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第八話父と娘、愛の死闘
3.弱音と苦言
しおりを挟む真夜中クロードは一人剣術の稽古をしていた。
だが剣術は荒れており心も乱れており、鍛錬になって行かなかった。
「荒れているな」
「ユランか」
俯くクロード。
何時もならば舌打ちをするか、睨むか、無茶な命令をするかのどちらかだったが。
今はその余裕もない。
「どうした?そんな顔をしやがって」
「別に…」
口で言っても一切の説得力がなかった。
何時もの覇気が一切ないクロードは見ていて気持ち悪いなんて失礼なことを考えるユランだったが茶化す気にもなれなかった。
「本当にどうしちまったんだよ」
「ロバートが、俺を認めないらしい」
「だからなんだよ。お前ならそんなもん蹴飛ばすだろ」
何時もの横柄で俺様なクロードならば、諦めることはまずなかった。
「お前、エステルのことを諦めるのかよ?その程度か」
「そんなつもりはない」
「ならなんだ?くだらねぇな」
鼻で笑うユラン。
貴族の柵云々は知らないが、クロードが悩むのは常にエステルの幸せを考えてのことだった。
ユランはロバートに色々言われ、クロードの一番痛い所を突かれたのだと察する。
だが、その程度の気持ちだったならば許さない。
「お前、エステルを守るって約束を違える気か」
「そんなわけねぇだろうが!」
「お前、本当に解っているか?アイツがどんな状況にいるか…」
ユランとエステルの過ごした時間は決して長くないが、二人の間には絆が結ばれていた。
「お前が手を放せばアイツはまた心を捨てる。自分の為には二度と生きないだろぜ」
「何…?」
「俺はずっと気になっていた。アイツが何であそこまで自分に対して無関心なのか…その理由は解らねえ」
今でも時折遠くを見ては辛そうにするエステルの表情が頭から離れない。
「ここにいるのに心は別の場所にあるかのようだった」
「それは…」
「俺よりも付き合いの長いお前が知らないはずはない…アイツは自分の為に生きられないんだよ」
声を張り上げ壁を蹴るユラン。
その蹴りはクロードの頬、ギリギリに擦れる。
「家の為、王族の為…そればかっかりだ」
「ユラン…」
「アイツは幸せになることが罪のように思っている。そんなふざけた話あるか?」
貴族を好いていないユランだが、エステルを嫌ったことはない。
天然で、変に思い込みが激しくて、暴走してしまう所があっても可愛い妹分のように思っている。
何処か世間知らずでそれでいて馬鹿がつく程真面目でお人よしで、見ていて危なっかしくて。
友情以上の感情を抱いていたのは確かだった。
「お前、エステルを殺す気か」
「そんなことすするか!何で死ぬほど愛している女を殺すんだよ」
「お前がエステルと別れたら、そうなるだろうが!」
「は?」
未だに理解していないクロードに苛立つ。
普段は恐ろしい程感が鋭いのにこんな時だけ鈍いのか。
(一発殴ってやりてぇ…)
ユランは拳を突き上げようとするがクロードから意外な答えが返って来る。
「おい、俺がいつエステルと別れるって言った?」
「は?」
「俺がエステルと別れる可能性は世界が滅びてもないぞ」
「はぁぁぁぁ!!」
噛みあってない話に今度はユランが声をあげて驚いた。
「さっきまでグチグチ悩んでいただろうが」
「ああ。だがエステルと別れる気は一切ない」
「いや、今のままなら別れるのは決定的だろ!」
噂ではクロードに妃を迎える話が出ているのに何を言ってるのだろうかこの男は?と思った。
「認められなかったらその時は強硬手段に出るか、駆け落ちだ」
「何言ってんだお前は!」
エステルも時折暴走すると思ったがその上を行く男がここにいた。
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