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第35話 何しに来たの?
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「全く…。それにしても退学処分にすると息巻いている教師に反省文と『魔法学』のレポートを提出する意味があるのかしら…?大体レポート提出なんて言われているけど、そんな物提出しても絶対再提出を命じられそうな気がするわ」
ジョンがどこかへ行き、1人になった私は昇降口目指しながら歩いていた。
そもそも退学を免れる為にジョンが提案した反省文とレポート提出。それを当の教師が絶対に退学させると息巻いている以上、書くのも提出するのも無意味としか思えない。
そうだ…いっそのこと、何もかも放棄して逃げてしまおうか?どうせ私は家族からは嫌われているようだし、そもそも記憶喪失になっている今、自分が置かれている状況に違和感しか感じないのだから。
…等と考え事をしている間に気付けば昇降口へとやって来ていた。
「え…と…馬車の待合所はどこかしら…?」
記憶喪失になっている今、建物の構造も何処に何があるかもさっぱり分からない。
「それにしても…妙な話よね。いくら記憶喪失になったからと言って…こんなに何もかも忘れてしまうものかしら?」
本当に私は記憶喪失なのだろうか…?だんだん不安になってくる。ひょっとすると私はユリアではない全くの別人で、何らかの力でこの体に乗り移ってしまったのではないだろうか…?
「う~ん…そう考えるのが一番まっとうよね…」
ブツブツ言っている私のそばを気味悪そうに横目で見ながら学生たちが通り過ぎていく。
そうだ、彼等の後をついていけば馬車の待合所に着くのかも知れない…。そう思った私は学生たちの後をつけることにした―。
****
やはり思った通り、学生たちの後をついていくとそこは馬車の待合所だった。彼等は皆、自分たちを迎えに来た馬車に乗り込むと学園を去っていく。
「ジョンが来るまで待っているしかないわね…」
私にはどの馬車が自分を迎えに来ている馬車か分からない。それに仮に馬車に乗ったとしてもジョンを置いて帰るわけにはいかない。そんな事をすれば私は明日を迎えることが出来ないかもしれない…。
そこで大人しくベンチに座り、ジョンが来るのを待っていると前方から見知った顔がズンズンこちらへ向かって歩いてくる。その人物は…。
「こんなところで何をしているんだ?」
ベルナルド王子は3人の腰巾着を後ろに連れ、腕組みをすると私の前に立ちはだかった。
「こんにちは…ベルナルド王子…」
何でまた私の前に現れるのだろう?関わりたくないから何処かへ行って貰いたいのに…。そんな私の思いが通じたのか、王子が言った。
「何だ?その露骨に嫌そうな顔は…」
「いえ、決してそのような事はありませんが」
そう見えるなら、早く何処かへ行って貰えないだろうか?
「こんなところで何をしている?迎えの馬車がまだ来ていないのか?」
ベルナルド王子がキョロキョロしながら尋ねてきた。
「さぁ、どうなのでしょうか?」
どの馬車が迎えの馬車か分からないのだから答えようがない。
「何だ?その曖昧な答えは…?」
ベルナルド王子が首を傾げる。
「あ…」
その時、私は重要な事に気がついた。もし私を迎えに来た馬車ならば、御者は当然私の顔を知っているので探しに来てくれるはずだ。それが未だに御者が現れないという事はまだ迎えの馬車は来ていないに違いない。そこで私は言った。
「はい、迎えの馬車を待っています」
「そうか…成程。まだ迎えの馬車が来ていないというわけか?だがお前は父親からも疎まれているからなぁ…迎えの馬車すらよこしていないかも知れないぞ?」
意地悪そうな笑みを浮かべながらベルナルド王子が言う。あまり考えたくはないが、本当にそんな事があるのだろか?それにしても…。
「…」
私はじっと王子を見た。…しかし、この人は一体何の為にここにいるのだろう?私のことが嫌いなはずなのに、難癖つける為だけにやってきたのだとしたらかなりの暇人に違いない。
すると見かねたのか、腰巾着の一人である銀の髪の青年が言った。
「ベルナルド王子、もう良いではありませんか?あの様な人物、相手にすることはありませんよ。早く帰りましょう」
彼はこの3人の腰巾着のリーダーなのだろうか?あの時も一番最初に口を開いたし。しかも仮にも王子の婚約者であり、公爵令嬢の私をあまりにも軽んじた発言をするくらいなのだから。
「ええ、そのとおりです。王子、時間の無駄ですよ」
黒髪の青年が言う。
「テレシア様と約束されているのですよね?」
「馬鹿っ!余計な事を言うなっ!」
ベルナルド王子が青い髪の青年を叱りつけた。成程…王子がこの後テレシアと会うことが分かった。
「ベルナルド王子、テレシアさんと約束されているのですよね?」
「あ?ああ、そうだ。…フフン。さては俺とテレシアの事を気にしているのだな?」
え?
ベルナルド王子はニヤリと笑うと、訳の分からないことを言って来た。
「いえ?別にそのような事はありませんけど?それよりも約束されているのなら、早く帰られた方が良いのではないですか?」
私の言葉が気に触ったのか、突然ベルナルド王子が苛立ちを顕にした。
「おい、ユリア。お前が1人でベンチに座っているから何かあったのかと思ってわざわざ声を掛けに来たのに、その言い草は何だ?」
ベルナルド王子が私に一歩近付いてきたその時、異変が起きた―。
ジョンがどこかへ行き、1人になった私は昇降口目指しながら歩いていた。
そもそも退学を免れる為にジョンが提案した反省文とレポート提出。それを当の教師が絶対に退学させると息巻いている以上、書くのも提出するのも無意味としか思えない。
そうだ…いっそのこと、何もかも放棄して逃げてしまおうか?どうせ私は家族からは嫌われているようだし、そもそも記憶喪失になっている今、自分が置かれている状況に違和感しか感じないのだから。
…等と考え事をしている間に気付けば昇降口へとやって来ていた。
「え…と…馬車の待合所はどこかしら…?」
記憶喪失になっている今、建物の構造も何処に何があるかもさっぱり分からない。
「それにしても…妙な話よね。いくら記憶喪失になったからと言って…こんなに何もかも忘れてしまうものかしら?」
本当に私は記憶喪失なのだろうか…?だんだん不安になってくる。ひょっとすると私はユリアではない全くの別人で、何らかの力でこの体に乗り移ってしまったのではないだろうか…?
「う~ん…そう考えるのが一番まっとうよね…」
ブツブツ言っている私のそばを気味悪そうに横目で見ながら学生たちが通り過ぎていく。
そうだ、彼等の後をついていけば馬車の待合所に着くのかも知れない…。そう思った私は学生たちの後をつけることにした―。
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やはり思った通り、学生たちの後をついていくとそこは馬車の待合所だった。彼等は皆、自分たちを迎えに来た馬車に乗り込むと学園を去っていく。
「ジョンが来るまで待っているしかないわね…」
私にはどの馬車が自分を迎えに来ている馬車か分からない。それに仮に馬車に乗ったとしてもジョンを置いて帰るわけにはいかない。そんな事をすれば私は明日を迎えることが出来ないかもしれない…。
そこで大人しくベンチに座り、ジョンが来るのを待っていると前方から見知った顔がズンズンこちらへ向かって歩いてくる。その人物は…。
「こんなところで何をしているんだ?」
ベルナルド王子は3人の腰巾着を後ろに連れ、腕組みをすると私の前に立ちはだかった。
「こんにちは…ベルナルド王子…」
何でまた私の前に現れるのだろう?関わりたくないから何処かへ行って貰いたいのに…。そんな私の思いが通じたのか、王子が言った。
「何だ?その露骨に嫌そうな顔は…」
「いえ、決してそのような事はありませんが」
そう見えるなら、早く何処かへ行って貰えないだろうか?
「こんなところで何をしている?迎えの馬車がまだ来ていないのか?」
ベルナルド王子がキョロキョロしながら尋ねてきた。
「さぁ、どうなのでしょうか?」
どの馬車が迎えの馬車か分からないのだから答えようがない。
「何だ?その曖昧な答えは…?」
ベルナルド王子が首を傾げる。
「あ…」
その時、私は重要な事に気がついた。もし私を迎えに来た馬車ならば、御者は当然私の顔を知っているので探しに来てくれるはずだ。それが未だに御者が現れないという事はまだ迎えの馬車は来ていないに違いない。そこで私は言った。
「はい、迎えの馬車を待っています」
「そうか…成程。まだ迎えの馬車が来ていないというわけか?だがお前は父親からも疎まれているからなぁ…迎えの馬車すらよこしていないかも知れないぞ?」
意地悪そうな笑みを浮かべながらベルナルド王子が言う。あまり考えたくはないが、本当にそんな事があるのだろか?それにしても…。
「…」
私はじっと王子を見た。…しかし、この人は一体何の為にここにいるのだろう?私のことが嫌いなはずなのに、難癖つける為だけにやってきたのだとしたらかなりの暇人に違いない。
すると見かねたのか、腰巾着の一人である銀の髪の青年が言った。
「ベルナルド王子、もう良いではありませんか?あの様な人物、相手にすることはありませんよ。早く帰りましょう」
彼はこの3人の腰巾着のリーダーなのだろうか?あの時も一番最初に口を開いたし。しかも仮にも王子の婚約者であり、公爵令嬢の私をあまりにも軽んじた発言をするくらいなのだから。
「ええ、そのとおりです。王子、時間の無駄ですよ」
黒髪の青年が言う。
「テレシア様と約束されているのですよね?」
「馬鹿っ!余計な事を言うなっ!」
ベルナルド王子が青い髪の青年を叱りつけた。成程…王子がこの後テレシアと会うことが分かった。
「ベルナルド王子、テレシアさんと約束されているのですよね?」
「あ?ああ、そうだ。…フフン。さては俺とテレシアの事を気にしているのだな?」
え?
ベルナルド王子はニヤリと笑うと、訳の分からないことを言って来た。
「いえ?別にそのような事はありませんけど?それよりも約束されているのなら、早く帰られた方が良いのではないですか?」
私の言葉が気に触ったのか、突然ベルナルド王子が苛立ちを顕にした。
「おい、ユリア。お前が1人でベンチに座っているから何かあったのかと思ってわざわざ声を掛けに来たのに、その言い草は何だ?」
ベルナルド王子が私に一歩近付いてきたその時、異変が起きた―。
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