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第2章 京極正人 14

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 それは臼井と勇に出会って1週間程経過した日の事だった―。
飯塚は自室のデスクに座り、PCで京極に頼まれていた契約書のひな型を作成していた。静かな部屋に飯塚のPCのキーボードを叩く音だけが聞こえている。

カタカタカタ・・・

そして飯塚は手を止め、画面をじっと見つめて何度も誤字脱字や文章の言い回しにおかしな箇所は無いかを何度も確認し・・・。

「よし、こんなものかしら?」

1人で呟くと、メール画面を開いて京極のアドレスを表示させるとメールを打ち、パスワードを掛けて添付ファイルを送った。

「ふう・・・。」

一息つくと、飯塚はあらかじめマグボトルに作っておいたホットコーヒーを一口飲んだ。

「もう京極さんはメールチェックしてくれているかしら・・。」

飯塚はポツリと呟き、さらにコーヒーを飲んだ。

 今、飯塚は正式に給料をもらって京極の秘書として仕事をしている。毎日の家事仕事から、京極の会社の秘書業務を日々こなし、充実した毎日を送っていた。
京極は相変わらず自室を使わずにリビングで仕事をしている。このマンションは約20畳のLDKになっており、広々としている。なので飯塚も本来ならリビングで仕事をしてもいい程であった。そうすれば、同じマンションにいるのにわざわざメールで業務のやり取りをする必要などないのだが・・飯塚が嫌だったのだ。

(冗談じゃないわ・・・。ただでさえ、1日中2人きりでこのマンションで息が詰まるって言うのに・・この上、同じ空間で仕事をするなんて耐えられないわ・・・!)

 今飯塚は京極から月々25万円の給料を提示されて貰っている。最初はひと月30万円もの給料を提示されたのだ。京極曰く、家政婦の仕事以外に会社の秘書業務もしてもらっているので当然の報酬額だと言われたのだが、家賃も光熱費も・・それどころか食費迄全て京極が出してくれているので、いくら何でもそれでは貰い過ぎだと飯塚は必死で拒絶し・・手取り25万円で手を打つことになったのだ。

(でもそれでも貰い過ぎなんだけどね・・。)

飯塚は思った。
もともと飯塚は男性にばかり媚びを売る女と陰口をたたかれ、女性受けは良くなく・・同性の友達は数えるほどしかいなかった。そのうえ飯塚が傷害事件を起こしてしまってからは・・まるきり連絡が途絶えてしまった。それどころか両親や親族にまで身元引受人を拒まれてしまったのだ。恋人だって当然いないので出かける機会もほとんどないので、お金を使う事も無くなってしまっていた。

(どうせ今お金の使い道は無いんだし・・・将来の為に貯めておいた方がいいかもね・・。)

多分今の生活は長く続くことは無いだろうと飯塚は決め込んでいた。今は京極に女性の存在は感じられないが、その内恋人が出来れば飯塚はここに住む事が出来なくなる。そしてそれは自立する時が来た事を意味するのだ。

(今のうちに一生懸命お金を貯めて・・・多分私ではアパートを借りる事も難しいかもしれない。だったら一括で安いマンションを買えるくらいまでにお金を貯めればいいのよね・・・。)

そんな風に自分の未来設計を考えていた時に、突然開いていたメールボックスに新しくメッセージが入ってきた。しかしそれは見覚えのないアドレスだった。

「え・・?迷惑メール・・?」

呟きながら受信メールをクリックして・・飯塚は凍り付きそうになった。

それは臼井からのメールだったのだ。

「ど、どうして・・臼井さんからメールが・・?」

そこで飯塚は思い出した。出所する前に刑務官に自分のPCのメールアドレスを伝えていたことを・・・。

「それで・・私にメールを入れてきたのね・・。」

忌々しい気持ちになりながらメールに目を通し・・飯塚は顔色が変わった。

それは臼井を名乗った勇からのメールだったのだ―。


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