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1婚約者
その場から無理やりな形で連れてこられた私は振り返る勇気がない。
視線がチクチクと突き刺さるが無視しよう。
「大丈夫か」
「うん…」
別に今更気にしない。
もし私に社交性があったらあんな風に言われなかったのかもしれない。
教養が高くて美しい令嬢だったら。
彼女達に認められるような完璧な令嬢だったら私は――。
「今の君でいいんだ」
「え?」
「君はこのままでいい。俺はありのままの君が好きだ」
周りから氷の王子様と言われ、氷の騎士様とも呼ばれる我が婚約者殿は私に甘い。
甘すぎるのだ。
別に無責任に溺愛しているわけではない。
自分に厳しく他人にも厳しい我が婚約者殿は私にも厳しくすることはある。
でも、努力する人間を笑ったりしない。
生まれを貶めるようなこともしない。
「生まれでその人の人生が決まるんじゃない。生まれながらの高貴な人間はいないんだ」
「うん」
「国王陛下だって最初から名君だったわけがない。そうなろうと努力されたんだ」
現在我が国の国王陛下は他国からも尊敬を受ける賢王とされているけど。
そうなるには苦難の日々があったと祖父から聞かされている。
「努力をせずに親の地位でさも自分の手柄だという馬鹿に君の魅力は分からない。君はあんな汚い令嬢とは違う」
「はっ…はは」
私は自分を過小評価しているつもりはない。
でも婚約者殿は常に私を過大評価しているので少し困る。
無駄に容姿が良いこの人は、かなりの天然で時々心臓がストップするような発言をされて困るのだ。
「モニカさん」
二人で庭園を歩いていると声をかけられる。
周りの薔薇すらも霞むほどの美女で、眩しすぎると思ってしまう。
「母上」
ウェッジウッド侯爵夫人。
私の婚約者殿のお母様であり、社交界のファッションリーダーでもある。
「ここにいらしたのね?探しましたよ」
「申し訳ありません」
また貴族令嬢達に虐められましたなんて口が裂けても言えないのだけど…
「ああ、害虫は排除しておいたから。明日お茶会でどう握りつぶして差し上げようかしら?」
「おば様ぁ…」
既にバレバレだった。
私ごときが隠せるはずもなかったが、仕事が早すぎないだろうか?
「身の程を弁えない令嬢にはちゃんと指導をすべきでしょう?」
「ええ、母上」
二人の目が怖い。
凍えるような瞳で何をするか分からない。
「先日、舞踏会に持ち寄ってくださったワインは素晴らしい味でしたわ」
「ありがとうございます」
「夜会の楽しみが増えましたわ」
農村地帯である我が領地は果物も豊作だった。
特に今年は豊作の時期で来年に向けての出荷が期待できる。
お祖父ちゃんはものすごく喜んでいたし。
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