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40.旅立ち①

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こんなに泣いたのはいつぶりだろうか。
もしかしたら初めてなのかもしれない、私の記憶にはないから。
私は優しい家族に囲まれて育った、それは幸せ以外のなにものでもない。
でも長女として姉として『こうあるべきだ』と自分自身が勝手に囚われていたのかもしれない。

優しい両親を助けたい、可愛い妹の涙を拭ってあげたいと思っていた。
そしてそうなるように自分から行動していた。
『うぁーん…、おねえさま』
『ほら、ルーシー泣かないで。大丈夫だからね』
『うっう…。う、うん…』
『シシリアはルーシーを泣き止ませるのが上手ね』
『本当に良いお姉様だ、有り難うシシリア』
泣くのは私の役目ではなかった、だからいつの間にか泣かなくなっていた。
我慢していたわけではない。
…でも本当はどこか我慢していたのかもしれない。


それをルカディオ・アルガイドという人は見抜いてくれた。

 …本当に…ありがとうございます、ルカ様。
 

マイナスがどんな国なのか分かっていないけれども、彼のことは信じられると思った。
信じられる人がいてくれる安心感からか、先が見えない不安がほんの少しだけ薄くなっていく気がした。




それからきっかり一時間後にルカ様は部屋に戻ってきた。
どんな顔をすればいいのかと思っていたが、彼は何事もなかったかのように振る舞ってくれる。

その気遣いがとても有り難く、心の中で『ありがとうございます…』と頭を下げ、私も何事もなかったように振る舞った。

彼のほうから少しだけ必要な話しをして、そのあと私はゲート伯爵家へと帰っていった。マイナスに旅立つ準備をする為に、家族に永遠の別れを告げる為に。


旅立つのは翌日の夕方だと彼は伝えてきた。
荷物をまとめる時間はない、でも何も持ってくる必要ないと言われている。必要なものはマイナス側が準備しているからと。

だから準備と言っても自分の部屋を片付けることと、大切な人達に別れの言葉を告げるだけだった。

それらのことを行うだけなら翌日の夕方までで時間は十分足りている。
…でも私は最後に別れの言葉を聞いてもらえるだろうか。
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