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閑話3.身から出た錆~チェイス侯爵家の場合③
しおりを挟む事件から三か月後。
今回の事件の当事者は直接手を出していなくとも厳しい処分を受けた。
特に加害者であるハルバートは生徒会、風紀委員に生徒指導の教師に今回の事件を咎められた後にしばらくの間自宅謹慎を命じ、停学処分となった。
また、無断で魔法を使った事で騎士団からも危険視されてしまった。
「何故俺が謹慎処分を受けなくてはならないんだ!納得できん」
「ハルバート様、どうか落ち着きください」
「うるさい!俺に指図をするな!」
何とか怒りを鎮めようとする若い侍女も務めるも聞く耳を持たなかった。
「おい爺はどうした?茶はまだか!」
普段なら言わなくてもハルバードの好むお茶とお菓子が用意されているのに今日はなかった。
「部屋も何時もと違う。サボってるのか!」
「すぐにお茶をお持ちします」
普段は傍付きの侍女は若さと顔だけで選んでいるのに有能とは程御遠く、真面な仕事はできない。
給仕は別の厨房係が担当しているので――。
「何だこれは!」
用意されたお茶を口をつけるも、普段のお茶とは違っていた。
「こんなまずい茶を淹れるとは!お前はそれでも侍女か!」
「申し訳ありません…グズ!」
「鬱陶しい泣くな!」
「そんな…私は!」
これまで厳し事を言われたことがなかった若い侍女は泣いて許してもらえると思い込んだが、ハルバートは見向きもしない。
「気分が悪い!馬車を出せ!」
「お待ちください!謹慎処分の身で外でては…」
侍女に目もくれず、すぐに外出すると告げるハルバートだったが、同じく年若い従者が止めに入る。
「学園に行かなければいいだけだろう」
「そういう事ではなく…」
「あんな低次元な連中と俺が同じ場で学ぶことはない。それよりもナターシャを迎えに行く」
完全に勘違いをしているハルバードに従者は絶句した。
謹慎処分とは、自宅にて反省をする意味を持っているのに、外に遊び歩いては意味がない。
「ハルバード様!」
「ええい!邪魔だ!」
「ぐっ!」
止めようとする従者を腹部を蹴り、そのまま外に出て行くも。
「おい、馬車を…」
普段御者として馬を引いている使用人を呼びつけるも誰も来ることはなかった。
それどころか普段使っている馬車がなく辻馬車だけしか置かれていなかった。
「これはどういうことだ!何故馬車がないんだ」
「普段使っておられた馬車はユーモレスク家の物でしたので。婚約が白紙になり引き取りに来られました」
「何だと!では他の馬車を…」
「侯爵家の馬車は辻馬車しかございません」
「馬鹿な!」
これまで金銭的な援助を頼り切っていたハルバートは知らなかった。
チェイス侯爵家は馬車すら新調するお金もなく、立派な馬車はユーモレスク家と懇意な商人が婚約祝いに送ったのだと。
婚約が白紙になれば当然、ジゼルの為に用意した花嫁道具と一緒に回収される事をまだ知らずにいた。
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