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17-11 重い恋煩い?

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「アリアドネ様がいなくなったそうではないか!一体どういうことなのだ?!」

 スティーブから話を聞きつけたエデルガルトは執務室にやってくるなり、シュミットに問いかけた。

「え、ええ……私は詳しい事情は分からないのですが、どうやら今まで迷惑を掛けてしまったことへのお詫びが手紙に綴られていたそうです」

「何?一体あの方がどのような迷惑を掛けたと話しておったのだ?」

「はい……エルウィン様宛のお手紙を読んだ限りでは、勝手にエルウィン様に嫁ぎに来たこと。そして自分のせいで城に迷惑を掛け、ロイを死なせてしまったことへのお詫びが綴られていました」

「何ということだ……城で反乱が起こったのは何もアリアドネ様のせいではないのに……全てはオズワルドの仕業。起こるべきして起きてしまった事件だったのに何故御自分を責められたのだろう」

エデルガルトは沈痛な面持ちで語る。

「そうですよね……。何故アリアドネ様は御自分を責められたのでしょう……ひょっとするとエルウィン様なら何か事情を知っておられるのかもしれませんが……」

 シュミットは部屋の隅をちらりと見た。そこには窓の方を向いて椅子に座ってぼんやりしているエルウィンがいる。

「見ての通り……今のエルウィン様は使い物になりませんから」

 エデルガルトに小声で囁いた。

「むぅ……確かに……幼少の頃よりエルウィン様を見てきたが、あのようなお姿は初めてだ」

「エデルガルト様からも何か仰って頂けますか?いくら私が話しかけても『ああ』とか『うむ』といった生返事しかして下さらないのですよ。どうやらアリアドネ様に捨てられたことで完全に打ちのめされてしまったようなのです」

「シュミット……お前も大分毒舌のようだな?」

 エデルガルトは苦笑しながらシュミットを見た。

「そうでしょうか?私はただ思った通りのことを申し上げているだけですが?」

「ま、まぁよい……。では、ダメ元で私から話してみよう」

「はい、宜しくお願い致します」

 
 エデルガルトは早速部屋の片隅で呆けたように窓の外を見ているエルウィンの元へ向かった。


「エルウィン様」

 背後から声を掛けられ、エルウィンは振り向いた。

「あ……師匠ではありませんか。いつからそこにいらしたのです?」

「何と……!」

 その言葉にエデルガルトは眉をしかめた。

(何ということだ……いつものエルウィン様なら人一倍、気配に敏感なのに……声を掛けられるまで気づかないとは。これでは今仮に敵が襲ってきたら……使い物にならないかもしれないぞ!これは非常にまずいな……)

「エルウィン様、しっかりなさって下さい。アリアドネ様なら今スティーブ率いる騎士団が近隣の宿場村を捜索している最中ですから」

しかし、エルウィンは首を振った。

「ですが……師匠。アリアドネは俺に嫌気がさして、誰にも気づかれないように城を出たのですよ……?それなのに強引に連れ戻せば、ますます俺はアリアドネから嫌悪されてしまうだけです……」

 深いため息をつくエルウィン。

「エルウィン様……」

(なんという事だ……。『戦場の暴君』と恐れられるエルウィン様が、ここまで打ちのめされたことがあっただろうか……?)

 エデルガルトは思った。

 エルウィンはかなり重たい恋煩いにかかってしまったようだ――と。 
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