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第一章
29.石造
しおりを挟む七つの柱に支えられた神殿の奥深くに進むと、光が灯っていた。
「蛍?」
微かに光それは、大きな扉の前で止まっている。
「ここに入れって事かな?」
そっと扉に手を触れようとした時だった。
「えっ…」
足元に光の線が描かれ、魔法陣が浮かぶ。
ギギギッ!
「扉が勝手に…」
大きな扉が勝手に開かれて、真っ暗だったはずが、リリアーナが歩くと自然に蝋燭に火がついて行く。
「あれ?風だ…」
微かに風を感じたリリアーナは海底なのに不思議に感じた。
導かれるように奥深く進んで行くと二つの石像を見つけ、近づいて行く。
「これは…」
片方は女神の像で、もう片方は三叉槍を手に持っていた。
「これは海の神様?」
聖書でも三叉槍を持つ半裸の男性は海を守護する神であると言われていた。
「すごい、こんな立派な石造が…じゃあ、ここは託宣の間かな?」
キョロキョロ当たりを見渡しも他に誰かいるようには思えない。
「偉大なる海皇様、ご挨拶も無しに宮殿に入ってしまった事を心からお詫びいたします。このような形でございますが、光栄にございます」
アンシー伯爵令嬢として敬意を持って挨拶をする。
北を守護するアンシー家は海の神々にも敬意を持って接するのが当たり前だった。
「リリアーナ・アンシーと申します」
淑女として挨拶をしながら、二つの石造を見上げる。
「もし許されるならばお二人に直にご挨拶できれば嬉しゅうございます」
きっと直に会うのはできないかもしれない。
それずれの世界を支配する三界の王は気難しく気位が高いと聞かされている。
特に海を守る王は人間と接触する事はほとんどないのだから。
今回はタロウを助けた事でたまたま、海底に来ることができたにすぎない。
「偶然ではありますが、美しい海の国に来ることができた奇跡に感謝いたします。そして今まで美しい海を見守り下さり、本当にありがとうございます」
リリアーナは返事が返ってくることはないと解っていながらも話しかけ続け、最後に挨拶の代わりに音楽を奏で始めた。
黄金のハープの旋律と共に歌を歌った。
音楽は神に語る唯一の手段とされていたが、今では迷信だと言われていたが、リリアーナは神様にお話をしたい時は必ず歌ういながら祈りを捧げた。
しかし、聖女でも巫女でもない自分が神と対話できるとは思っていなかったが、せめて祈りだけは届いてくれたらと思った。
(本当なら聖女様が奏でる歌の方が良いのかもしれないけど…)
神の愛し子とも言われる聖女が語り掛ける方が海皇も人魚達も嬉しいだろうと思っていた。
(私でごめんなさい…)
もし、聖女であれば。
きっと彼等は心から喜ぶのだろう。
ふと、切なさを感じたリリアーナは歌い終え、お辞儀をしてその場を去ろうとした。
その時だった。
海皇の石造が強い光を放ち始めたのだった。
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