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第二章

第9話『休みだがダンジョンで金策しないと』

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 土曜日午前10時。

 無機質な廊下――ダンジョンへ続く通路を進む。
 靴の音をパタンッパタンッと鳴らしながら。
 
 もしも俺に物語の登場人物達のような特異能力があったのなら、覚醒することがあるのだとしたら、どれだけ楽しい人生だっただろうか。
 しかし、こうして嘆いているということは俺にそのような能力は一切なく、地道にモンスターと戦闘し、レベルアップを繰り返していくしかない。
 
「若いのに随分と熱心だな。今日はどれぐらい潜るんだ?」
 
 お世辞にも若いとは言えない、30代前半ぐらいのいつもの門番に声をかけられる。
 俺と一緒でかなりの軽装。
 門番と言うよりは、まるで交通整備をしている人のよう。

「あーえー、いつも大体……いや、適当です」
「なんだよ歯切れが悪い。てか、若いんだからもっとシャキッとしろよ。そんなんじゃダンジョンであっさりとくたばっちまうぞ」
「シャキッ。こうですか」

 俺は姿勢を正すことなく、ただ言われた通りに言葉だけを吐く。
 覇気のない目をしているのは理解しているし、言葉と行動が噛み合っていないというのも理解している。

「お前、友達いるんか?」
「どうでしょ。今のところ、微妙です」
「はぁ……まあいい、今日も死ぬなよ」
「ありがとうございます」
 
 俺は軽く一礼し、開放されている門の中へ足を進めた。

 門を跨ぐと、正面から空洞音が耳を叩き、風が俺の肌を撫でる。
 湿っていれば不快感を覚えるが、カラッとしていることからそんなことは思わない。
 むしろ、どちらかというと心地がいい。

「よし」

 こめかみに貼ってはある小型端末に触れ、起動。

『お疲れ様です。本日のご予定はいかがなさいますか』
「そうだな。最低でもレベルは1ぐらいあげたい。だが、第一は金策だ」
『わかりました。では、モンスターの対象は格下に、効率を求めて――乱狩りといきましょうか』
「わかってるねぇ」
『当然です。私はカナリア。暁様だけの最高のアシスタントです』
「おー、言うじゃないか。頼りにしているぜ」
 
 本当にアシスタントAIなのか、と疑問を浮かべずにはいられない。
 こうして話している時でさえ、まるで本物の女子と話をしているかと錯覚してしまいそうになる。

 最後の準備、腰から棒状の筒を取り出す。

 そして、早速カナリアが標的として設定したモンスターが生息する方向へ導いてくれる。
 といっても、視界――空中を若干だけ赤く染めて方向を教えてくれるだけで、自分の足で進まなければならない。

『討伐クエストの申請を完了いたしました』
「さすがは手が早い。助かるよ」
『ありがとうございます』
 
 よし、これで指定されたモンスター数を討伐することによって報酬を得られる。
 こういうところはゲームのシステムと同じだ。

 しかし、現実世界にも魔石みたいなのとかドロップアイテムみたいなのとかあってくれたほうが、もっといろいろと楽しめるんじゃないかなぁって思う。
 まあでもそんなものがあったら、ドロップアイテムをどこに収納するんだ、と言われると困ってしまうが。

「そろそろ始めるか」
『できる限りアシストします』
「ああ頼んだっ!」
 
 俺はそう言い終えると同時に、前へ勢いよく飛び出す。
 攻撃対象は、【スネーカー】――見た目はただの少しだけ大きい蛇だ。

「はあぁっ!」

 握る棒状の筒から、光が伸び、蛇を光剣で一刀両断する。
 血飛沫を……上げることはなく、空中で灰のようなものになって爆発四散。
 質感等は地上で生息している蛇と大差ないというのに、こういうところは妙に現実味がない。
 
『背後、来ます』
「おうっ」
 
 俺は振り向くと同時に後方へ光の剣を薙ぐ。
 当然、無造作に斬りつけたわけではない。
 視線が追いつくと、既に灰となった【スネーカー】を確認。

「助かった。カナリアがいれば百人力だ」
『お褒めに預かり光栄です。そう言っていただけるともっとやる気が出てしまいます』
「その調子で頼むよ」

 この端末から、空中にモニターを出力している。
 詳しい技術は分からないが、AR技術だかそんな感じだったはずだ。
 そして、カナリアが近辺のモンスターを感知、位置情報を共有してくれる。
 これがもう便利すぎて1ミリのズレもないため、今のように視界を頼らずに攻撃が可能というわけだ。

『次、来ます』
「バンバン行くぞ」

 一体、一体と討伐していくと、モニター端に表示されている目標討伐数が減っていく。

 合計20体か。

 金策だというのにこれではあんまり稼げない。
 俺の体調を加味してくれた――いーや、違う。
 よく見てみると、同クエストが重複しページ数が表示されている。
 その数、5ページ。
 つまり、合計討伐数が100体となるわけだが……。
 
 まあいいか。
 俺が最初に金策と言ったんだから。
 
「はっ!」
 
 手を抜いている訳では無いが、一撃で倒せるかつアシストをしてもらっているから余裕がある。
 視界を右斜下に運んで経験値を確認すると、やはりかなり微量だ。
 一撃で討伐できるモンスターなんだから当たり前なんだが、次のレベルアップまでに必要な経験値は2000。
 こいつらの一体あたりの経験値は45。
 要望通りにレベル1上がるし、クエスト一つで1000円。

 今回のところはこれぐらいが妥当だな。

 午後にまたやればいい。

「このペースだと大体2時間ぐらいか。カナリア、最後まで頼んだぞ」
『私は暁様の最高のアシスタントです。お任せください』
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