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1-2 逃走失敗
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暖炉が赤々と燃える暖かな部屋。壁に掛けられた時計の音がカチコチと時を刻んでいる―。
ここは父の書斎である。私はあの後、有無を言わさず父に腕を掴まれ、書斎に拉致?されてしまったのだった。
そして今私はソファに座らされ、父は背を向けて窓の外に広がるルグラン家の庭を眺めていた。この部屋からは私が捕まってしまった厩舎も良く見える。まさにベストポジションの場所だ。きっと父はこの窓から外を眺め・・私が厩舎へ向かう姿を目にしたのかもしれない。その証拠に厩舎から屋敷へ向かう足跡が新雪の中に刻まれているのがチラリと目に入った。
「シルビア。」
突如父が重々しい口を開いた。
「は、はひっ!」
思わず声が上ずって妙な返事をしてしまった。
「お前・・・今日が何の日か知っているのだろう?」
父はこちらを見向きもせずに背中を向けたまま語る。
「は・・・はい・・・。1月・・1日です・・。」
今日で13回目のループなのだから嫌でも分る。何故なら毎回同じ日に死に・・同じ日に戻っているのだから。
「シルビア。お前は・・・それが分っていて・・一体何所へ行こうとしていたのだ?」
鋭い目つきで睨まれ、背中に嫌な汗が流れて来る。
「あ・・あの・・・お父様・・・。」
私は父を見上げた。栗毛色の髪に琥珀色の瞳の父は今年40歳になるが、とても若々しくまだ麗しい青年の様にも見える。そして早くに妻を亡くしていることから、親戚中から再婚話が持ち上がっているが、頑として首を縦に振らない。その父が・・・今私に対して静かに怒っている。
「何かいいわけがあるなら聞こう。これから王宮に入らなければならないから自分で馬に乗り、辺りを走らせたかったのか?」
「そう、その通りですっ!お父様っ!」
「嘘をつくなっ!」
しかし、呆気なく父に一喝されてしまった。
「この私の目がごまかせるとでも思ったのか?大体トランクケースを2つも馬に括り付けて、近場を走る人間がどこにいる?それにお前が着ている服はどう見ても外出用だ。さあ、本当はどうするつもりだったのだ?」
もうこうなっては正直に言うしかないだろう。
「お父様・・・。」
「何だ?」
「わ、私・・・城へは行きたくありませんっ!どうかこの話断って下さいっ!」
「無理だっ!」
即答する父に自分の心がくじけそうになる。しかし、ここでひいては私は無理矢理王宮へ連れて行かれ・・・最悪13回目の死を迎えてしまうかもしれないのだ。
「お願いです、お父様。私は何所にも行きたくないのです。どうかずっとこの屋敷に置いて下さいませ。もしお父様が私の意見を聞き入れて下さるなら、苦手なダンスの練習もピアノのレッスンも頑張ります。なのでどうか王宮にはやらないで下さい。」
自分の命がかかっているので両手を前に組んで必死に懇願する。
「シルビア・・・。」
すると父が眉を寄せて、ため息をついた。これは・・ひょっとして・・・?
「駄目だ、シルビア。我らは名門とうたわれたルグラン家。王室から直々にお前を寄越すように招待状が届いているのだ。」
「え・・・?招待状が・・・?」
そんな話は初耳だ。近隣諸国の年頃の貴族女性は全員有無を言わさず招集されるのだとばかり思っていたのに、まさか王室から招待状が届いていたなんて・・。
父は書斎の机に向かうと引き出しを開けて1通の手紙を取り出した。
「中を見るとよい。」
「は、はい・・・。」
私は封筒から1通の便箋を取り出し、目を通した。
『エドモンド・ルグラン』伯爵へ
帝国歴280年1月1日、貴殿の令嬢である『シルビア・ルグラン』嬢を我が国の第一王子『アンリ・ベルナール』様の妃候補としてお招き致します。必ず城にお越しいただくようお願い申し上げます。
筆頭代理人より
手紙にはそう書かれていた。
「お・・お父様・・・こ、これは一体・・?」
震えながら父を見上げた。
「分ったか?シルビアよ。お前が・・城に行かなければ、わが家紋を潰す事になるかもしれない。嫌だ、行きたくないだけでは通用しな世界なのだ。お前ももう18歳。未婚で婚約者もいないお前には・・・もはや王宮からの申し出を受け入れるしかないのだ。」
そ、そんな・・・。
13回目のループ・・目覚めてすぐに私は「逃走」という手段を失っていた―。
ここは父の書斎である。私はあの後、有無を言わさず父に腕を掴まれ、書斎に拉致?されてしまったのだった。
そして今私はソファに座らされ、父は背を向けて窓の外に広がるルグラン家の庭を眺めていた。この部屋からは私が捕まってしまった厩舎も良く見える。まさにベストポジションの場所だ。きっと父はこの窓から外を眺め・・私が厩舎へ向かう姿を目にしたのかもしれない。その証拠に厩舎から屋敷へ向かう足跡が新雪の中に刻まれているのがチラリと目に入った。
「シルビア。」
突如父が重々しい口を開いた。
「は、はひっ!」
思わず声が上ずって妙な返事をしてしまった。
「お前・・・今日が何の日か知っているのだろう?」
父はこちらを見向きもせずに背中を向けたまま語る。
「は・・・はい・・・。1月・・1日です・・。」
今日で13回目のループなのだから嫌でも分る。何故なら毎回同じ日に死に・・同じ日に戻っているのだから。
「シルビア。お前は・・・それが分っていて・・一体何所へ行こうとしていたのだ?」
鋭い目つきで睨まれ、背中に嫌な汗が流れて来る。
「あ・・あの・・・お父様・・・。」
私は父を見上げた。栗毛色の髪に琥珀色の瞳の父は今年40歳になるが、とても若々しくまだ麗しい青年の様にも見える。そして早くに妻を亡くしていることから、親戚中から再婚話が持ち上がっているが、頑として首を縦に振らない。その父が・・・今私に対して静かに怒っている。
「何かいいわけがあるなら聞こう。これから王宮に入らなければならないから自分で馬に乗り、辺りを走らせたかったのか?」
「そう、その通りですっ!お父様っ!」
「嘘をつくなっ!」
しかし、呆気なく父に一喝されてしまった。
「この私の目がごまかせるとでも思ったのか?大体トランクケースを2つも馬に括り付けて、近場を走る人間がどこにいる?それにお前が着ている服はどう見ても外出用だ。さあ、本当はどうするつもりだったのだ?」
もうこうなっては正直に言うしかないだろう。
「お父様・・・。」
「何だ?」
「わ、私・・・城へは行きたくありませんっ!どうかこの話断って下さいっ!」
「無理だっ!」
即答する父に自分の心がくじけそうになる。しかし、ここでひいては私は無理矢理王宮へ連れて行かれ・・・最悪13回目の死を迎えてしまうかもしれないのだ。
「お願いです、お父様。私は何所にも行きたくないのです。どうかずっとこの屋敷に置いて下さいませ。もしお父様が私の意見を聞き入れて下さるなら、苦手なダンスの練習もピアノのレッスンも頑張ります。なのでどうか王宮にはやらないで下さい。」
自分の命がかかっているので両手を前に組んで必死に懇願する。
「シルビア・・・。」
すると父が眉を寄せて、ため息をついた。これは・・ひょっとして・・・?
「駄目だ、シルビア。我らは名門とうたわれたルグラン家。王室から直々にお前を寄越すように招待状が届いているのだ。」
「え・・・?招待状が・・・?」
そんな話は初耳だ。近隣諸国の年頃の貴族女性は全員有無を言わさず招集されるのだとばかり思っていたのに、まさか王室から招待状が届いていたなんて・・。
父は書斎の机に向かうと引き出しを開けて1通の手紙を取り出した。
「中を見るとよい。」
「は、はい・・・。」
私は封筒から1通の便箋を取り出し、目を通した。
『エドモンド・ルグラン』伯爵へ
帝国歴280年1月1日、貴殿の令嬢である『シルビア・ルグラン』嬢を我が国の第一王子『アンリ・ベルナール』様の妃候補としてお招き致します。必ず城にお越しいただくようお願い申し上げます。
筆頭代理人より
手紙にはそう書かれていた。
「お・・お父様・・・こ、これは一体・・?」
震えながら父を見上げた。
「分ったか?シルビアよ。お前が・・城に行かなければ、わが家紋を潰す事になるかもしれない。嫌だ、行きたくないだけでは通用しな世界なのだ。お前ももう18歳。未婚で婚約者もいないお前には・・・もはや王宮からの申し出を受け入れるしかないのだ。」
そ、そんな・・・。
13回目のループ・・目覚めてすぐに私は「逃走」という手段を失っていた―。
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