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マルセルの章 ㉑ 君に伝えたかった言葉
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屋敷に帰宅したのは23時半を過ぎていた。
「お帰りなさいませ。マルセル様」
扉を開けて屋敷の中へ入ると、深夜勤務のフットマンに出迎えられた。
「ああ、ただいま…母はまだ起きているだろうか?」
ネクタイを緩めながら俺は尋ねた。
「奥様なら先程自室に戻られました」
鞄を受け取ったフットマンが答える。
「そうか…」
なら、帰宅の挨拶はやめておこう。
「俺ももう休むことにするよ」
「はい、お休みなさいませ」
「ああ、お休み」
そして俺は自室へと向かった―。
****
「ふぅ…今夜はとんでもない目に遭った…」
自室のシャワールームから出た俺は濡れた髪をタオルでクシャクシャと拭きながら窓の外を眺めていた。すると部屋の扉がノックされ、母の声が聞こえた
「マルセル。ちょっといいかしら?」
「はい、どうぞ」
カチャリと扉が開かれ、夜着にガウンを羽織った母が部屋に入ってきた。
「お帰り、マルセル」
「はい、只今戻りました。遅くなって申し訳ございません」
「まぁ、無理も無いわね。遅くなったのは仕方ないことよ」
「え?あ…はい」
何故だろう?今の母の言い回しに違和感を覚える。
「…分かっているでしょうけど、明日は何処にも寄らずに真っ直ぐ帰宅するのよ?」
「はい…分かりました」
そうだな、この所連日真っ直ぐ帰宅していなかったし…。少し生活態度を改めた方が良いだろう。
「それならいいわ。疲れたでしょうから、早く寝なさい。お休みなさい」
「はい、お休みなさい」
挨拶を交わすと、母は部屋を出ていった。
「ふぅ…」
ドサリとロッキングチェアに座るとため息を着いた。
「確かに…今夜は疲れたな…。母さんの言うことも尤もだ。飲んで帰るのは暫く控えることにするか…」
濡れた髪をタオルで拭いながら呟いた。
そうだ、そもそも今夜あのバーに行かなければ厄介な事に巻き込まれずに済んだのだ。
だが…。
「俺があの場にいなかったら…イングリット嬢はどうなっていたのだろう…?」
少しだけ、彼女の顔を頭に思い浮かべ…フッと口元に笑みが浮かんだ。
いや、気の強い彼女の事だ。きっと俺があの場で止めなくても、1人で何とかしていただろう。
「そうだ…守ってやらなければならないような女性は…アゼリアのような女性だったんだ…」
何故、俺は余計な真似をしてしまったのだろう?
そして、俺は今は亡き婚約者の事を思い…ため息をついた―。
****
翌朝7時―
珍しい事に朝食の席に母の姿がなかった。
「…母はどうしているのだ?」
食卓のテーブルに着くと、給仕係のフットマンに尋ねた。
「奥様なら、今日はまだお休みです。昨夜はお急がしかったご様子で遅くに休まれたので8時までは起こさないようにと申しつかっております」
「ふ~ん…そうなのか?」
珍しい事もあるものだ。
そして俺は目の前に置かれた皿に手を伸ばした―。
午前8時50分―
いつもと同じ時間に出勤し、勤務先の部署の扉を開けた。
「おはようございます」
既に出勤していた女性社員が声を掛けてきた。
「おはよう、ねぇ…見たわよ。昨夜の騒ぎ」
「え…?昨夜の騒ぎ?一体何のことです?」
すると彼女は言った。
「何言ってるのよ。バーで酔っぱらいに絡まれていた恋人を勇ましく助けていたじゃないの」
「えっ?!」
「驚いたわ。恋人と一緒にバーでお酒を飲んでいたら、突然女性が酔っ払いに絡まれて…そこを貴方が助けに現れたのだもの。あの時の貴方…中々素敵だったわよ?お相手の女性も貴方の事、目をキラキラさせながら見つめていたわよ?」
彼女の言葉に俺は青ざめる。昨夜のバーの騒ぎってまさか…!
「そ、それは違うっ!誤解だ!あの女性は…!」
そこまで言いかけた時、背後で声を掛けられた。
「おはよう、2人とも」
そ、その声は…。
恐る恐る振り向くと、そこには笑みを浮かべたブライアンが立っていた。まさか、今の話聞かれて…?
「あ、おはようございます。ブライアン」
「…おはようございます」
女性社員に続き、俺も挨拶する。
「ああ、おはよう。皆が集まったら後で大事な報告をさせてもらうから宜しくね」
ブライアンは笑みを浮かべながら言う。
「「はい、分かりました」」
2人で声を合わせて返事をすると、ブライアンは頷いて自分のデスクへと向かった。
…その後姿に何故か俺は一抹の不安を感じた―。
「お帰りなさいませ。マルセル様」
扉を開けて屋敷の中へ入ると、深夜勤務のフットマンに出迎えられた。
「ああ、ただいま…母はまだ起きているだろうか?」
ネクタイを緩めながら俺は尋ねた。
「奥様なら先程自室に戻られました」
鞄を受け取ったフットマンが答える。
「そうか…」
なら、帰宅の挨拶はやめておこう。
「俺ももう休むことにするよ」
「はい、お休みなさいませ」
「ああ、お休み」
そして俺は自室へと向かった―。
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「ふぅ…今夜はとんでもない目に遭った…」
自室のシャワールームから出た俺は濡れた髪をタオルでクシャクシャと拭きながら窓の外を眺めていた。すると部屋の扉がノックされ、母の声が聞こえた
「マルセル。ちょっといいかしら?」
「はい、どうぞ」
カチャリと扉が開かれ、夜着にガウンを羽織った母が部屋に入ってきた。
「お帰り、マルセル」
「はい、只今戻りました。遅くなって申し訳ございません」
「まぁ、無理も無いわね。遅くなったのは仕方ないことよ」
「え?あ…はい」
何故だろう?今の母の言い回しに違和感を覚える。
「…分かっているでしょうけど、明日は何処にも寄らずに真っ直ぐ帰宅するのよ?」
「はい…分かりました」
そうだな、この所連日真っ直ぐ帰宅していなかったし…。少し生活態度を改めた方が良いだろう。
「それならいいわ。疲れたでしょうから、早く寝なさい。お休みなさい」
「はい、お休みなさい」
挨拶を交わすと、母は部屋を出ていった。
「ふぅ…」
ドサリとロッキングチェアに座るとため息を着いた。
「確かに…今夜は疲れたな…。母さんの言うことも尤もだ。飲んで帰るのは暫く控えることにするか…」
濡れた髪をタオルで拭いながら呟いた。
そうだ、そもそも今夜あのバーに行かなければ厄介な事に巻き込まれずに済んだのだ。
だが…。
「俺があの場にいなかったら…イングリット嬢はどうなっていたのだろう…?」
少しだけ、彼女の顔を頭に思い浮かべ…フッと口元に笑みが浮かんだ。
いや、気の強い彼女の事だ。きっと俺があの場で止めなくても、1人で何とかしていただろう。
「そうだ…守ってやらなければならないような女性は…アゼリアのような女性だったんだ…」
何故、俺は余計な真似をしてしまったのだろう?
そして、俺は今は亡き婚約者の事を思い…ため息をついた―。
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翌朝7時―
珍しい事に朝食の席に母の姿がなかった。
「…母はどうしているのだ?」
食卓のテーブルに着くと、給仕係のフットマンに尋ねた。
「奥様なら、今日はまだお休みです。昨夜はお急がしかったご様子で遅くに休まれたので8時までは起こさないようにと申しつかっております」
「ふ~ん…そうなのか?」
珍しい事もあるものだ。
そして俺は目の前に置かれた皿に手を伸ばした―。
午前8時50分―
いつもと同じ時間に出勤し、勤務先の部署の扉を開けた。
「おはようございます」
既に出勤していた女性社員が声を掛けてきた。
「おはよう、ねぇ…見たわよ。昨夜の騒ぎ」
「え…?昨夜の騒ぎ?一体何のことです?」
すると彼女は言った。
「何言ってるのよ。バーで酔っぱらいに絡まれていた恋人を勇ましく助けていたじゃないの」
「えっ?!」
「驚いたわ。恋人と一緒にバーでお酒を飲んでいたら、突然女性が酔っ払いに絡まれて…そこを貴方が助けに現れたのだもの。あの時の貴方…中々素敵だったわよ?お相手の女性も貴方の事、目をキラキラさせながら見つめていたわよ?」
彼女の言葉に俺は青ざめる。昨夜のバーの騒ぎってまさか…!
「そ、それは違うっ!誤解だ!あの女性は…!」
そこまで言いかけた時、背後で声を掛けられた。
「おはよう、2人とも」
そ、その声は…。
恐る恐る振り向くと、そこには笑みを浮かべたブライアンが立っていた。まさか、今の話聞かれて…?
「あ、おはようございます。ブライアン」
「…おはようございます」
女性社員に続き、俺も挨拶する。
「ああ、おはよう。皆が集まったら後で大事な報告をさせてもらうから宜しくね」
ブライアンは笑みを浮かべながら言う。
「「はい、分かりました」」
2人で声を合わせて返事をすると、ブライアンは頷いて自分のデスクへと向かった。
…その後姿に何故か俺は一抹の不安を感じた―。
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