徒然草

春秋花壇

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徒然草 第七十段:宴席でのアクシデントと謎めいた人物

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徒然草 第七十段:宴席でのアクシデントと謎めいた人物

原文

元応の清暑堂の御遊ぎに、玄上は失うせにし比ころ、菊亭大臣きくていのおとど、牧馬ぼくばを弾だんじ給ひけるに、座に著つきたる人、先まづ柱ぢうをさぐられたりければ、ひとつおちにけり。
御懐おんふところ にそくひを持ち給ひたるにてつけられにければ、神供じんぐ の参る程によく干ひ て、事故ことゆゑ なかりけり。 いかなる 意趣いしゆ かありけん。 物見ける 衣被きぬかづき の、寄りて、放ちて、もとのやうに置きたりけるとぞ。

現代語訳

元応年間の清暑堂での御遊ぎに、玄上は亡くなって間もない頃、菊亭大臣が牧馬を弾じ給っていたところ、座に着いた人がまず柱を突いたため、一つ落ちてしまった。
御懐にそくひを持っていたためそれで支えられたので、神供を参る程度によく乾いて、特に問題なかった。どのような意趣があったのかは分からない。物見物していた衣被の者が寄って来て、放して元のようにもとの場所に置いたとのことである。

解説

徒然草第七十段は、元応年間の清暑堂で行われた御遊ぎでの出来事を記しています。菊亭大臣が牧馬を弾じている最中、座に着いた人が柱を突いたため、柱の一つが落ちてしまうというアクシデントが発生します。しかし、菊亭大臣は懐にそくひを持っていたため、それで柱を支え、難を逃れます。

この出来事は、当時の宴席の様子を垣間見ることができます。また、菊亭大臣の機転と冷静沈着さをうかがわせるエピソードと言えます。

一方、柱を突いた人物の意図は謎に包まれています。単なるいたずらなのか、それとも何か別の意図があったのか、真相は不明です。

この人物について、作者は「衣被」と記しています。衣被は、当時、相撲観戦に来る人々を指す言葉として使われていました。つまり、柱を突いた人物は、相撲観戦に来た一般人だった可能性があります。

しかし、相撲観戦に来た人物が、宴席の柱を突くような行為をするのは考えにくいでしょう。そのため、この人物が単なる一般人ではなく、何か特別な事情があった可能性も考えられます。

いずれにしても、この人物の真意は謎のままです。徒然草の作者は、この謎めいた人物について、読者の想像力を刺激するような語り口で記しています。

その他

清暑堂:京都御所の紫宸殿の東側に位置する建物。当時は、天皇の御遊ぎや諸行事の際に使用されていました。
牧馬:中国から伝わった撥弦楽器の一種。琵琶に似ていますが、胴が大きく、四弦です。
そくひ:平安時代から鎌倉時代にかけて、男性が着用した長衣。
衣被:当時の相撲観戦に来る人々を指す言葉。
徒然草第七十段は、簡潔な文章ながらも、当時の宴席の様子や人物像を生き生きと描き出しています。また、謎めいた人物の存在によって、読者の想像力を刺激するような奥深い作品となっています。

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