一番になれなかった身代わり王女が見つけた幸せ

矢野りと

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おまけの話

【おまけの話】可愛いかくれんぼ②〜ゾルド視点〜

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フロルの尻尾がくすぐったかったのか、ユウサは羽からぴょこんと顔を出した。泣いてはいないがどこか拗ねたような顔をしているから、やはり何かあったのだろう。



「いらない子とはどういう意味ですか?ユウサ様」

彼の両親だけではなく、みんなこの子のことを可愛がっている。それは彼がローゼンの王太子の息子だからではなく、ユウサ自身が愛されるべき存在だからだ。

いたずらや危ないことをした時はもちろん叱るが、誰も『いらない子供』だと陰口を叩くことなどない。もしあったならば、俺が容赦しない。

いや、その前に祖父である蒼王や父であるタイキが気づき適切に対処しているだろう。


『グルル?』と心配そうな声を上げてフロルが顔を覗き込んでくると、ユウサの表情が少し柔らかくなる。
フロルは女の子だからか、昔から面倒見が良く、それは人の子供が相手でも同じように発揮されていた。だから、ユウサにとってはフロルは頼りになるお姉さんのような存在でもあるのだ。


「フロルも聞きたい?」
「グル!」

フロルが『教えて!』というように返事をすると、ユウサはフロルの尻尾をいじりながら話し始める。


「あのね、ずっと前に父上や母上といっしょに絵を描いてもらったの。長い間じっとして、ぼく、すごく頑張ったんだよ」
「グル、、」

相槌はフロルに任せた。母親になってからは更に子供の扱いが上手くなっているからだ。


ローゼンでは王族の絵姿は定期的に描き直すことになっている。それは新たな王族の誕生や、歳を重ねての風貌の変化などに対応するためだ。

そして数週間前に絵師が王太子家族の絵姿を描いたと聞いているから、ユウサはそのことを言っているのだろう。
だが、その話とこの状況が結びつかない。


「今日ね、その絵が届いたの。父上も母上もよく描けているって絵師をほめていたんだ。でもね、ぼく、子ブタだったの……」
「子豚って、あのブヒィと鳴くやつですか?」
「そう、ブヒブヒの子ブタちゃんだよ。あっ、でも子ブタのことが嫌いってわけじゃないからね」
「分かっていますよ、ユウサ様」

子供らしく話が横道にそれそうになるが、俺が返事を返すとまた元の話の続きを始める。
こういうところはしっかりしているなと感心する。


「ぼくの髪は父上と同じで真っ赤なのに、ぼくだけ泥みたいな色で塗られていたの。それに丸々としていてどう見てもぼくじゃないの。あんなに頑張ってじっとしていたのにおかしいよね?でも、父上はすごく嬉しそうに『よくやった』て絵師をほめていたんだ、母上もだよ。全然ぼくに似てないのに……」


……なんとなく分かった。

自分とは全然違く、それも子豚風に描かれている姿にショックを受けた。ついでに、両親ともにその絵姿に文句を言うどころか絶賛してたから、僕ってどうでもいい、つまりいらない子なんだと拗ねているのだ。


――子供らしい単純明快な考え。



今回の絵姿ではタイキとカナニーア様は盛ることなくありのままに描かれている。それは未来の国王と王妃の正しい姿をそろそろ他国に正しく伝えておく必要があるからだ。

しかし、ユウサの場合はこれでもかと言うくらいに盛っているはずだ――つまり別人。

歴代の王族達も幼い頃の絵姿は一様にそうだった。これは情報操作の一環なのだが、四歳の幼子にはそれが理解出来るはずもない。


 しかし、あの二人なら分かりやすく説明しようとするはずだなよな……。


きっとタイキやカナニーア様になにも聞かずに、プイッと飛び出してここまでやって来たのだろう。行動力があるのはタイキ譲りなのか、それともカナニーア様だろうか。


 ……はぁ、どっちもだな。



俺がここで絵姿の理由を説明してもいいが、それより親から話したほうがいいだろうなと思っていると、やはりやって来たようだ。

少し離れたところからフロルと子供達を見守っているグレゴールの尻尾がブルンブルンと回り始める。


「タイキ、遅かったな」
「カナニーアがユウサを追いかけようとするから止めていた。走ったら、転びそうだしな」
「確かに……」

カナニーア様はなぜか運動だけは苦手だ。本人は至って真面目に取り組んでいるらしいが、ウケ狙いですか?と思わず聞きたくなってしまうほどだから、厩舎まで走ったら今の時期は流石にまずいだろう。
だから、タイキは必死で止めていて我が子を追いかけるのが遅れたということだ。


「父上?」
「そうだ、ユウサ」

父親が来たことを気づいたユウサ。

その顔には笑みが浮かんでいて嬉しそうだ。やはり追いかけて来て欲しかったのだ、というか追いかけてくると信じていたからこそここで待っていたと言うのがきっと正しいのだろう。



「父上、ぼくは今日からフロルの子になります!」

フロルに抱かれたままそう宣言するユウサ。
これも親子の絆を信じているからこそ言える台詞だ。じゃなければ、あんなに嬉しそうに言えるはずがない。

なんだかユウサは飛狼竜の尻尾みたいに素直な子だ。気持ちが全然隠せていない。だが、そこがまた四歳らしくて可愛らしいのだ。

四歳の頃のタイキはもっと小生意気な感じだったと記憶しているから、これはカナニーア様の血のお陰だろう。逞しさと可愛さがいい感じに混ざりあっている。



タイキはさっと柵を飛び越え『フロル、ありがとな』と言いながら、ユウサを軽々と腕に抱き上げる。
もちろんフロルは抵抗しなかった。
タイキがユウサに危害を加えないと分かっているし、ユウサだって父親に抱き上げられて『父上♪』と嬉しそう抱きついていたからだ。

だが、二頭の仔飛狼竜は違った。

いきなり兄とも慕っている存在が連れ去られたと思ったのか『クピィ、クピィ』と可愛く鳴き始める。

そこに登場したのは二頭の父親であるグレゴールだった。『グルゥ、、』とあやすように鳴きながら、フロル達に近づいていく。いいかなと母親であるフロルの顔色を窺いながらだ。

「グル」
「グルルル♪」

『特別ね』『やったー♪』という感じの会話が飛狼竜夫婦の間で交わされ、グレゴールはフロルと我が仔達を大きな羽で優しく包んだ。

グレゴールにとっては勘違いしてくれたユウサ様々といったところだろうか。この時期はなかなか近づくことを許されないのだから。




これで心置きなく、親子の会話をすることが出来るだろうと思って二人のほうに目をやると、タイキは柵にユウサを座らせ、お互いの目線を合わせていた。

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