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過去の話 0-2

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父親のお気に入りの暴力は、ルークの髪の毛を掴んで何度も殴る事だった。
とくに頭を殴るのがお気に入り、そして時々合間に蹴られる。この日もそこから始まった。
何度も殴られた頭の痛みで、蹴られた所は分からなかった。
ただし、この日はそれだけでは済まなかった。
殴るのに飽きた父親は、そのままルークを家中引きずり回し始めた。
ルークの首に掛かってはいけない負荷がかかる。9歳のルークに体の仕組みなんか分からないけれど、とても怖い事だと本能的に感じた。
自分を殴りながら引きずり回す父親の手に必死にすがり付いた。
首の中が変な風に浮いている。限界以上浮いたら絶対怖い事が起こる、ただそう感じた。視界がめまぐるしく回る。迫りくる壁やイス、むしり取る様に強く髪を鷲掴みされて頭が痛い、柱やテーブルの角に体をぶつけられたけど、そんな事に構っていられなかった。
どうせ体のアザなんて、洋服で隠れる・・・。

たいしたことじゃぁない。

家中引き摺りまわされた後、最後に引きずり込まれたのは未だ洗っていない食器の有るお勝手だいどころだった。
父親が何か怒鳴り散らしている。自分も叫んでいたけど、何て言っていたのか、後にも先にも思い出せなかった。
多分いつもどおり『ごめんなさい』とか連呼してたんだろう。
頭を流しに突っ込まれ、汚れを浮かす為に水につけて置いたお椀で、溜まった汚水を掛けられた。
流しのゴミをかけけられて、ゴシゴシと擦り着けられ、そのまま外の方まで引きずられた。
テーブルの角がガツンと頭に当たった。
血が出なかったから『よかった』って思った。
頭を切ると沢山血が出るし、ナカナカ止まらないから厄介なのだ。
見づらいから自分で手当てをするのも大変。
生ごみを入れる桶の所まで引きずっていかれた時『あぁ・・・今日はこれか』って思った。
その直後、ルークの頭が生ごみの中に突っ込まれた。

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