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31.告げる③
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とても嬉しそうな母の声を聞くのは本当に久しぶりだった。
『まあーーー、なんてことなの!来年には可愛い孫に会えるなんて。予定はちょっと早まるけれども、婚約はしていたわけだし問題はないわね。こんな嬉しいことはないわ、ねぇあなた?』
耳に入ってきた母の言葉に心が震える。
孫ってなに……。
そ、そんなの嘘……よね。
は、は…冗談を言っているのよね?
ねえ、誰か早く否定して…。
母にとっての孫ならば娘の子供ということになる。
私は妊娠してなどいない、それならばルーシーの子供ということになる。
誰かに母の言葉を否定してもらいたかった、でも否定する声は聞こえてこない。
それどころか父の明るい声が続けて聞こえてくる。
『ああそうだな。女の子が結婚するために学園を途中で辞めるのは特に珍しいことではない。二人ともおめでとう!はっはは、まずは明日にでも入籍だけは済ませないとな。式は急いで準備をしよう。ルーシー、体を大切にするんだぞ。もうひとりの体ではないのだからな』
母の言葉を肯定する父の言葉が胸の奥深くまで突き刺さる。
…それはまるで鋭利な刃。
『はい、お父様。分かっていますわ』
上機嫌な父にすぐさま返事を返す妹。
ルーシーの声音は今まで聞いたことがないものだった。
明るいでは表現できないほどの喜びと興奮が扉越しなのに伝わってくる。
…刺さった刃が捻り込まれる。
でもまだ信じられなかった。いいえ、信じたくなかった。
『きっと何かの間違い…、そうよ間違いだわっ』と何度も呟く。自分に言い聞かせるように。
だが効果などなかった、胸の苦しさは増すばかりで『間違いだ』とは…思えない。
いつ倒れても不思議ではなかった。
辛うじて立っていられたのは、愛する人の言葉がまだ聞こえてこなかったから。
彼の口から真実が語られたわけではない。
そう思うことで、細い…細い糸に片手で掴まっているような状態だった。
『ガイアロス様、この子が生まれてくるのが楽しみですね』
ルーシーの弾むような声がまた聞こえてくる。
お願い、聞きたくないっ!
なにも答えないで、……ガイア…。
心のなかで叫んでいた。
『信じさせて!』と祈っていた。
でも妹の言葉の後に聞こえてきた声は彼のものだった。
『…ああ楽しみだ。ルーシーのお腹に私達の子がいるなんて不思議なものだな。自分が父親になるのがまだ信じられないよ』
妹と違って落ち着いた声だった。
でも紛れもなく私が愛している人の声だった。
聞き間違えるはずがない、ずっとあの声を私は隣で聞き続けてきたのだから。
否定してくれないの…。
『違うっ!』て言わないの…。
…………。
…………あなたの…子、なのね…。
あなたの子を身籠るのは私のはずだった。
小さな命が宿っている平らなお腹を優しく撫でながら、あなたの隣で『楽しみね』といつか言うのは私のはずだった。
彼と二人で語り合った未来が扉の向こうにある。
愛されていたのは私だった。
ずっとずっと彼のことを愛していたのも私だった。
ガイア、私のことが嫌いなのでしょう?
憎くて憎くてどうしようもないのでしょう…。
…それは愛しているからなのよ。
あなたは私を深く愛してくれているの…。
本当は私を愛しているのっ。
…あい…し、いる…にどうして……。
それなのに彼の隣に今いるのは私ではない。
隣りにいるのは私の妹、そしてお腹の子。
『目を背けることができない残酷な現実』に心が抉られる。
私は今どんな顔をしているのだろう。
もしここに鏡があったら、そこにはきっと絶望が映し出されているに違いない。
『まあーーー、なんてことなの!来年には可愛い孫に会えるなんて。予定はちょっと早まるけれども、婚約はしていたわけだし問題はないわね。こんな嬉しいことはないわ、ねぇあなた?』
耳に入ってきた母の言葉に心が震える。
孫ってなに……。
そ、そんなの嘘……よね。
は、は…冗談を言っているのよね?
ねえ、誰か早く否定して…。
母にとっての孫ならば娘の子供ということになる。
私は妊娠してなどいない、それならばルーシーの子供ということになる。
誰かに母の言葉を否定してもらいたかった、でも否定する声は聞こえてこない。
それどころか父の明るい声が続けて聞こえてくる。
『ああそうだな。女の子が結婚するために学園を途中で辞めるのは特に珍しいことではない。二人ともおめでとう!はっはは、まずは明日にでも入籍だけは済ませないとな。式は急いで準備をしよう。ルーシー、体を大切にするんだぞ。もうひとりの体ではないのだからな』
母の言葉を肯定する父の言葉が胸の奥深くまで突き刺さる。
…それはまるで鋭利な刃。
『はい、お父様。分かっていますわ』
上機嫌な父にすぐさま返事を返す妹。
ルーシーの声音は今まで聞いたことがないものだった。
明るいでは表現できないほどの喜びと興奮が扉越しなのに伝わってくる。
…刺さった刃が捻り込まれる。
でもまだ信じられなかった。いいえ、信じたくなかった。
『きっと何かの間違い…、そうよ間違いだわっ』と何度も呟く。自分に言い聞かせるように。
だが効果などなかった、胸の苦しさは増すばかりで『間違いだ』とは…思えない。
いつ倒れても不思議ではなかった。
辛うじて立っていられたのは、愛する人の言葉がまだ聞こえてこなかったから。
彼の口から真実が語られたわけではない。
そう思うことで、細い…細い糸に片手で掴まっているような状態だった。
『ガイアロス様、この子が生まれてくるのが楽しみですね』
ルーシーの弾むような声がまた聞こえてくる。
お願い、聞きたくないっ!
なにも答えないで、……ガイア…。
心のなかで叫んでいた。
『信じさせて!』と祈っていた。
でも妹の言葉の後に聞こえてきた声は彼のものだった。
『…ああ楽しみだ。ルーシーのお腹に私達の子がいるなんて不思議なものだな。自分が父親になるのがまだ信じられないよ』
妹と違って落ち着いた声だった。
でも紛れもなく私が愛している人の声だった。
聞き間違えるはずがない、ずっとあの声を私は隣で聞き続けてきたのだから。
否定してくれないの…。
『違うっ!』て言わないの…。
…………。
…………あなたの…子、なのね…。
あなたの子を身籠るのは私のはずだった。
小さな命が宿っている平らなお腹を優しく撫でながら、あなたの隣で『楽しみね』といつか言うのは私のはずだった。
彼と二人で語り合った未来が扉の向こうにある。
愛されていたのは私だった。
ずっとずっと彼のことを愛していたのも私だった。
ガイア、私のことが嫌いなのでしょう?
憎くて憎くてどうしようもないのでしょう…。
…それは愛しているからなのよ。
あなたは私を深く愛してくれているの…。
本当は私を愛しているのっ。
…あい…し、いる…にどうして……。
それなのに彼の隣に今いるのは私ではない。
隣りにいるのは私の妹、そしてお腹の子。
『目を背けることができない残酷な現実』に心が抉られる。
私は今どんな顔をしているのだろう。
もしここに鏡があったら、そこにはきっと絶望が映し出されているに違いない。
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