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番外編1:師匠を探して(5)
しおりを挟む最近、お金が足りてない事は、なんとなく分かっていた。
「え、聖王国に行く?なんで?」
「ちょっとアッチじゃないと買えない武器があってさ」
絶対ウソだ。
きっと、聖王国に行くのも、きっと金の問題のせいだ。師匠は、自分には家族は居ないって言ってたけど、でも“何か”はある筈だ。
だって、師匠が何度か大鷲を使って聖王国と手紙のやりとりをしているのを見た事があったから。
「ほら、子供が金の事なんか気にすんなよ。気にせず腹いっぱい食え」
でも、俺が何を言っても師匠は金について何も言ってくれない。
出会った頃に約束通り、師匠はずっと、俺達をお腹いっぱいにしてくれた。子供が十二人だ。きっと相当金がかかったに違いない。
「……なんで、俺には何も言ってくれないんだよ」
この頃になると、俺は改めて気付く事があった。
甘えるのも良いけど、師匠に甘えて貰えるのはもっと気持ちが良い事だって。たまに、二人でお互いの体に触れ合う時、師匠が甘えたように擦り寄ってくると、いつも以上に興奮してしまう。多分、師匠はそんな自覚ないと思うけど。
じき、俺も十八になる。十八と言えば、もう成人だ。俺もやっと大人になれる。
「師匠が帰ってきたらさ……もう俺、成人だし。一緒にお酒飲もうよ」
「へ?」
「ね、お願い。俺、師匠と酒が飲みたい」
一人で聖王国に向かうという師匠に、俺は一つだけ約束を求めた。帰ってきたら、一緒に酒を飲もうって。酒が飲めたら大人だなんて思ってない。ただ、師匠が酔っぱらったら俺にも甘えてくれるんじゃないかって思ったから。
だって、街の奴らと酒を飲んだら、いつも以上に女が俺にくっ付いてくるから。もしかしたら、師匠もあぁなるかなって。
女にされたら鬱陶しいだけだけど、師匠がしてくれたら最高だ。
きっと凄く可愛いと思う。
聖王国に向かう師匠の背中を見送りながら、俺は既に師匠に会いたくて仕方がなかった。師匠とは一緒に居る時も、ずっと会いたいと思ってる。いや、コレはちょっと変だ。会いたいんじゃなくて、ずっと一緒に居たい、だ。
あぁ、どうすれば俺は師匠とずっと一緒に居れるだろう。
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「シモン、俺は世界を守る勇者になりたかった」
師匠が居なくなってから、俺はたくさんの人を殺した。
師匠を傷付けたヤツ、俺の邪魔をするヤツ、目障りな奴、鬱陶しいニセモノも。
ソイツらは全員“魔王”だ。
だから、全員殺した。
師匠に会いたくて、師匠に褒めて貰いたくて。
でも、なんとなく気付いていた。コレは師匠が望んでる事じゃないって事は。どこで道を間違ったのかは分からない。
でも、もう俺にはどうしていいのか分からなかった。
だから、師匠に剣を向けられた時、やっぱり俺は「ダメ」だったんだと悟った。
きっともう、師匠は二度と昔みたいに笑ってくれない。パンを焼いてはくれない。眠れない夜に抱きしめて体をさすってくれる事も、怪我して心配そうな顔を向けてくれる事も、俺にだけ体を擦り寄せて甘えてくれる事も。
もう、二度とないんだ。
そう、思ったのに。
「シモン、俺にはお前しか居ない」
そう言って俺に向かって膝を付く師匠を前に、俺は真っ暗だった目の前が一気に開けるのを感じた。師匠が居る。俺の前に、師匠が居るんだ!
「これまでも。そして、これからも。俺はお前の傍に居る。ずっと一緒だ」
「師匠……それって、師匠の中で、俺が一番って事?」
出会った頃と同じ、俺を見て嬉しそうな顔をする師匠が、そこには居た。
------やばッ、もう見つけちまった!ラッキー!
------シモン、俺は運が良かったよ!こうして、お前に会えたんだからな?
昔のように、俺に会えて幸運だと言わんばかりの、心底幸福そうな顔で。
「一番で、唯一無二って事だよ。シモン」
この瞬間、俺はハッキリと理解した。
俺は、また師匠に救われたんだ、と。
おわり!
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シモンが師匠に酒を飲ませていやらしい事をする話が……書きたいな(まがお)
応援ありがとうございます!
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