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第2章:生酔い、本性違わず
128:差異の生むもの
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俺の目の前で2つの美しい星がぶつかりあっている。
「まさかとは思ったよ?まさかとはね!まさか、まさかアウトとあんな風に笑い合っている男が、まさか石頭のウィズなんて思わないじゃないか!あー!休日までキミの顔を見る事になるなんて、なんて1日なんだろうね!」
「勝手な事を言うんじゃない。こちらも、お前のような仕事中まで飲んだくれているようなヤツに、休日まで会う事になるなんて、不愉快だ」
未だに続く言い合いを横目に、俺はと言えばグルフ肉のオラフを今度こそ大口を開けて齧りついていた。
あぁ、あの日食べる事の叶わなかったオラフが、やっと俺の元へと来てくれた!君はこんなにも柔らかくて美味しいソースに浸かりきっていたんだね。おいしいったらないよ!
しかも、今日のオラフはウィズの奢りだ。
いや、俺がねだった訳ではない。俺はちゃんと自分で払うと言ったのだ。ただ、それに対しヴァイスに怒り心頭だったウィズが、そのままの勢いで俺に言ったのだ。
-------貴様は黙って俺に奢られていればいいんだ!アウト!
“貴様”なんてウィズから初めて言われた。いや、むしろ誰からも生まれて初めて言われた。
その瞬間のウィズは少しだけ暴君、いやハイスペイケメンのようだった。これはアボードの専売特許だと思っていたが、実はウィズの中にもちょっとだけハイスペイケメンな一面があったようだ。
ただ、言った後すぐに「しまった!」と言う顔をするから、アボードとは違って可愛らしいと思える。こんな美しい人間を捕まえて可愛らしいもないと思うのだが、俺は確かにそう思ってしまったのだから仕方がない。
「というか!なんで貴様まで俺達と一緒に此処に座っているんだ!?」
「僕だってお腹が空いたし、もともと僕はこの店で昼を食べるつもりだったんだ!キミが僕の真似をしたんじゃないか!」
「子供みたいな姿で子供みたいな事を言うんじゃない!紛らわしい!」
なので、俺はウィズから奢ってもらった、いつもよりもおいしく感じられるオラフを食べながら目の前の楽しそうな会話に聞き入っている。
ウィズもこんな風に、誰かと子供っぽい喧嘩をするのだと思うと興味深いし、何より大人が子供相手に本気で喧嘩しているように見えて、なんともウィズにとって分が悪く見えるのも面白い。
「ねぇ、アウト。なんで君がこんな頭の固いジィさんと付き合ってるのか教えてよ!こんな風流心の皆無な人間と付き合っていたら、キミの素敵が吸い取られてしまうよ!」
「おい!ふざけるな!俺よりも年上の癖に、俺をジィさん扱いとは納得いかん!」
「ヴァイスって何歳なの?」
「ひみつだよー!僕はアウトにとって謎の多い男でありたいからねー!」
そう、ニコニコしながらヴァイスは自身の手元にあるオラフに齧り付いた。俺のオラフはグルフの肉をたっぷりのソースであえた食べ応えのあるモノだが、ヴァイスのオラフは野菜しか挟まれていない。あれで満足できるのだろうか。
「アウト、この一見人畜無害そうな幼顔に騙されるな?コイツは俺が教会学窓に入学した時から、ずっと変わらずこのナリだ。いくら若く見積もっても中身は30代、いや40代は固い」
「おい!勝手に僕の年齢の予想値を絞るんじゃないよ!石頭のクソジジィめ!僕が言ってるのは心の若さだ!お前の心はもうシワシワで何の感動も感じ取る事はできないだろうね!」
ベーッとウィズに向かって舌を突き出すヴァイスの様相は、どう見ても10代半ば。行動も言動も含め、いや、そんなに年上だとは思わなかった。
俺は思わず空いた口が塞がらないまま、ヴァイスの顔をジッと見つめた。お陰で、持っていたオラフの中から、グルフの肉が皿の上へとボトリと落ちる。
「ほらー!それみたことか!アウトが僕を見る目が変わっちゃったじゃないか!だから嫌だったんだよ!神官って知られるのも、年齢の事を言われるのもさ!」
「事実だ。受け止めろ」
「もー!」
ヴァイスの言葉に、俺はあんぐりしていた自身の表情にハッとしてしまった。
確かにそうだ。
“神官”は誰もが知る高位職であり、この世界を統一支配するビヨンド教に仕える者達だ。きっと“神官”だと知られて、それまで築き上げてきた大切な関係が崩れてしまった事が、ヴァイスには何度もあるに違いない。
予想でしかないが、ヴァイスのこの若すぎる容姿も、きっと神官絡みの“何か”なのだろう。
「ヴァイス……」
大多数の他者と圧倒的に異なる事。
その他者との“差異”が良かろうと悪かろうと、そこから生み出されるのは大多数からの奇異の目だ。俺がマナの体内保有値が皆無で、前世のない人間である事と、神官である事は、もしかしたら根本的に大差ないのかもしれない。
「ヴァイス。俺はヴァイスが神官だからって別に見る目を変えたりしないよ。俺は別に神官にして欲しい事なんてないし。それに俺だってよく年齢より若く見られるんだ。こないだなんか、年齢を言ったらウィズにびっくりされたよ!他の友達からは大笑いされるし。だから、なんにも変わらない。俺にとって、ヴァイスは歌の上手な吟遊詩人さ」
「……アウト!」
俺がどうにか必死にヴァイスに自分の心を伝えきると、そこには目を潤ませてキラキラと光を放つヴァイスの顔があった。
あぁ、こんな表情を浮かべられるのは本当にヴァイスの心が純粋だからだろう。確かに、多くが前世の記憶を持つこの世界で、生きて来た年月というのは余り関係ないのかもしれない。ヴァイスは心の年齢はきっと純粋な幼い子供と同じに違いない。
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