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正編 第一章
第17話 助けてくれたお礼を貴女に
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幻の予言の書、即ち乙女ゲームの攻略本や魔法の楽器など、ルクリア達が狙っていたものは密輸入組織の騒動が原因で、結局出品されなかった。
「では、これにて本日のオークションを終了致します。ご参加頂き誠にありがとうございました。また、次回お会いしましょう!」
パチパチ、パチパチ、パチパチ!
事件の後という不穏な空気の中で、明るく司会進行を務めた男に皆が拍手してオークションは幕を閉じる。
けれど、ルクリアは今朝方に欲しいと語っていたもの、正確には生き物が手に入り嬉しそうだった。冬には欠かせない暖かなコートの素材としても知られるモフモフ、つまりミンク幻獣である。引き渡し先のバックヤードでミンク幻獣を受け取り、簡単な契約を済ませてオーナーと待ち合わせをしている特別ルームへと向かう。
「……それで、キミはお父さんから貰ったブラックカードの軍資金で、そのモフモフ幻獣を手に入れたわけだが」
「もうっそんな言い方しなくても良いでしょう。ギベオン王太子は、ミンク幻獣が苦手なの?」
「いや、そういう訳じゃないんだが。ちょっとソイツ馴れ馴れしくないか」
普通のペットを運ぶ場合は連れ歩きではなく、移動用のカゴか何かに入れて運ぶのだが。幻獣はとても頭が良いらしく、契約魔法を施した首輪さえ付ければ、飼い主を認識して連れ歩きが可能だという。
「もきゅ、もきゅきゅ……!」
「うふふ、可愛い」
ミンク幻獣は犬のようにリードで歩くのではなく、ルクリアの胸に抱っこされているので、一般的な連れ歩きではないのかも知れないが。
行きと違いルクリアを独占出来なくなってしまったギベオン王太子は、ミンク幻獣が邪魔なのか終始不機嫌そうだった。
「以前から思っていたんだけど、キミは小さな生き物に甘すぎるんだ。ほら、事件の時だってあの財閥御曹司の弟君のために、柄の悪い連中と一悶着あったんだろう? 特に男は狼なんだ……いや今はまだ小さくても。あの小さなネフライト君だって、何年かすれば……いつかお兄さんに似たイケメンに成長して……キミの恋愛対象になってしまう」
まさか、まだギベオン王太子がジェダイト財閥のネフライト君を気にしているとは夢にも思わなかったルクリアは、目を丸くして隣のギベオン王太子を見る。気まずそうな、気持ちを探るような態度のギベオン王太子はちょっとだけ子供っぽく映った。
本音の部分では今すぐに恋愛対象になるであろう、お兄さんの方のアレキサンドライト氏を気にしているのだろうが。流石に直接的に兄の方を話題にするのは不味いと思っているのか、中学一年生の弟のネフライト君に焦点を当てている。
実際の年齢差だけで考えると、ネフライト君とは三歳しか年齢差はなく、兄のアレキサンドライト氏は八歳も歳上だ。けれど、見た目年齢の問題でまだ子供のネフライト君は、ルクリアと恋仲になるようにはとてもじゃないが見えず。一方で兄のアレキサンドライト氏は、ルクリアとカップルに見えてもおかしくない容姿だった。
「ふふっ。ネフライト君がお兄さん似のイケメンに成長して私の恋愛対象になる前に、ギベオン王太子が私と結婚してくれればそれで解決よ」
「……! 済まない、それもそうだな。僕とキミは婚約しているんだから、未来は然るべきしてそうあるべきだ。うん……」
ルクリアなりにギベオン王太子の不安を解消する答えを出したつもりだったが、かえって気まずい雰囲気になってになってしまう。
自分達を待ち受ける未来は、乙女ゲームのシナリオ通り破局なのだと、何処かで諦めているような気がして。
「未来といえば、攻略本……オークションに出品されなかったわね。やっぱり、未来の予言書なんて言われているし、他にも狙っている人がいたのかしら」
「おそらくは。まぁ、これからだアレキサンドライト・ジェダイトさんにオークションの事後報告に行くわけだし。気になる点は、その時に訊けばいい。もし、キミが攻略本について人に話すのが嫌なら、今回はそのモフモフのことだけ報告してもいい。キミ次第だよ」
* * *
改めて呼ばれた特別室では、既にジェダイト兄弟が揃ってルクリア達を待っていた。兄のアレキサンドライト氏が、洒落たレース柄の白い封筒を二通手にしている。
「やあ、今日は本当にいろいろとお世話になってしまって。それで私からのお礼を考えたんですが、オークションハウスのオーナーらしくこれが一番いいかと。我がオークションハウスの年間フリーパスポート、プラチナランクです。弟を助けて下さったお礼に受け取ってください」
「えぇっ? こんな高級なもの、頂いてしまっていいの」
このパスポートさえあれば、招待状が必要となる会員限定のオークションにも参加ができるようになる。今後もレアアイテムが出品された時にも、チケット入手でヤキモキせずに済むだろう。
「はい。今日のオークションで欲しかった商品が何なのかは、私としては深く詮索しませんが。お目当ての品が手に入らなかったのではと思いまして。特に、手ぶらのギベオン王太子は」
「……せめて、ルクリアのお父様に幻の楽器の一つでもお土産に持って帰りたのですが。やはり、レアアイテムは難しいですね」
「楽器のオークションはこれからも定期的に開催されますよ。何と言っても、ここは本来は音楽ホールとして作られた建物ですから」
ギベオン王太子とアレキサンドライト氏が、商社マンの名刺交換後の会話のような流れを作ってしまい、ルクリアは取り残されてしまった。すると、怪我の治療を終えて頭に包帯を巻いたネフライト君が、ルクリアの服をクイっと引っ張って小声で呼ぶ。
「ねぇ、ルクリアさん。ちょっといい?」
「ん……ネフライト君、怪我は平気? 無理しちゃダメよ」
「うん。分かってるけど、その……助けて貰ったお礼。ルクリアさんにしたいから考えたんだけど。はい、これ……招待状。助けてくれたお礼を貴女にしたくて」
「これってジェダイト財閥のマンションに招待してもらっちゃっているのよね。しかも、私だけ……」
お兄さんの本格的な封筒とは違うやや庶民的な中学生らしい手渡された封筒の中には、ネフライト君が済むマンションの住所と彼の個人的な電話番号とメールアドレスが記載されていた。そして、自宅への招待状と書かれているが……。どうやら、ギベオン王太子のことは招待する気は無いらしい。ムッとした表情で、様子をチラチラと見つめるギベオン王太子に思わず苦笑いしてしまう。
「オレがお礼したいのは命懸けで悪者と戦ってくれたルクリアさんだから、これでいいの! あっギベオン王太子は駄目だけど、ペットは連れて来てもいいよ。うちには色んなコレクションがあるから、物はあげられないけど魔法アイテムとか見せてあげることは出来るよ」
「うふふ、ありがとう。貴重な財閥コレクションを拝見できるなんて、嬉しい」
「それからね……ルクリアさん。耳、貸して……」
クスクスと笑うルクリアに内緒話をする為に、囁くネフライト君に少しだけドキッとさせられる。だが、もっと驚かされるのはその内容だった。
『例のゲームの攻略本、出品したのは……オレだよ。次の休みの日……ルクリアさんにだけ見せてあげる』
「では、これにて本日のオークションを終了致します。ご参加頂き誠にありがとうございました。また、次回お会いしましょう!」
パチパチ、パチパチ、パチパチ!
事件の後という不穏な空気の中で、明るく司会進行を務めた男に皆が拍手してオークションは幕を閉じる。
けれど、ルクリアは今朝方に欲しいと語っていたもの、正確には生き物が手に入り嬉しそうだった。冬には欠かせない暖かなコートの素材としても知られるモフモフ、つまりミンク幻獣である。引き渡し先のバックヤードでミンク幻獣を受け取り、簡単な契約を済ませてオーナーと待ち合わせをしている特別ルームへと向かう。
「……それで、キミはお父さんから貰ったブラックカードの軍資金で、そのモフモフ幻獣を手に入れたわけだが」
「もうっそんな言い方しなくても良いでしょう。ギベオン王太子は、ミンク幻獣が苦手なの?」
「いや、そういう訳じゃないんだが。ちょっとソイツ馴れ馴れしくないか」
普通のペットを運ぶ場合は連れ歩きではなく、移動用のカゴか何かに入れて運ぶのだが。幻獣はとても頭が良いらしく、契約魔法を施した首輪さえ付ければ、飼い主を認識して連れ歩きが可能だという。
「もきゅ、もきゅきゅ……!」
「うふふ、可愛い」
ミンク幻獣は犬のようにリードで歩くのではなく、ルクリアの胸に抱っこされているので、一般的な連れ歩きではないのかも知れないが。
行きと違いルクリアを独占出来なくなってしまったギベオン王太子は、ミンク幻獣が邪魔なのか終始不機嫌そうだった。
「以前から思っていたんだけど、キミは小さな生き物に甘すぎるんだ。ほら、事件の時だってあの財閥御曹司の弟君のために、柄の悪い連中と一悶着あったんだろう? 特に男は狼なんだ……いや今はまだ小さくても。あの小さなネフライト君だって、何年かすれば……いつかお兄さんに似たイケメンに成長して……キミの恋愛対象になってしまう」
まさか、まだギベオン王太子がジェダイト財閥のネフライト君を気にしているとは夢にも思わなかったルクリアは、目を丸くして隣のギベオン王太子を見る。気まずそうな、気持ちを探るような態度のギベオン王太子はちょっとだけ子供っぽく映った。
本音の部分では今すぐに恋愛対象になるであろう、お兄さんの方のアレキサンドライト氏を気にしているのだろうが。流石に直接的に兄の方を話題にするのは不味いと思っているのか、中学一年生の弟のネフライト君に焦点を当てている。
実際の年齢差だけで考えると、ネフライト君とは三歳しか年齢差はなく、兄のアレキサンドライト氏は八歳も歳上だ。けれど、見た目年齢の問題でまだ子供のネフライト君は、ルクリアと恋仲になるようにはとてもじゃないが見えず。一方で兄のアレキサンドライト氏は、ルクリアとカップルに見えてもおかしくない容姿だった。
「ふふっ。ネフライト君がお兄さん似のイケメンに成長して私の恋愛対象になる前に、ギベオン王太子が私と結婚してくれればそれで解決よ」
「……! 済まない、それもそうだな。僕とキミは婚約しているんだから、未来は然るべきしてそうあるべきだ。うん……」
ルクリアなりにギベオン王太子の不安を解消する答えを出したつもりだったが、かえって気まずい雰囲気になってになってしまう。
自分達を待ち受ける未来は、乙女ゲームのシナリオ通り破局なのだと、何処かで諦めているような気がして。
「未来といえば、攻略本……オークションに出品されなかったわね。やっぱり、未来の予言書なんて言われているし、他にも狙っている人がいたのかしら」
「おそらくは。まぁ、これからだアレキサンドライト・ジェダイトさんにオークションの事後報告に行くわけだし。気になる点は、その時に訊けばいい。もし、キミが攻略本について人に話すのが嫌なら、今回はそのモフモフのことだけ報告してもいい。キミ次第だよ」
* * *
改めて呼ばれた特別室では、既にジェダイト兄弟が揃ってルクリア達を待っていた。兄のアレキサンドライト氏が、洒落たレース柄の白い封筒を二通手にしている。
「やあ、今日は本当にいろいろとお世話になってしまって。それで私からのお礼を考えたんですが、オークションハウスのオーナーらしくこれが一番いいかと。我がオークションハウスの年間フリーパスポート、プラチナランクです。弟を助けて下さったお礼に受け取ってください」
「えぇっ? こんな高級なもの、頂いてしまっていいの」
このパスポートさえあれば、招待状が必要となる会員限定のオークションにも参加ができるようになる。今後もレアアイテムが出品された時にも、チケット入手でヤキモキせずに済むだろう。
「はい。今日のオークションで欲しかった商品が何なのかは、私としては深く詮索しませんが。お目当ての品が手に入らなかったのではと思いまして。特に、手ぶらのギベオン王太子は」
「……せめて、ルクリアのお父様に幻の楽器の一つでもお土産に持って帰りたのですが。やはり、レアアイテムは難しいですね」
「楽器のオークションはこれからも定期的に開催されますよ。何と言っても、ここは本来は音楽ホールとして作られた建物ですから」
ギベオン王太子とアレキサンドライト氏が、商社マンの名刺交換後の会話のような流れを作ってしまい、ルクリアは取り残されてしまった。すると、怪我の治療を終えて頭に包帯を巻いたネフライト君が、ルクリアの服をクイっと引っ張って小声で呼ぶ。
「ねぇ、ルクリアさん。ちょっといい?」
「ん……ネフライト君、怪我は平気? 無理しちゃダメよ」
「うん。分かってるけど、その……助けて貰ったお礼。ルクリアさんにしたいから考えたんだけど。はい、これ……招待状。助けてくれたお礼を貴女にしたくて」
「これってジェダイト財閥のマンションに招待してもらっちゃっているのよね。しかも、私だけ……」
お兄さんの本格的な封筒とは違うやや庶民的な中学生らしい手渡された封筒の中には、ネフライト君が済むマンションの住所と彼の個人的な電話番号とメールアドレスが記載されていた。そして、自宅への招待状と書かれているが……。どうやら、ギベオン王太子のことは招待する気は無いらしい。ムッとした表情で、様子をチラチラと見つめるギベオン王太子に思わず苦笑いしてしまう。
「オレがお礼したいのは命懸けで悪者と戦ってくれたルクリアさんだから、これでいいの! あっギベオン王太子は駄目だけど、ペットは連れて来てもいいよ。うちには色んなコレクションがあるから、物はあげられないけど魔法アイテムとか見せてあげることは出来るよ」
「うふふ、ありがとう。貴重な財閥コレクションを拝見できるなんて、嬉しい」
「それからね……ルクリアさん。耳、貸して……」
クスクスと笑うルクリアに内緒話をする為に、囁くネフライト君に少しだけドキッとさせられる。だが、もっと驚かされるのはその内容だった。
『例のゲームの攻略本、出品したのは……オレだよ。次の休みの日……ルクリアさんにだけ見せてあげる』
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