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しおりを挟む「わあ!あれ食べたい!」
「この銅像は誰だい?ずいぶん間抜けな顔だ。」
「おっ、あそこで何か芸を見せてるよ。行ってみようよ!!」
食事の後街案内をしたら、男は案外はしゃいでいた。
次々と街中の屋台で食べ物を買って食べている。
俺の分もくれるから別に文句ないけど。
それにラオシはローブで姿形を隠してる見た目の胡散臭さに反して中身は気さくで結構付き合いやすい。
午後の間遊びまわって今は2人で用水路にかかる眼鏡橋に寄りかかりながらビヨビヨ鳥の串焼きを食べていた。
そろそろルドルフが帰ってくるかもしれない。
「はー。満足満足。じゃあ、人類滅ぼしにいく?」
気がそれているところに次の行き先の提案のようなノリで聞かれて一瞬意味が飲み込めなかった。理解して危うく串を喉に刺しそうになる。
思いっきり体が跳ねたせいで、肩にいたヒヨコがぴ!っと一緒に弾んだ。
「んぐっ!な、何のこと!?」
「だってさっきその魔界の存在を召喚した時そう言ってたじゃないか。」
ラオシがヒヨコを指差す。
何だ。バッチリ見て聞いてたし理解してたのか。
「あ、あれは冗談で……」
「実は同感なんだ。僕も人類はいなくてもいいかなって思ってる。」
こちらを向いた顔からは相変わらず目元は隠れていて、口元だけ薄く笑っている。
……えっと、実は結構ヤバい奴?俺が言うなって感じだけど。
「だからさ、手伝ってあげるよ。」
そんな軽薄に言われても返答に困る。
どうしよう。こういう時って下手に否定したりして傷つけたりしない方がいいよな。
「じゃあ、今度是非お願いします。」
「何言ってるの。早い方がいいでしょ?行こ。」
ラオシが橋の下に空になった串をポイっと捨てる。
「あっ!捨てるなよ野良犬とかが拾って飲み込んじゃうかもしれないだろ!」
慌てて魔法で落ちた串を回収しようと橋の下に意識をやったとたん、
俺は朝魔法陣を展開した森の中に立っていた。
一瞬で変わった景色に、少しだけ混乱する。
「は?」
「ここのがやりやすいだろ?」
背後からラオシの声がしてあたりを見る。
天馬とヒヨコはいなくなっていた。
この男が自分と俺をここに転移させたのだろう。
あの距離を、大人2人、しかも呪文無詠唱で即座に。
相当な魔法使いじゃないと出来ない技術だ。俺はさっきまでそれなりに親しみを感じていられた目の見えない顔を見つめた。手先から少し血の気が引く。
「そんな怯えないでよ。それとも、復讐が怖くなっちゃった?」
肩をすくめながら聞いてくる声色はさっきまでと何も変わらないのに底知れない得体の知れなさがある。
復讐の話なんて、俺はこいつに一言もしてない。
「あんたが、俺の召喚した魔物、なのか?」
恐る恐る聞いてみる。けど、こんなに人間そっくりな魔物なんて聞いたことない。
「そんな事は大したことじゃない。やるの?やらないの?」
サティの顔が浮かんだ。その後眩しくなるくらいの朱の髪が浮かんで、慌てて頭を振って振り払う。
「…………やる。」
「はい、よく言えました。」
ラオシが近づいてきて、俺の右腕を掴んだ。丁度痣があるあたり。
「ほら、呪文。」
なされるままになっていると催促される。
「あ、うん。」
慌てて呪文を唱えて放った。
掴まれた文様が熱くなって、そこから強烈な魔力が流れ込んでくるのを感じる。
腕の中で俺の魔力と混ざった後、それはグワッと腕を抜けて地面めがけて吹き出した。
バリバリ音を立てながら地面に現れた特大の魔法陣は、俺がさっき作ったのとは比べ物にならないくらい全体にぐらぐら沸き立つような魔力が込められている。
「え……?あ……」
「ほら、呼び出すよ。」
「や、ちょっと、まっ……」
「だーめ。やっぱ止めたはなし。」
手を引っ込めようとしても強く掴まれていて出来ず、声が出ない俺をよそにラオシから一際強い魔力が腕に流れこんできた。
「うわ!?」
それがズドンと魔法陣に打ち込まれると、複雑な線が青白い光を放ってますます輝く。
魔法陣の真上におもむろに真っ黒な空間がぽっかり空いて、そこから何かがどさりと落ちてきた。
どうやら人の形をしているようだ。
1人は耳が犬のような少年。
もう1人は……
「サティ!?」
俺の呼びかけに、よく知っている懐かしい姿が振り向く。
そこにあったのは5年前と全く変わらない親友の姿だった。
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