若年最強の陰陽師はノリで婚約した女神様から服従を迫られている

星井ゆの花

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第1章

第26話 迫り来る因果は台風のごとく

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『接近中の台風は、勢力を強めながらゆっくりと北上しており……週末には本州に上陸する可能性があります……』

 連休明けの夜のニュースを、居間で家族とともにぼんやりと眺める。旅行の疲れが出ているのか、はたまた大きなクエストがひと段落して気が抜けたのか……頭に情報が入ってこない。
 ソファに背を預けてダラリと温泉饅頭を頬張る。隣にはスイレンがぴったりとオレにくっついて、ご機嫌な様子。同じに温泉に行ったはずなのに、スイレンは肌がツヤツヤで気力にも満ちているようだ。

「お兄ちゃん、この温泉饅頭美味しいね。地元のお茶とも相性がいいし……また次に行くことがあったら買ってきて!」
「ああ、そのうちな……しかし、神域の温泉って本当によく効くよな。慢性の筋肉痛があっという間に治っちゃったよ……。その代わり、なんだかボーッとしているけど……。身体の中のデトックス効果が凄いって感じで……」

 すると、謎の脱力感に襲われているオレをニタニタとした目で姉がからかい始める。

「へぇ……温泉に入って、新陳代謝が良くなったのかしらねぇ。っていうか、2人っきりのデートで張り切りすぎたんじゃないの? スグルってむっつりスケベっぽいし……。スイレンちゃん……なんか、スグルの愛情が重いとかしつこいとか、ネチネチと粘着質っぽいとか感じた?」
「いえ、スグルどのはいつも優しくて……。それに妻として、スグルどのの愛情は余すことなくすべて受け止めて行く所存です。めおと茶碗セットも買ってもらえたし……」

「うっ……ゲホッゲホッ! 姉ちゃん、誤解を招くような言い方するなよ! ……そんなに粘着質なイメージか? オレ。スイレンのこと、すごく大事に扱っているんだからっ」

「あはは……ごめん、つい……。もしかしたら、好転反応ってやつかもしれないわね。身体が良くなる前に今までの悪いものが排出されるっていう……。無理しないほうがいいわよ」
「はーい」

 一応は姉に気遣われて、取り敢えず返事をするがやはりダルい。だが、身体は着実に良くなっている。

 パクリと頬張る温泉饅頭は、甘すぎないあんこが程よく、男のオレでも食べやすい。あったかい緑茶とも相性抜群で、妹が気にいるのもよく分かる。

「……それにしてもお茶の時間がこんなに楽しくなるとは……ふふふ! 心なしか、異界で飲むお茶よりもさらに美味しく感じるし……」

 にこにこと機嫌が良いスイレン。スイレンの手には、温泉旅館で購入しためおと茶碗セットについていた湯呑みがしっかりと握られている。何となく買ったものだったが、喜んでもらえて良かった。

「ところで、スイレンお姉ちゃんも地元のお茶、気に入ってくれたんだね! この辺りは田舎だけど、お茶の産地だからいつも美味しいお茶が調達できるんだよ」
「ふむ……通りで美味しいと思っていたら……そんなに緑茶の産地で有名だったとは……」
「うん、そっか……異界にまではまだ地元のお茶の知名度が届いていないんだね。じゃあ私が、もう少しアピールしないと……!」

 なぜか、謎の地元愛に目覚めている妹アヤメ。だが、現世にまだ慣れていないスイレンにこのあたりの環境について知ってもらうチャンスなのかもしれない。

「いい機会だから、アヤメがこのあたりについて説明してくれるとありがたいんだけど……。ほら、オレって口下手だしさ」

「うん、いいよ! 私たちが住んでいる地域は、いわゆる本州の真ん中あたりのところで、特にうちの県はお茶の産地なの! 家神荘の周辺は山ばかりだけど。バスで山を下りて駅から電車で海のそばにも行けるし、新鮮なお魚も漁港から引き揚げられているんだ!」
「海の幸、山の幸……さらにお茶まで……食べ物には困らぬな……良いところに嫁いで来て良かった!」

 なんだかざっくりした説明だが、まぁそんなもんだろう……いやもっとアピールできるポイントがあるか?

「えっと……それからねぇ……。ちょっと移動すれば富士山が見える絶景ポイントがたくさんあるの! 温泉地にも行き放題だから、スイレンお姉ちゃんの身体が現世に馴染んだら現世の温泉にもたくさんいけるよっ」

「富士山が見えるとは! スグルどの達は生まれた時からこの辺りに?」
 そういえば、ここに住むまでの細かい経緯はスイレンに話していなかったな。

「いや、生まれは隣の県の……富士山のふもとの湖のあたりだよ。オレが小学生の時にこの町に引越してきたんだ。ただ、術師の祖父が元々住んでいたから長期休暇の時には、別荘に遊びに来ていて……陰陽師の勉強もそのくらいからし始めたんだよ。顔見知りも多いし、オレが正式な家神一族の跡継ぎに決まって、改めて引っ越して来て……って感じかなぁ?」
「この辺は、いわゆる修験者達の子孫が集まる地域だから……。跡を継がない場合のことを考えて、うちの親がちょっぴり距離を置いていたのよ。たまに、陰陽師の子孫でも術が使えない場合があるし……私みたいにね」

 本当は……1巡目の世界では、ツグミ姉ちゃんやアヤメにも術力があったはずだが……。死に戻りをした際にパワーが尽きてしまったようで、現在は姉も妹も術師ではなくなってしまった。
 特に姉は特定スキルの能力者として優秀な術師だったのに、申し訳ないことをした。オレの家神としてのチカラが充分だったら……。

「あーあ、もし無理矢理でも術師になるなら、自分で式神様を探して初代契約を結ぶしかないかなぁ? ほら、倉庫で発掘したお札!」
「はっっ? 自力で契約する気……自分が初代として?」

 意外な展開に、思わず声をあげてしまう。てっきり、姉はもう術師として動くことはないと思っていたのだ。だが、手にはしっかりと式神様の契約札が握られている。まさか、式神様の方から姉の元へと戻ってきたのか?

「そっ! 気のせいかもしれないけど、なんか私ってたまに自分がイケてる術師だった記憶が蘇って来るのよね。もしかして、前世の記憶ってヤツ? だから、先祖の契約に頼らずに自力で式神様と契約して……術師デビューしちゃおうかなって!」
「まぁ自由だけど……最初は無理しちゃダメだぞ、ツグミ姉ちゃん……」
「よぉし! 今日は満月で日も良いし、善は急げで今から契約しちゃおう! ちょっと、契約の間に行ってくるっ」
 ぱたぱたと、契約用の部屋にかけていく姉ツグミ。まさかの術師として復活のフラグに驚きを隠せない。

「あっ姉ちゃん……行っちゃったよ……。そういえば、姉ちゃんに平安時代の陰陽師一族の歴史について聞くの忘れちゃったな……。いや姉ちゃんが術師デビューを決めてからの方がいいのか」
「んっスグルどの、平安時代の陰陽師一族って……?」
「ああ、陰陽師って実は歴史上から記録が消えているだけで、たくさんいたらしいだろう? どんな派閥があったのかちょっと気になってさ……。急ぎじゃないから、そのうちでいいよ……」

 すっかり忘れていたが、昨日の何だか嫌な感じの夢。万が一、我が家に対する呪いの何割かが古い平安時代からの因縁がらみだとすると……そのうち対策を練らなくてはいけないだろう。

 姉が陰陽師として復活をはかっているのも、直感のようなものが働いているのかもしれない。


 古い平安時代からの因果はまるでゆっくりとした速度で迫る台風のように、静かに大きく家神一族に近づいているのであった。

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