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番外編
お転婆王女と苦労人皇子⑧
しおりを挟むまるで大人しくなった青のグリモワール。
「彼女が触れた瞬間、大人しくなったな」
「彼女は…」
後ろ姿しか見えなかったが傍に父親が来たことで何処の令嬢か解った。
「あのマントはバルセルク辺境伯爵か」
「では噂の治癒師か」
北の領地を統べるティエルド・バルセルクは有名だった。
騎士の鑑とも言われており、ミカエルも一目置いていたのだから。
「綺麗な髪ですわね。それに白磁のような白い肌」
「特徴的な容姿だな。それにしても彼女の魔力は…」
「優れた治癒師だ。幼いながらに母君の血筋を受け継いでいるそうだ」
ミカエルは戦場の天使と呼ばれる少女に興味を持っていた。
北の領地は厳しい土地で、医者も少なく怪我をした時に真っ先に頼れるのは治癒師だったがバルセルクの女神と呼ばれた女性がいた。
「バルセルク辺境伯爵夫人は優れた治癒師だったと聞く」
「俺も聞いたことがある。聖人として正教公国に石像が作られたそうだ。生前の功績を認められて」
治癒師として最後まで役目を全うした事で敵国からも評価されていた。
戦場で怪我人がいれば敵味方なく救い、そして魔力を使い過ぎて命を落としたと。
そしてその後継者となったのが幼い娘だった。
「立派な方なのね。ご令嬢も」
「ああ…真の治癒師は魂も美しくないとダメだ」
「腹黒のお前と、意地の悪いグリモワールだから惹かれたんじゃないか?」
「青のグリモワール」
「待て!殴る気か!」
青のグリモワールがユリウスを見た。
表情は解らないがなんとなく嫌な予感がした。
その後は言うまでもない。
青のグリモワールに殴られ散々な目にあったのだが。
まだ会話もしていないがグリモワールに愛された北の天使との出会い。
そして運命の歯車が動き出す。
リーシアの運命を大きく揺るがす事件が起きた。
国王が病に倒れ、続いて原因不明の病に倒れたルシアン。
ルシアンの胸には呪印が刻まれ何者かに呪いをかけられてしまったのだった。
「お母様!」
「はぁ…はぁ…」
既に手の施しようはなく救う事は叶わない。
呪いが恐ろしく離れる貴族達は遠目に王族は呪われていると言い始める始末だった。
「リーシア、最後です」
「最後なんて!」
「聞きなさい」
力ない言葉で必死に言葉を紡ぐ。
「国の結界が弱まっています…恐らく数年後に私のように呪詛で苦しむ者…黒魔術を利用する者は増えるでしょう」
「そんな!」
「ですが、その呪いを解いてくれる方が現れるでしょう」
何時かなんて待っていられない。
その人がいればすぐにでもルシアンを助けて欲しかった。
「いずれ教皇猊下が地上に…ですからその時はお仕えするのです」
「お母様!」
「貴女はグリモワールに選ばれたのだから…頼みましたよ」
「はい…はい!」
泣きながらも母との最期の願いを聞き入れた。
「どうか健やかに…」
「お母様ぁぁぁ!」
リーシアの悲鳴と共にルシアンは若くしてこの世を去った。
その数年後、呪詛は広まり続けた。
そして黒魔術を利用して被害が大きくなるも、呪いを解ける術者はいなかった。
呪いを緩和で来ても術者の身も危ないので我が身可愛さに救おうと言う人間はいなかった。
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