59 / 62
役不足と役者不足
応援する!
しおりを挟む目の前に俺の天使が立っている。
俺を、俺だけを見つめて……。
「えっと……ごめんなさい……戸惑ってる……よね」
「あ、いや、まあ……」
俺は綾波らしきあやぽんをじっと見つめていた。
確かに一度は疑っていた。でも実際俺はあやぽんに会っている。つい昨日だって……でも、ここにいるこのあやぽんは、間違いなく綾波……俺のクラスメイトで友達の綾波明日菜。
いつまでも座らない綾波に周りが注目し始める。
いや、既にあやぽんだとバレている可能性も……こんな所でバレたらまずいと俺は綾波に言った。
「と、とりあえず座って……ください」
「……あ、うん……そうだね」
そう言って綾波は俺の向かいの席に座る。
「あ、えっと……モーニングは終わっちゃったから、えっと……何か飲む物を……」
俺は慌ててメニューを渡そうとするも、綾波は首を振った。
「あ、ああ、うん大丈夫、あ、えっと……す、すみません」
メニューを見る事なく、店員を呼びホットコーヒーを頼む綾波……いや、ここはもう、あやぽんと言った方が良いのか?
とりあえずコーヒーが来て綾波が落ち着くまで、いや、俺が落ち着くまで何も言わずに聞かずに待つ。
そして黙ったままコーヒーが到着、綾波が一口飲みテーブルに置いた所で切り出した。
「綾波は……あやぽんで、あの綾だって事なのか?」
俺がそういうと綾波は少し困った顔をする。
「ううん、私は綾じゃないよ」
「でも……」
綾波の顔はあやぽんにそっくりだ。瓜二つ、まるで双子の様に……双子……そうか、そうだったのか!
「双子……か」
「うん……そう、綾は私のお姉ちゃんなの……」
そう言って微笑を浮かべる綾波……その笑顔は綾そのもの、昨日あった綾以上に……。
「お姉ちゃん?」
「そう、私の双子の姉が、綾……なの」
「ライブ会場でもそうだったのか?」
「え?」
「SNSでも?」
「ええ?」
「前からずっと違和感を感じる時があったんだ……そして時々しっくり来る時が……」
「あ、うん、凄いね日下部君……そう……時々だけど……私がステージに立つ時があったの……仕方なく」
「仕方なく?」
「うん、お姉ちゃんが仕事をする際学業を疎かにしないってのがお母さんからの条件だったの……だからなるべく仕事は入れない様にしてたんだけど、人気が出すぎちゃって、断りにくい仕事も増えて来て……だから仕方なく私が……」
綾波は本当に仕方なくという表情でそう語った。
「す、すげえ……綾波があやぽんだったなんて……」
それを聞いて俺は……感動していた。
まるでラノベの様な展開に……隣の眼鏡っ子が実はこんな美人で、そして……俺のアイドルだったなんて……。
いつも読んでいる本が現実に……。
「ううん、でも私はあくまでも臨時で、だから」
「……俺さ、あやぽん……綾に……綾波のお姉ちゃんに会ってるんだ」
しかも2回も……いや、3回か……。
「……うん聞いてる」
「でも、なにか違うって……ずっと思ってたんだ……」
「なにか……違う?」
「うん……綾波さ、この間の苗場山、あれって綾波だろ?」
「え? あ、うん、そう……」
「やっぱりそうか……ってか、あれ!あの歌! 凄い、凄かった」
「あ、あれは、言われて仕方なく……」
真っ赤な顔で俯く綾波。
「やっぱり即興だったんだ……すげえ、すげえよ綾波……」
「ううん、全然……たまたまうまく行っただけ……それよりも、あのね……この事は、私が臨時でも綾になってる事は内緒にして欲しいの……」
「ああ、うん、うちの学校バイトだけは厳しいからね、大丈夫! 俺! 応援する……綾波の事! 学校にも絶対に言わない、誰にも言わないから心配しないで!」
「……ありがとう」
綾波は俺を見て笑った……あやぽんの様な、いや、あやぽんそのものの笑い方で……そして、いつもの綾波の笑い方で……。
俺の天使……俺の神様は、俺の隣に座っていた……。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる