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マルセルの章 ㉔ 君に伝えたかった言葉
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「コ、コホン…そ、そんな事があったのですね」
イングリット嬢は俺から視線を逸らし、頬を赤らめながら咳払いすると再び目線を向けると言った。
「マルセル様には相当ご迷惑をお掛けしてしまいましたわね。本当に…申し訳ございませんでした。そして、ありがとうございます」
深々と頭を下げて来た。
「いや。いいですよ。そんなに丁寧に頭を下げて頂かなくても」
普段気の強いイングリット嬢を見慣れているので、戸惑ってしまう。
「いいえ、本当にマルセル様には感謝しているのです。実は…あの時正直、昨夜困っていたのです」
「え?何を困っていたのですか?」
「ええ…。父と母とブライアンの事で口論になって…こんな家、出て行くわと言って啖呵を切っては見たものの…正直に申しますと行くあてが無くて困り果てていたのです。そこでとりあえずあのお店に入ってお酒を飲みながらこれからの事を考えようと思っていた時に…酔っ払いに絡まれてしまって…」
「そうだったのですか?」
「騒ぎになる前からあの男は私の座るテーブルにやって来て絡んできていたのです。周りを見渡しても誰も知らんふりで助けてくれなくて、ついにあのような騒ぎになってしまいました。そこへマルセル様が助けに来て下さったのです。あ…あの時のマルセル様は…まるで映画に出て来るヒーローの様に私の目には映りました…。おまけに帰りにくかった屋敷にもマルセル様が連れ帰って下さったので、お陰ですんなり家に戻ることが出来たのです。本当に感謝しても…しきれませんわ」
先程よりもますます顔を赤らめながらイングリットは言う。
「ヒーロー…」
そんな風に言われたのは初めてだ。俺は自分のふがいなさをずっと悔いていた。こんな男だから、アゼリアの状況に気付かなかったのに?もっと早く彼女をあの屋敷から救い出せていれば…アゼリアは病気にならなかったかもしれないし、今も生きていられたかもしれない。俺が情けない男だから…アゼリアに婚約破棄して貰いたいと言われたのに…?
けれどイングリット嬢はそんな目で俺を…。
「マルセル様?どうされたのですか?」
俺が黙ってしまったからだろう。イングリット嬢が声を掛けて来た。
「い、いえ。社交辞令だとしても…ヒーローと言われると…何というか、悪い気はしませんね」
照れ隠しに頭に手をやりながら返事をする。
「いいえ、社交辞令等ではありませんわ。本当に私の目にはそう、映ったのですから。マルセル様は困っている人間には手を差し伸べる事が出来る…素敵な方だと思っています」
イングリット嬢は真剣な目で俺を見る。
「ありがとうございます…」
何故だろう?彼女の言葉が俺の心に染み入ってくるのは…。
「べ、別にお礼を言われるほどの物ではありません。私は自分の思ったことを…そのまま話しているだけですから」
「そうかもしれませんけど…でも嬉しいです。有難うございます」
俺も素直な気持ちでイングリット嬢に礼を述べ、再度尋ねた。
「そう言えば、まだ何故イングリット嬢が会社の前で俺を待っていたのか理由を聞いていませんでしたね?」
「ええ。その事なのですが、実は両親に言われたのです。マルセル様にご迷惑をかけてしまったので、今夜私が馬車で迎えに行き、マルセル様を邸宅まで送るようにと」
「ええ?!そんな理由でですか?!」
何て事だ…そこまでしてもらう理由等無いのに…っ!しかし、イングリット嬢は言った。
「でも、私にとっても都合が良かったのです。こうやってお会いしてお礼を述べる事が出来ましたから」
「そう…ですか?」
何だ、そんな理由だったのか…。良かった。てっきりもっと深い理由でもあるのかと勘ぐってしまった。
「あ、そろそろハイム家に到着するのではありませんか?」
馬車の窓から外を眺めていたイングリット嬢がいう。俺も窓の外を見ると、確かに邸宅が見えて来た。
やれやれ…今夜は何事も無く済みそうだ。
イングリット嬢にはお茶の1杯でもふるまってあげよう。
だが…俺はすっかり油断していたのだ。
この先、何が待っているのかを疑う事も無く―。
イングリット嬢は俺から視線を逸らし、頬を赤らめながら咳払いすると再び目線を向けると言った。
「マルセル様には相当ご迷惑をお掛けしてしまいましたわね。本当に…申し訳ございませんでした。そして、ありがとうございます」
深々と頭を下げて来た。
「いや。いいですよ。そんなに丁寧に頭を下げて頂かなくても」
普段気の強いイングリット嬢を見慣れているので、戸惑ってしまう。
「いいえ、本当にマルセル様には感謝しているのです。実は…あの時正直、昨夜困っていたのです」
「え?何を困っていたのですか?」
「ええ…。父と母とブライアンの事で口論になって…こんな家、出て行くわと言って啖呵を切っては見たものの…正直に申しますと行くあてが無くて困り果てていたのです。そこでとりあえずあのお店に入ってお酒を飲みながらこれからの事を考えようと思っていた時に…酔っ払いに絡まれてしまって…」
「そうだったのですか?」
「騒ぎになる前からあの男は私の座るテーブルにやって来て絡んできていたのです。周りを見渡しても誰も知らんふりで助けてくれなくて、ついにあのような騒ぎになってしまいました。そこへマルセル様が助けに来て下さったのです。あ…あの時のマルセル様は…まるで映画に出て来るヒーローの様に私の目には映りました…。おまけに帰りにくかった屋敷にもマルセル様が連れ帰って下さったので、お陰ですんなり家に戻ることが出来たのです。本当に感謝しても…しきれませんわ」
先程よりもますます顔を赤らめながらイングリットは言う。
「ヒーロー…」
そんな風に言われたのは初めてだ。俺は自分のふがいなさをずっと悔いていた。こんな男だから、アゼリアの状況に気付かなかったのに?もっと早く彼女をあの屋敷から救い出せていれば…アゼリアは病気にならなかったかもしれないし、今も生きていられたかもしれない。俺が情けない男だから…アゼリアに婚約破棄して貰いたいと言われたのに…?
けれどイングリット嬢はそんな目で俺を…。
「マルセル様?どうされたのですか?」
俺が黙ってしまったからだろう。イングリット嬢が声を掛けて来た。
「い、いえ。社交辞令だとしても…ヒーローと言われると…何というか、悪い気はしませんね」
照れ隠しに頭に手をやりながら返事をする。
「いいえ、社交辞令等ではありませんわ。本当に私の目にはそう、映ったのですから。マルセル様は困っている人間には手を差し伸べる事が出来る…素敵な方だと思っています」
イングリット嬢は真剣な目で俺を見る。
「ありがとうございます…」
何故だろう?彼女の言葉が俺の心に染み入ってくるのは…。
「べ、別にお礼を言われるほどの物ではありません。私は自分の思ったことを…そのまま話しているだけですから」
「そうかもしれませんけど…でも嬉しいです。有難うございます」
俺も素直な気持ちでイングリット嬢に礼を述べ、再度尋ねた。
「そう言えば、まだ何故イングリット嬢が会社の前で俺を待っていたのか理由を聞いていませんでしたね?」
「ええ。その事なのですが、実は両親に言われたのです。マルセル様にご迷惑をかけてしまったので、今夜私が馬車で迎えに行き、マルセル様を邸宅まで送るようにと」
「ええ?!そんな理由でですか?!」
何て事だ…そこまでしてもらう理由等無いのに…っ!しかし、イングリット嬢は言った。
「でも、私にとっても都合が良かったのです。こうやってお会いしてお礼を述べる事が出来ましたから」
「そう…ですか?」
何だ、そんな理由だったのか…。良かった。てっきりもっと深い理由でもあるのかと勘ぐってしまった。
「あ、そろそろハイム家に到着するのではありませんか?」
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やれやれ…今夜は何事も無く済みそうだ。
イングリット嬢にはお茶の1杯でもふるまってあげよう。
だが…俺はすっかり油断していたのだ。
この先、何が待っているのかを疑う事も無く―。
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