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第25話 血の気が引く瞬間

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「まぁ、お客様。とってもよくお似合いですよ?」

女性店員さんが進めてくれたワンピースドレスは白いブラウスに茶色のチュニック風のロングワンピースドレスだった。
確かに今まで着ていたピンク色のフリルドレスに比べると、かなり大人のデザインになっている。多分…着こなせているとは思うけれども…。

「ほ…本当に似合っていますか…?」

鏡に自分の姿を映しながら恐る恐る女性店員さんに尋ねる。

「ええ、良くお似合いです。お疑いならお連れの男性にも尋ねてみてはいかがでしょうか?」

確かに今回ドレスを買ってくれるのはトビーなのだから、彼にこのドレス姿を見て貰う必要があるだろう。

「そうですね…。確かにその通りかもしれません。では彼に見て貰う事にします」

「ええ、そうですね。恋人に見てもらうのが一番ですから」

え…?恋人…?

「え?ちょ、ちょっと待って下さい!誰が恋人ですかっ?!」

聞き捨てならない台詞に耳を疑う。

「え…?ですが一緒にいらした方は恋人なのですよね?」

「違いますっ!冗談でも変な事言わないで下さいっ!」

この女性店員さん…本気で言っているのだろうか?最初トビーと2人でこの店に入っって来た時は親子だと勘違いしたくせに…。

「そうなのですか…?お似合いだと思いますけど…」

「今の話…私の前ではしてもいいですけど、彼の前では口が裂けても言わない方がいいですよ」

何しろトビーに言わせると、私に今好意を寄せている男がいるとなれば変態かもしれないのだから。

「はい。お客様がそう仰るのであれば、口が裂けても言いません」

女性店員さんが力強く頷く。

「では…彼の所へ行ってきます!」

そして私はトビーの元へと向かった―。



 トビーはソファにもたれかかり、腕組みをして眠っていた。

「トビーさん、トビーさん!」

肩を掴んでトビーさんを揺すぶる。

「う~ん…」

「トビーさんてばっ!」

「ふわぁぁぁあ~…」

ようやくトビーは目が覚めたのか大欠伸をすると私を見た。

「お?エイミー。そのドレスに決めたのか?」

「はい、そうなんです。どうですか?似合っていますか?」

「う~ん…」

トビーは頭のてっぺんから足のつま先までジロジロ私を見た。

「まぁ、こんなもんじゃないか?」

「え?それは似合っているって事ですよねっ?!」

「そうだな…幼女から少女に見えるようになってきた。ビクトリアに比べるとまだまだだがな?」

「何ですか、それ…」

駄目だ、トビーに感想なんか尋ねるべきでは無かった。

「よし、それじゃ早速この服を貰おうか?」

トビーは私の後ろに立っていた女性店員に声を掛けた。

「はい、お買い上げありがとうございますっ!」

店員は嬉しそうに返事をした―。


****

 ガラガラガラガラ…

 私とトビーは町で拾った辻馬車に揺られていた。

「今日はありがとうございました」

向かい側に座るトビーに声を掛けた。

「ああ、そんな事は気にするなって。でもいいか?今度からは今着ている様な服を買うんだぞ?いつまでも親の言いなりになって幼女が着るようなドレスばかり着るんじゃない。ますます幼児化が進むからな」

またしてもトビーはメチャクチャな事を言ってくる。

「幼児化が進むはず無いじゃないですか…。でも、肝に銘じておきます」

「ああ、そうだ。いいか?今日はその服を着て家に帰って親に見せつけてやるんだ。そしてこう言え。『私は今日限り幼女服を着るのはやめます!』ってな」

「はい、分かりました」

私は大きく頷いた。



****


「どうもありがとうございました」

屋敷に到着し、馬車から降りた私はトビーにお礼を述べた。

「何、気にするなって。これも互いの目的を達成するのに必要な事だからな」

同じく馬車から降りたトビーは笑顔で私を見る。

互いの目的…。

その目的とは…渡すはアルトとの婚約破棄を回避し、トビーはビクトリアさんの心を手に入れる事。

「はい。分かりました」

「おう、それじゃ又明日な」

そしてトビーは再び馬車に乗り込むと夕暮れの中、帰って行った―。



「ただいま~」

エントランスから屋敷の中に入ってくると年若いフットマンが出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、エイミー様」

「ええ、ただいま」


「エイミー様。そのお召し物はどうされたのですか?初めて目に致しますね」

フットマンはすぐに私のドレスがいつもと違う事に気付いた。

「ええ。ちょっとイメージチェンジを図ろうと思ってね」

「成程、そうでしたか。よくお似合いですよ」

「本当?ありがとう」

嬉しくなって笑みを浮かべる。

「ええ、本当に以前とは違う雰囲気でとてもお似合いです。きっと今いらしているアルト様も驚くでしょう」

「えっ?!ちょ、ちょっと待って。アルトが来てるの?」

「ええ、先程から応接室でお待ちですよ」

「何ですってっ?!」

その言葉に血の気が引いた―。
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