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第2章 京極正人 15
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京極はリビングで仕事をしながら、飯塚が送ってくれた契約書のひな型に目を通していた。
(さすがは元秘書だけある・・。とても良い出来だな・・。)
京極は飯塚を自分の秘書にして良かったと、とても満足していた。語学が堪能な飯塚はベトナム支社との直接の電話のやり取りも難なくこなしたし、英文で届いた書類も難なく読めた。おかげで以前よりも仕事が大分スムーズに進むようになれたし、生活面もとても快適になっていた。
掃除や洗濯も手際良くこなし、料理もとても上手だった。最初の1週間だけはミールセットを利用したものの、今では1日3度の食事は全て飯塚の手作りだった。献立バランスも良く、味も絶品だった。
(静香も料理が上手だったが・・飯塚さんも料理が上手だな・・。)
飯塚はまさに完璧な女性だったのだ。ただ・・ある1点を除いては・・・。
それは飯塚の京極に接する時の態度だった。
飯塚はいつも京極に対しては1枚の大きな壁を作っているようだった。気難し気な顔ばかりで、愛想笑いもしない。話し方もいつもギスギスしており、常に京極に対して警戒心をあらわにしていたのだ。だから京極にはある欲求が生まれ始めていた。
・・・何とかして飯塚の笑顔を見て見たいと―。
「あの・・京極さん・・・。」
おもむろに話しかけられた京極は驚いて声のする方をみると、そこには飯塚が立っていた。
「ああ、飯塚さん。今契約書のひな型をチェックしました。完璧ですよ。これをこのまま起用したいと思います。ご苦労様でした。」
笑顔で京極は言う。
「は、はあ・・ありがとうございます・・。」
飯塚は心ここにあらずと言った感じで返事をする。そんな飯塚を見て普段と様子が違う事に気付いた京極は声を掛けた。
「飯塚さん?どうかしましたか?」
「い、いえ・・・あの・・・。」
飯塚は歯切れ悪く、壁に掛けてある時計を見ると言った。
「あ、あの・・・か、買い物に行ってきてもいいでしょうか・・?」
飯塚の声には緊張が混じっている。
「買い物・・ですか?」
「え、ええ・・・食料品をちょっと買いに・・。」
京極も時間をチラリと確認しながら尋ねた。今の時間は午後2時。飯塚はいつも午後4時ごろに食料品の買い出しに行っている。
「珍しいですね・・・普段はこんな時間に買い物に等行かないのに・・。」
京極はじっと飯塚を見た。
「え、ええ・・・。今日はちょっといつもとは違うスーパーに行ってみようかと思って・・・。」
言いながらも飯塚はチラチラと時計の時間を気にしているのが京極にはすぐに分かった。
(何だろう・・?いつもとは様子が違うな・・?)
しかし、京極はただでさえ飯塚に煙たがられている。追及すればするだけ京極に対して壁が厚くなるのは分かっていた。
「分かりました、今は急ぎの仕事がありませんので・・では買い物に行って頂いて大丈夫です。残りの仕事はメールで送っておきますから。」
「はい、ありがとうございます。」
飯塚は早口で答えると、部屋に戻り・・・すぐにダウンコートを羽織って出てきた。
「では行ってきます。」
肩からショルダーバックを下げた飯塚は頭を下げ、出かけようとし・・呼び止められた。
「飯塚さん、待って下さい。」
そして飯塚に1台のスマホを手渡した。
「え・・?これは・・?」
「これは・・僕の名義で作った飯塚さんのスマホです。すみませんでした。お渡ししるのが遅くなって・・不自由でしたよね?どうぞこれからはご自由にこのスマホをお使い下さい。」
「え・・?いいんですか・・?」
「はい、勿論です。」
京極は笑顔で答える。
「あ、ありがとうございます!では行ってきます。」
飯塚はスマホを握り締めると・・・すぐに玄関から出て行った。
「・・・・。」
飯塚が出て行くと、京極は自分のスマホを取り出し・・タップした。
そこには飯塚の位置情報が表示されている。
「・・・つけてみるか。」
京極はポツリと呟くと、リビングのハンガーにかけてある上着に手を伸ばした―。
(さすがは元秘書だけある・・。とても良い出来だな・・。)
京極は飯塚を自分の秘書にして良かったと、とても満足していた。語学が堪能な飯塚はベトナム支社との直接の電話のやり取りも難なくこなしたし、英文で届いた書類も難なく読めた。おかげで以前よりも仕事が大分スムーズに進むようになれたし、生活面もとても快適になっていた。
掃除や洗濯も手際良くこなし、料理もとても上手だった。最初の1週間だけはミールセットを利用したものの、今では1日3度の食事は全て飯塚の手作りだった。献立バランスも良く、味も絶品だった。
(静香も料理が上手だったが・・飯塚さんも料理が上手だな・・。)
飯塚はまさに完璧な女性だったのだ。ただ・・ある1点を除いては・・・。
それは飯塚の京極に接する時の態度だった。
飯塚はいつも京極に対しては1枚の大きな壁を作っているようだった。気難し気な顔ばかりで、愛想笑いもしない。話し方もいつもギスギスしており、常に京極に対して警戒心をあらわにしていたのだ。だから京極にはある欲求が生まれ始めていた。
・・・何とかして飯塚の笑顔を見て見たいと―。
「あの・・京極さん・・・。」
おもむろに話しかけられた京極は驚いて声のする方をみると、そこには飯塚が立っていた。
「ああ、飯塚さん。今契約書のひな型をチェックしました。完璧ですよ。これをこのまま起用したいと思います。ご苦労様でした。」
笑顔で京極は言う。
「は、はあ・・ありがとうございます・・。」
飯塚は心ここにあらずと言った感じで返事をする。そんな飯塚を見て普段と様子が違う事に気付いた京極は声を掛けた。
「飯塚さん?どうかしましたか?」
「い、いえ・・・あの・・・。」
飯塚は歯切れ悪く、壁に掛けてある時計を見ると言った。
「あ、あの・・・か、買い物に行ってきてもいいでしょうか・・?」
飯塚の声には緊張が混じっている。
「買い物・・ですか?」
「え、ええ・・・食料品をちょっと買いに・・。」
京極も時間をチラリと確認しながら尋ねた。今の時間は午後2時。飯塚はいつも午後4時ごろに食料品の買い出しに行っている。
「珍しいですね・・・普段はこんな時間に買い物に等行かないのに・・。」
京極はじっと飯塚を見た。
「え、ええ・・・。今日はちょっといつもとは違うスーパーに行ってみようかと思って・・・。」
言いながらも飯塚はチラチラと時計の時間を気にしているのが京極にはすぐに分かった。
(何だろう・・?いつもとは様子が違うな・・?)
しかし、京極はただでさえ飯塚に煙たがられている。追及すればするだけ京極に対して壁が厚くなるのは分かっていた。
「分かりました、今は急ぎの仕事がありませんので・・では買い物に行って頂いて大丈夫です。残りの仕事はメールで送っておきますから。」
「はい、ありがとうございます。」
飯塚は早口で答えると、部屋に戻り・・・すぐにダウンコートを羽織って出てきた。
「では行ってきます。」
肩からショルダーバックを下げた飯塚は頭を下げ、出かけようとし・・呼び止められた。
「飯塚さん、待って下さい。」
そして飯塚に1台のスマホを手渡した。
「え・・?これは・・?」
「これは・・僕の名義で作った飯塚さんのスマホです。すみませんでした。お渡ししるのが遅くなって・・不自由でしたよね?どうぞこれからはご自由にこのスマホをお使い下さい。」
「え・・?いいんですか・・?」
「はい、勿論です。」
京極は笑顔で答える。
「あ、ありがとうございます!では行ってきます。」
飯塚はスマホを握り締めると・・・すぐに玄関から出て行った。
「・・・・。」
飯塚が出て行くと、京極は自分のスマホを取り出し・・タップした。
そこには飯塚の位置情報が表示されている。
「・・・つけてみるか。」
京極はポツリと呟くと、リビングのハンガーにかけてある上着に手を伸ばした―。
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