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第2章:生酔い、本性違わず

89:値段もアルコールも高い酒

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「で?俺に何か用か」

 アバブの背が見えなくなるまで見送ったところで、俺は隣で既にいつもの調子で軽い表情を浮かべるバイに向かって問うた。

「用?まぁ、無い事もないけど、暇だから来たと思ってもらって構わねーよぉ」
「用がないなら俺は帰るぞ」
「へぇー、そんな事言っていいのかなぁ。今日は俺、お前にめっちゃ良い酒準備してあるんだけどなぁ。どう、アンタの家で飲まない?」

 言いつつ、バイの手には何の荷物もない。一瞬“良い酒”に反応してしまったが、コイツの言う事は常々当てにするべきではない。それに、何故わざわざ俺の家なんだ。
 俺はまだ昨日の夜コイツが俺の家でしでかした“粗相”を忘れた訳ではない。

「お、今。“良い酒”に反応したなぁ!お前ほんと、わっかりやすいねぇ!あんまし覚えてないけど、俺昨日迷惑かけちゃったみたいだし、お詫びとお礼だよぉ!ちゃんとブツはこの近くの酒場で予約済だって!」
「……本当だろうな?」
「俺、嘘つかなーい!しかも、あんたの朝露のような微かな給金じゃ絶対に買えない酒を準備済だよ!喜べアウト!」

 そう、どこか芝居じみたような大仰な動きで俺の前で舞うように動くバイに、俺は未だに信じられずにいた。
 確かに、こいつらのような騎士の給金は俺とは違って破格の額なのだろう。けれど、昨日の詫びで酒を用意するのに、何故わざわざ俺の家を指定するのか。

「怪しい。お前の事はこれっぽちも信用できないね!」
「ハイハイ。それなら、ひとまず酒場に酒を取りに向かえば信じてくれるのかなぁ?」
「だいたい、なんでわざわざ俺の家なんだよ!酒場で予約してるならそこで飲めばいいだろ!」
「そんなの決まってんじゃん!」


------ゼツラン酒の最高級酒ポルフペトラエアを用意したからだよ!


 そう言って目をキラキラさせて腰を折って俺の目の前に顔を寄せてくるバイに、俺は一瞬でコイツの言いたい事を理解した。

 ゼツラン酒。
 それは、酒の中でもアルコール度数がダントツで高い、別名酒飲み殺しと呼ばれる種類の酒だ。しかも、ポルフペトラエアと言えば確かに最高級のゼツラン酒として、酒を飲まない人間でも名前くらいは聞いた事がるという程有名な酒ではないか。

「おま、まさか……ほんとか?」
「ほんと、ほんと!こんな強い酒、外で飲んだら潰れて寒空の下で二度と朝を迎えられなくなるかもじゃん!」
「た、確かに……けど、お前。ほんと、そんなアルコールも値段も高い酒をなんで?だってお前」

------死ぬほど酒、弱かったじゃん!

 俺は叫びながら、昨日の夜にフッと思考を飛ばした。

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