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五話
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(ギルバルト視点)
アリアは頻繁にギルバルトに会いにくる。
「貴族の男が鬱陶しい」とか。たっぷり愚痴を吐いて満足して帰ることもあれば、「これ私のお気に入りなの」と食べ物を持ってきて一緒に食べよう、だとか。
魔獣の肉か生の果物くらいしか口にしたことはなかったが、アリアの持ってくるものは、まぁ悪くはなかった。
アリアの最近のお気に入りは、ギルバルトの背中の上で寝る事らしい。日の光を受けて温まった鱗の上で眠るのが気持ちいいのだと。
人間の女一人乗せたところで何の支障もないから構わないが、ひたなぼっこには最適とは、世界で一番強いと言われている生き物を捕まえておいてよく言う。
この女、他にやることはないのだろうか。
「ここは静かで好き」
「一応、私の寝床なんだがね」
「貴方もいるし」
ぐう、と言葉に詰まる。
アリアは好意を隠そうともしない。
尤も、彼女の口から出るのは友愛だ。
分かってはいるが、好きだと言われるのは妙に体がこそばゆい。
誰にも言われたことがなかったせいだ、きっと。
アリアが白森の……ひいてはギルバルトのもとにやってくるようになってから、ギルバルトの環境は変わった。
好きなだけ喋って、好きなだけごろごろして風のように帰っていく。
何とも喧しい女だ、と思っているが、この騒々しさは嫌いではない。
ギルバルトと、なまじ対等に殴り合った人間と言うのも初めてのことであるし、それだけでこいつは自分と対等の立場なのだと思える。
人間の癖に魔力も多く、きっとこいつはすぐには死なない、という安心感もあったのだろう。
ある時、アリアが妙に沈んだ顔をしてギルバルトの元へとやってきた。
聞くべきか、迷ったものの、いつもは明るい調子でいるこの女が、辛気臭い表情をして傍に居るというのも落ち着かない。
「どうかしたのか、アリア」
「ああ、ギル……私の……家族が、亡くなったの」
アリアの声に、いつものような快活さはない。
聞いたのは自分だが、聞いてしまったことを惜しく思った。
こんな時に、なんと声を掛ければいいのか、自分は言葉を多く持っていない。
「…………そうか」
「ここは慰めの言葉の一つでもかけるところではないの」
「慰めて欲しいのか?」
「別に、要らないけど」
ならなんでこんなところに来たのだ。
ギルバルトがそう、口がうまくないことなど知っているだろうに。
「でも、傍に居て欲しい」
アリアがひねたところのあるやつだったら、きっとこんなにも心を揺さぶられることもない。
深々とため息を吐き出して、ギルバルトは首をしゃくった。
「……好きにしたらいい」
「ええ、好きにする。ねえ、もっとくっついてもいい?」
「私は一応、雄なんだが、知っているかい」
「……うん??知っているけど、だからなぁに?」
「……はぁー……お前が気にしないなら構わないよ」
「ありがとう!ギル、優しいから好きよ」
「そうか」
別れと言うのは寂しいものだ。
この強気な女でも弱弱しくなる。
人間は、すぐに死ぬ。
別れ、というのは、正直あまり好きではない。
(ああ、私は、だからあまり他人と関わろうとしなかったのだ)
アリアと関わる様になって、久しぶりにそのことを思い出した。
アリアは魔導士な上に、魔力が多いから普通の人間よりはきっと長生きするだろう。
出会ってからそれなりに年月を重ねてきたが、アリアがしわしわのよぼよぼになる気配はない。
少なくともギルバルトやエルフ程度には魔力を持っているようであるし、妖精族にも好かれているように見える。
(アリアに妖精族は見えてないようだが……)
たった数十年ぽっちで死ぬことはないだろう。
不慮の事故や病気にかかる確率は、魔力持ちならばリスクも下がる。
そこだけは安心できた。
ぴったりと肌に……と言っても体表を覆うのは硬質な鱗だ。
腹の辺りに小柄な体を寄せ、何かを確かめるように顔を寄せていた。
*
アリアは時折沈んだ様子を見せる。
そういう時、彼女は親しいものと別れることになったのだろうと思った。
「私、今、生きた聖女なんて呼ばれているのよ」
なかなか死なないし、誰よりも優れた魔導士だから、と静かにアリアは語る。
「ねえ、ギル。私はいつまで若いままなのかしら」
アリアと出会って、彼女はどれだけの人を見送ってきたのだったか。
初めは彼女の親で、それから彼女の兄姉の話も聞いた。
アリアと出会ってからそれなりの年月を経た気がするが、アリアが衰える様子はない。
竜であるギルバルトからすれば、普通の出来事であるとしても、人間の世界に身を置くアリアには、置いていかれるという感覚が一層強いのだろう。
「私と同じくらい魔力を持っているアリアなら、私と同じくらい生きるかもしれないね」
先のことは決してわからないが、可能性はかなり高い。
「貴方、今、いくつだったかしら」
「さぁ、千を超えたところからは面倒で数えるのを止めたよ」
アリアは目に見えて沈んだ顔をしている。
そんな顔をするな。
アリアの沈んだ顔を見るのが好きではない。
胸の奥がぎゅう、と締め上げられるような切なさを覚えるようになった。
「アリア、誰もいなくなっても私がいるだろう」
気が付いたら、そう零していた。
アリアがやっと笑んで見せる。
やっぱり、お前には笑っている顔の方が似合う。
美しい、夜の空のような瞳。
「そうね。貴方がいてくれるなら、きっと、寂しくないわ」
ギルバルトが自分で零した言葉は、身の内によく馴染んだ。
そう、誰もいなくなっても私がいる。
――私にも、アリアがいる。
それはとても、とても……悪くない。
ギルバルトの腹に頭を寄せて、アリアが目を閉じている。
彼女はきっと、生きた音を確認したいのだ、というのが、今になってやっとわかった。
そして、私が、アリアを一人の女として好いているということも。
ほろほろと涙の粒を零しているアリアに顔を寄せ、べろりと舐め上げてやれば「なにするの、くすぐったい」といって、アリアがころころ笑う。
お前は、私の傍で、そうやって笑っていればいい。
ーーーーーー
R18のくせにすけべのターンがないと落ち着かない。
もうちょっとしたらすけべさせます。
アリアは頻繁にギルバルトに会いにくる。
「貴族の男が鬱陶しい」とか。たっぷり愚痴を吐いて満足して帰ることもあれば、「これ私のお気に入りなの」と食べ物を持ってきて一緒に食べよう、だとか。
魔獣の肉か生の果物くらいしか口にしたことはなかったが、アリアの持ってくるものは、まぁ悪くはなかった。
アリアの最近のお気に入りは、ギルバルトの背中の上で寝る事らしい。日の光を受けて温まった鱗の上で眠るのが気持ちいいのだと。
人間の女一人乗せたところで何の支障もないから構わないが、ひたなぼっこには最適とは、世界で一番強いと言われている生き物を捕まえておいてよく言う。
この女、他にやることはないのだろうか。
「ここは静かで好き」
「一応、私の寝床なんだがね」
「貴方もいるし」
ぐう、と言葉に詰まる。
アリアは好意を隠そうともしない。
尤も、彼女の口から出るのは友愛だ。
分かってはいるが、好きだと言われるのは妙に体がこそばゆい。
誰にも言われたことがなかったせいだ、きっと。
アリアが白森の……ひいてはギルバルトのもとにやってくるようになってから、ギルバルトの環境は変わった。
好きなだけ喋って、好きなだけごろごろして風のように帰っていく。
何とも喧しい女だ、と思っているが、この騒々しさは嫌いではない。
ギルバルトと、なまじ対等に殴り合った人間と言うのも初めてのことであるし、それだけでこいつは自分と対等の立場なのだと思える。
人間の癖に魔力も多く、きっとこいつはすぐには死なない、という安心感もあったのだろう。
ある時、アリアが妙に沈んだ顔をしてギルバルトの元へとやってきた。
聞くべきか、迷ったものの、いつもは明るい調子でいるこの女が、辛気臭い表情をして傍に居るというのも落ち着かない。
「どうかしたのか、アリア」
「ああ、ギル……私の……家族が、亡くなったの」
アリアの声に、いつものような快活さはない。
聞いたのは自分だが、聞いてしまったことを惜しく思った。
こんな時に、なんと声を掛ければいいのか、自分は言葉を多く持っていない。
「…………そうか」
「ここは慰めの言葉の一つでもかけるところではないの」
「慰めて欲しいのか?」
「別に、要らないけど」
ならなんでこんなところに来たのだ。
ギルバルトがそう、口がうまくないことなど知っているだろうに。
「でも、傍に居て欲しい」
アリアがひねたところのあるやつだったら、きっとこんなにも心を揺さぶられることもない。
深々とため息を吐き出して、ギルバルトは首をしゃくった。
「……好きにしたらいい」
「ええ、好きにする。ねえ、もっとくっついてもいい?」
「私は一応、雄なんだが、知っているかい」
「……うん??知っているけど、だからなぁに?」
「……はぁー……お前が気にしないなら構わないよ」
「ありがとう!ギル、優しいから好きよ」
「そうか」
別れと言うのは寂しいものだ。
この強気な女でも弱弱しくなる。
人間は、すぐに死ぬ。
別れ、というのは、正直あまり好きではない。
(ああ、私は、だからあまり他人と関わろうとしなかったのだ)
アリアと関わる様になって、久しぶりにそのことを思い出した。
アリアは魔導士な上に、魔力が多いから普通の人間よりはきっと長生きするだろう。
出会ってからそれなりに年月を重ねてきたが、アリアがしわしわのよぼよぼになる気配はない。
少なくともギルバルトやエルフ程度には魔力を持っているようであるし、妖精族にも好かれているように見える。
(アリアに妖精族は見えてないようだが……)
たった数十年ぽっちで死ぬことはないだろう。
不慮の事故や病気にかかる確率は、魔力持ちならばリスクも下がる。
そこだけは安心できた。
ぴったりと肌に……と言っても体表を覆うのは硬質な鱗だ。
腹の辺りに小柄な体を寄せ、何かを確かめるように顔を寄せていた。
*
アリアは時折沈んだ様子を見せる。
そういう時、彼女は親しいものと別れることになったのだろうと思った。
「私、今、生きた聖女なんて呼ばれているのよ」
なかなか死なないし、誰よりも優れた魔導士だから、と静かにアリアは語る。
「ねえ、ギル。私はいつまで若いままなのかしら」
アリアと出会って、彼女はどれだけの人を見送ってきたのだったか。
初めは彼女の親で、それから彼女の兄姉の話も聞いた。
アリアと出会ってからそれなりの年月を経た気がするが、アリアが衰える様子はない。
竜であるギルバルトからすれば、普通の出来事であるとしても、人間の世界に身を置くアリアには、置いていかれるという感覚が一層強いのだろう。
「私と同じくらい魔力を持っているアリアなら、私と同じくらい生きるかもしれないね」
先のことは決してわからないが、可能性はかなり高い。
「貴方、今、いくつだったかしら」
「さぁ、千を超えたところからは面倒で数えるのを止めたよ」
アリアは目に見えて沈んだ顔をしている。
そんな顔をするな。
アリアの沈んだ顔を見るのが好きではない。
胸の奥がぎゅう、と締め上げられるような切なさを覚えるようになった。
「アリア、誰もいなくなっても私がいるだろう」
気が付いたら、そう零していた。
アリアがやっと笑んで見せる。
やっぱり、お前には笑っている顔の方が似合う。
美しい、夜の空のような瞳。
「そうね。貴方がいてくれるなら、きっと、寂しくないわ」
ギルバルトが自分で零した言葉は、身の内によく馴染んだ。
そう、誰もいなくなっても私がいる。
――私にも、アリアがいる。
それはとても、とても……悪くない。
ギルバルトの腹に頭を寄せて、アリアが目を閉じている。
彼女はきっと、生きた音を確認したいのだ、というのが、今になってやっとわかった。
そして、私が、アリアを一人の女として好いているということも。
ほろほろと涙の粒を零しているアリアに顔を寄せ、べろりと舐め上げてやれば「なにするの、くすぐったい」といって、アリアがころころ笑う。
お前は、私の傍で、そうやって笑っていればいい。
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R18のくせにすけべのターンがないと落ち着かない。
もうちょっとしたらすけべさせます。
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