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マルセルの章 ⑱ 君に伝えたかった言葉
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イングリット嬢の住む屋敷は町中にあった。大通りから1本横道に入るとその奥に続く道は全て高級住宅街となっている。大きな門壁に囲まれた大邸宅…その中でも特にひときわ大きな屋敷が彼女の屋敷だった。
門には2人の門番が立っており、事情を説明して馬車の中で酔いつぶれているイングリット嬢を見せると慌てた様に扉を開けて馬車を敷地内に入れてくれた。そして門番達は慌てた様子で屋敷に連絡をしに行った。俺とイングリット嬢を乗せた辻馬車も彼らの後をゆっくりついていくと、既に大きな扉の前では彼女の父親と母親らしき女性、そして数人の使用人達が待機していた。
キィ~…
馬車の扉を開け、降り立つと俺はイングリット嬢の父親らしき人物に挨拶をした。
「初めまして、夜分に大変申し訳ございません。マルセル・ハイムと申します。イングリット嬢とはちょっとした知り合いで、今夜偶然に町のバーでお会いし、一緒にお酒を飲んだのですが、眠ってしまわれたのでお屋敷までお連れ致しました」
何か突っ込まれてはたまらないと思った俺は自己紹介と状況を一気に説明した。
すると男性は言った。
「私はレイモンド・オルグレン…そこで酔いつぶれている娘の父です。このたびは娘が貴方に大変なご迷惑をおかけしたようで大変申し訳ございません」
そして深々と頭を下げて来た。
「私はイングリットの母のジョセフィーヌ・オルグレンと申します。娘を連れてきて頂き、ありがとうございます」
イングリットの母もお礼を述べて来た。
「いいえ、酔ってしまわれた御令嬢をお送りするのは当然の事ですから…それではこれで失礼致します」
頭を下げて、素早く背を向けた時―。
「君…待ちなさい」
レイモンド氏に呼び止められてしまった。
ああ…やはり…。
俺の嫌な予感は的中してしまった―。
****
通された部屋は豪華な調度品が置かれた応接室だった。肘あて付きの大きなソファに座らされた俺の前にはイングリット嬢の両親が難しい顔をして俺を見ている。
一体、何を言われるのだろうか…。
「君は…先程マルセル・ハイムと名乗ったな?」
レイモンド氏が突然口を開いた。
「はい、そうです」
心臓がドキドキして口から飛び出しそうだ。酔いなんかとっくに冷めていた。
「貴方のお名前はイングリットから聞いたことがあるわ。貴方には婚約者がいたにも関わらず、その女性の幸せを祈って自ら婚約破棄をしたそうね?」
「えっ?!」
その話に驚いた。俺はイングリット嬢の話すら父と母にしたことが無いのに…それなのにイングリット嬢はあろうことか、俺とアゼリアの事を両親に話していたなんて…一体何を考えているんだ?今は自室で心地良い眠りについているであろうイングリット嬢を恨みたくなってしまった。
「何をそんなに驚いているのだね?相手の女性には別に好きな男性がいたから君の方から身を引いたと娘からは聞かされているが?」
「な、何ですって…?」
嘘だ!そんな話はでっち上げた。大体俺と婚約破棄した時にはカイは傍にいなかった。彼が王太子として現れた後に2人は恋仲になったはず…。だが、ひょっとするとアゼリアは…フレーベル家にいた時から彼の事を好きだったのだろうか…?それで俺に婚約破棄を…?
「どうかしましたか?顔色が悪いようですが?」
ジョセフィーヌ夫人が声を掛けて来た。
「い、いえ。大丈夫です…お気遣いありがとうございます」
そうは言ったものの、あまりのショックで思考力が落ちかけていた。そこへ追い打ちをかけるようにレイモンド氏が言う。
「一体君は…イングリットとどのような関係なのだ?…まさか2人は恋仲なのではないだろうね?」
「な、何ですって…?!」
この時、俺は思った。
どうやらとんでもない状況に巻き込まれてしまったようだ…と―。
門には2人の門番が立っており、事情を説明して馬車の中で酔いつぶれているイングリット嬢を見せると慌てた様に扉を開けて馬車を敷地内に入れてくれた。そして門番達は慌てた様子で屋敷に連絡をしに行った。俺とイングリット嬢を乗せた辻馬車も彼らの後をゆっくりついていくと、既に大きな扉の前では彼女の父親と母親らしき女性、そして数人の使用人達が待機していた。
キィ~…
馬車の扉を開け、降り立つと俺はイングリット嬢の父親らしき人物に挨拶をした。
「初めまして、夜分に大変申し訳ございません。マルセル・ハイムと申します。イングリット嬢とはちょっとした知り合いで、今夜偶然に町のバーでお会いし、一緒にお酒を飲んだのですが、眠ってしまわれたのでお屋敷までお連れ致しました」
何か突っ込まれてはたまらないと思った俺は自己紹介と状況を一気に説明した。
すると男性は言った。
「私はレイモンド・オルグレン…そこで酔いつぶれている娘の父です。このたびは娘が貴方に大変なご迷惑をおかけしたようで大変申し訳ございません」
そして深々と頭を下げて来た。
「私はイングリットの母のジョセフィーヌ・オルグレンと申します。娘を連れてきて頂き、ありがとうございます」
イングリットの母もお礼を述べて来た。
「いいえ、酔ってしまわれた御令嬢をお送りするのは当然の事ですから…それではこれで失礼致します」
頭を下げて、素早く背を向けた時―。
「君…待ちなさい」
レイモンド氏に呼び止められてしまった。
ああ…やはり…。
俺の嫌な予感は的中してしまった―。
****
通された部屋は豪華な調度品が置かれた応接室だった。肘あて付きの大きなソファに座らされた俺の前にはイングリット嬢の両親が難しい顔をして俺を見ている。
一体、何を言われるのだろうか…。
「君は…先程マルセル・ハイムと名乗ったな?」
レイモンド氏が突然口を開いた。
「はい、そうです」
心臓がドキドキして口から飛び出しそうだ。酔いなんかとっくに冷めていた。
「貴方のお名前はイングリットから聞いたことがあるわ。貴方には婚約者がいたにも関わらず、その女性の幸せを祈って自ら婚約破棄をしたそうね?」
「えっ?!」
その話に驚いた。俺はイングリット嬢の話すら父と母にしたことが無いのに…それなのにイングリット嬢はあろうことか、俺とアゼリアの事を両親に話していたなんて…一体何を考えているんだ?今は自室で心地良い眠りについているであろうイングリット嬢を恨みたくなってしまった。
「何をそんなに驚いているのだね?相手の女性には別に好きな男性がいたから君の方から身を引いたと娘からは聞かされているが?」
「な、何ですって…?」
嘘だ!そんな話はでっち上げた。大体俺と婚約破棄した時にはカイは傍にいなかった。彼が王太子として現れた後に2人は恋仲になったはず…。だが、ひょっとするとアゼリアは…フレーベル家にいた時から彼の事を好きだったのだろうか…?それで俺に婚約破棄を…?
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「一体君は…イングリットとどのような関係なのだ?…まさか2人は恋仲なのではないだろうね?」
「な、何ですって…?!」
この時、俺は思った。
どうやらとんでもない状況に巻き込まれてしまったようだ…と―。
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