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第二章

第11話『こんな不具合なら大歓迎なんだけど』

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 帰宅したら寝るつもりだったが、熱が冷めきらずにゲームにログインしてしまった。

「ずっとカナリアと話をしていたから、ちょっと寂しいな」

 新しい街に到着してから、復活拠点を再設定した。
 本当だったらそのまま街探索や狩り場調査をするべきだったんだが……もうその頃には2時になっていたから諦めてログアウトを選択。

 そして今、夜には味わえなかった街の風景を楽しんでいるんだが、残念ながら最初の街と大差ない。
 それどころか全体的に縮小されている気がする。

 行き交うプレイヤーの少なさに酔いしれ、例のごとく設置してあるベンチに腰を下ろした。

 ステータスを開く。

 レベル25
 耐久力25
 攻撃力25
 防御力25
 敏捷力25
 魔撃力まげきりょく25
 素統力そとうりょく25

 自由値じゆうち25


 なんだかなぁ。
 みんなでボス攻略をしたあの楽しさは今でも覚えている。
 あの2人とは今でもパーティを組みたいと思えるし、今頃何をしているんだろう、なんてつい考えてしまう。

 しかし、解せないこともある。
 それは、経験値取得総量の少なさ。

「はぁ……」

 ついため息も零れてしまう。

 だって1人で【スネークアダー】を討伐した時は、たったの1体を討伐しただけなのにレベルアップした。
 しかしパーティを組んで3体を討伐したあの時、ギリギリレベルアップしないほどの経験値になってしまったんだ。

 経験値分配システムが採用されているまではいいんだが、あのなんの仕事もしていないあいつ・・・が正当に経験値分配されているということになる。

 そんなことがあっていいのか……?
 システム的なことだから、文句を言っても仕方がないんだが……くっ。

「あれ……? なんでこれがまだあるんだ?」

 記憶に新しくこのゲームにしかない要素である、ゲーム内に現実のレベルが反映させられる項目。
 これは一度だけのはずだから、もしかして不具合が起きてしまっているのだろう。

 まあこのゲームも始まったばかりだし、こういうこともあるよな。

「でもちょっと、一回だけ……一回だけなら……」

 この好奇心は抑えられない。
 大体こういう不具合は、勘違いで押してしまったプレイヤーとかを含みロールバックされる。
 その行為自体にどのような意図があったかは確認が取れないため、咎められることはない。

 悪用さえしなければ。

「ポチッとな」

 項目を押すと、すぐに【更新中】の文字。

 褒められたことではないと理解しつつも、ちょっとだけわくわくしてしまう。
 だって、一時だけでも高レベルになれるんだ。
 夜も遅いし、このまま狩りに行くわけでもない。
 どうせ寝て起きたら元通り。

 えーっと……現実のレベルは26になって、ゲーム内のレベルが25。
 この更新が終われば、レベル51になるのか!

「ふふっ」

 誰もいないからか、つい嬉しくて笑い声が漏れてしまう。

 そして、【更新完了】の文字が表示された。

「よしよし」

 期待に胸を膨らませて再びステータスを表示。

 すると、

「え?」

 ワクワクドキドキで覗くも、そこに表示されていたレベルは51ではなく、27だった。

「なんの数字だよこれ」

 想像していた数字ではなかったというのもあるが、この数字がどこから来たのかが理解できない。
 不具合を利用しているのだから、さらなる不具合を誘発した、という線が妥当な落としどころな気はする。

 真っ当なことをしているわけじゃないから、ここで落ち込むのは違うんだが。

「さて、狩りに行くか」

 ここから経験値を取得したところでロールバックされるなら意味はない。
 だが目的はそこではなく、モンスターとの戦闘をしたい欲が未だ収まっていないから、寝る前に少しだけゲームにログインしたんだ。

 ◇◇◇

 狩場に向かう最中、謎のレベルについて考えた。
 しかし答えは出ず。

 そして目の前にモンスターが出現。

 剣を抜刀し、構える。

「悪いが、これは消化試合だ。悪いな」

 こちらを威嚇している【テールラット】に向かう。

 レベルは10。
 今のレベル的には何一つ脅威ではなく、風船ぐらいのもふもふした体から長細い2本の足で自立し、名前にもなっていて攻撃手段でもある長い尻尾を生やしている。

 攻撃をしっかりと当てれば、一撃で終わるような相手。

『キュウッ』

 鼠らしい甲高い鳴き声に2本の前歯をむき出し、どちらかというとかわいい部類に見えて仕方がない。
 だが――。

 経験値獲得。

 ダッシュからの剣突きだけで【テールラット】は消滅。

「まあそうだよな」

 レベル的に当たり前だが、どこでも街周辺のモンスターはかなり弱めに設定されている。
 一撃だろうが経験値が少なかろうが、後30体ぐらいは狩りたいな。

 ただの自己満足だっていいじゃないか。

 ダンジョンで味わった高揚感を鎮めるには、これぐらいでちょうどいいんだ。

 ◇◇◇

「やっべえな、もう3時かよ」

 ログアウトした俺は、トイレを済ませて時間を確認して絶望する。

「今日で休みは終わりだし、はぁ……月曜日は辛いな」

 電気を消して再びベッドに寝転がる。

「――ん?」

 顎が外れそうになるぐらい大きなあくびをした後、通知に気づく。

 普段は誰からも通知が来ないから珍しさを感じるも、どうせ有坂からの何かだろうと思いながら通知を開く。
 すると、

『暁くんこんばんわ! 私、鈴城すずしろ奏美かなみだよ。急にごめんね……おでかけした帰りに、奈由ちゃんから暁くんの連絡先を教えてもらっちゃったの』

 申し訳なさそうなスタンプが添えられている。

『もしも暁くんがよかったらお話できないかなって思って連絡しちゃいました。後、相談したいこともあって。時間がある時に返信してもらえると嬉しいな』

 という連絡が入っているのが、22時。

 その頃はセンターで汗を流したり休憩をとっていた時間だ。
 まさか誰かから連絡が来ているとは思ってもみないから、確認することすらしていなかった。

「これはヤバいぐらいの無視っぷりになっちまったな」

 しかし今から連絡を返すわけにもいかず。
 まあ明日は学校なんだし、謝ればいいか。

 今はもう何も考えられない。
 眠すぎ――。
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