた。
たいした金額でなくとも五年後、十年後を見越してのことだった。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、アルスター伯爵夫人」
「聞きましたわよ。エステル嬢の噂。本当に素晴らしいですわね」
「はい?」
エステルのことなど眼中にないジュリエッタは訳が分からなかった。
「学園で大活躍だったそうで…成績は首席で白銀の騎士として迎えられたとか」
「大変名誉なことでロバート様もさぞ鼻が高いですわね。最年少で騎士科に入り、白銀の騎士と言えば憧れの的…一族の誇りですわね」
「本当に羨ましいですわ。エステル嬢は私達貴族の誇りですわね」
これ以上ない程の賛美に顔を顰めるジュリエッタ。
ヘレンのことは話題にもならないのだが…
「そういえば」
一人の夫人が思い出したように言う。
「妹君は貴族院に入られたのですよね」
「ええ…」
ヘレンの賛美が来ると思い笑みを浮かべる。
「でも…息子と同じクラスだったはずなのにお話を聞きませんでしたわ」
「そういえば、特別科の話題はお茶会でも出てもおかしくないのに」
「えっ…?」
王都の貴族院もそれなりに優秀な生徒が多いのでお茶会でも話題になるのだが、ヘレンは話題いなることはなかった。
「こないだのお茶会でも令嬢はお作品を展示するはずでしたのに、お名前がなかった気が」
(なんですって!)
初めて知ったジュリエッタは怒りを露わにする。
「奥様、お茶会に展示される作品は優秀な生徒だけではなくて」
「あら…私はてっきり」
「申し訳ありません」
ワザとらしく謝る彼女達は確信犯だった。
「来月の展示会にはきっと出品されますわよ」
「そうですわね。特別科の生徒の作品は全て出品されますし」
嫌見たらしく言われさらに苛立ちながらも必死で耐え忍ぶ。
「私はこれで失礼しますわ」
逃げるようにこの場を去っていくジュリエッタの顔はとても歪んでいた。
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