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第1章 28 アパートに響き渡る怒声

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 19時―

自転車を漕いで、アパートへ帰ってみるとたっくんの部屋を見上げてみる。

「たっくんのお父さん…帰っているのかな…?」

出来れば帰っていなければいいのに。

そうすればたっくんは父親からの暴力に怯えたり、痛めつけられることも無い。
それどころか私が面倒みてあげる事が出来るのに…。

そして気付いた。

「やだ、私ったら何て不謹慎な事考えているんだろう」

例え、どんな父親であろうとも、たっくんの一人きりのお父さんなのだから…。

溜息をつくと、私は自転車を止めるべく…アパート駐輪場に向かった。



 アパートの外階段を上り切り、たっくんのいる部屋の前で一度足を止めた。

「…」

部屋の中からはテレビの音らしきものが聞こえている。きっとこの様子では、今夜は父親は隣の部屋にいるのだろう…。

仕方ない…。今夜は諦めるしかないか…。


そして私は自分の部屋のアパートの鍵を開けた―。


****

「それにしても残念だな。今夜のメニューは野菜たっぷりのタコライスなのに…」

玉ねぎやニンジン、ピーマン、シイタケをフードプロセッサーでみじん切りにしながらため息をついた。
タコライスは私の大好きなメニュー。きっとたっくんも気にいってくれると思ったのに…。

フライパンに油を引いて、みじん切りにした野菜をジュージュー炒めながらたっくんの事を思った。

「今夜はちゃんと夜ご飯食べているのかな…?」

合いびき肉を加えて、さらに炒めながらため息一つ。

「本当にお父さんが帰っているのか確かめに行こうかな…?」

トマトケチャップ、カレー粉、ウスターソース、しょうゆ等の調味料を加えて味を見ながらさらに炒める。


そして…スプーンですくって味を見る。

「うん、完成っ!」

我ながら美味しく出来た。

それにしても…。

「う…ちょっと量が多すぎたかもしれない…」

今夜はたっくんも拓也さんもいないと言うのに、ついいつもの癖で多めに作ってしまった。

「でも…まぁいいでしょう。冷凍保存しておけばいいことだしね」

そして1食分だけ取り分けると残りはフリーザーバッグに入れた―。



****

21時―


 それは突然の出来事だった。その時、私はネットで芸能人のブログを読んでいた。

すると…。

バリーンッ!!

突如としてガラスが割れるような音が築35年の安普請アパートに響き渡った。


「てめえっ!!ふざけるなっ!このクソガキがっ!」

「ごめんなさい…ごめんなさい…もうしないから…」

父親の怒声とたっくんの悲し気な…苦し気な鳴き声が聞こえて来る。
たっくんが…父親から虐待されているんだっ!

「大丈夫…大丈夫よ、たっくん。お姉ちゃんが…今、連絡入れて上げるから…」


そして私は震える手で警察に連絡を入れる為にスマホをタップした。


たっくん…。

大丈夫、私が必ず守ってあげるからね―。



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