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17-10 衝撃の朝

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 アリアドネとヨゼフがアイゼンシュタット城を出たことは誰も知らず……そして夜が明けた――。



 午前7時――

「ふわぁああ……」

 朝が弱いエルウィンは欠伸を噛み殺しながら、執務室でコーヒーを飲んでいた。

「随分大きな欠伸ですね、エルウィン様」

 書類に目を通しながらシュミットが声を掛けた。

「……仕方ないだろう?だが戦場では違うぞ?三日三晩不眠不休で進軍した経験が何回有ると思っている?」

 ジロリと睨みつけるようにエルウィンは反論した。

「まぁ、確かに有事の際はエルウィン様は人が変わったようになりますが……」

 その時――

 バタバタと慌てたように廊下を走る足音がいくつも聞こえてきた。

「何だ?朝っぱらから騒がしい……。ひょっとして敵でもやってきたか?」

「さぁ……そのような動きは……」

 シュミットが言いかけた時―――。

 突然乱暴に扉が開かれると同時にミカエルとウリエルがメイド服を着たセリアと共に飛び込んできた。

「お、お前達……それにセリアまで。一体どうしたのだ?」

 3人のただ事ではない様子にエルウィンは尋ねた。セリアは顔が青ざめているし、ミカエルやウリエルに関しては泣き顔になっている。

「た、大変です!エルウィン様……ア、アリアドネが……」

 セリアの声は震えている。

「アリアドネがどうしたのだ?!」

 その名前で素早くエルウィンは反応した。

「リアが……リアが城を出ちゃったんだよー!」
「うわあああああんっ!!リアーッ!!」

アリアドネのことが大好きだったミカエルとウリエルはとうとう大きな声で泣き出してしまった。

「な、何だってっ?!出ていっただと?!それは本当か?!」

「そ、そんな……!!」

エルウィンとシュミットの顔が青ざめる。

「は、はい。本当です……部屋には置き手紙もありました。ミカエル様とウリエル様に、私達宛……そしてこれがエルウィン様宛の手紙です」
 
セリアが差し出した手紙をエルウィンはひったくるように取ると、すぐに開封して目を通した。

 そこには半年間お世話になったお礼との他に、お詫びの言葉が綴られていた。
勝手に城へ来てしまったこと……そして自分のせいで城に混乱をきたし、ロイを死なせてしまったことへの詫びだった。

「ア、アリアドネ……」

 震えながら手紙を読み終えたエルウィン。その時、今度は慌てた様子でスティーブが部屋に駆け込んできた。

「大変です!大将っ!アリアドネ……いや、アリアドネ様とヨゼフさんが城から姿を消したそうです……ってあれ?何で皆ここにいるんだ?」

 スティーブは辺りを見渡し、ミカエルとウリエルがセリアにしがみついて泣いていることに気がついた。

「分かっている。今エルウィン様もアリアドネ様からの手紙を読んでいたところだ」

「え?」

 シュミットに言われて、スティーブはエルウィンを見た。
エルウィンは肩を震わせながら手紙を握りしめている。

「エルウィン様、当然追いかけ……」

 シュミットが声を掛けた時――。

 ゴンッ!

 突然エルウィンが机の上に頭を打ち付けた。あまりのことに目を見張るシュミットにスティーブ。

「え?エルウィン様……?」
「どうしたんです?大将?」

 すると、エルウィンがボソリと言った。

「アリアドネ……この城を出ていくほど……俺のことが嫌だったのか……?」

「「はぁっ?!」」

 シュミットとスティーブの声が重なる。

「何言ってるんですか!大将!そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?早く行方を探さなければ手遅れになりますよ!」

「そうですよ、エルウィン様。このままもし海を超えられてでもしたら、手遅れになりますよ?すぐに宿場村を探しましょう!」

スティーブとシュミットが交互に声を掛けるもエルウィンは机の上に頭をつけたままブツブツ呟いている。

「逃げるようにいなくなるなんて……そんなに俺の側から離れたかったのか……?やはり俺に嫌気が差してしまったのだろうか……『戦場の暴君』と呼ばれる俺が……」

 この様子にシュミットはため息をつくと、スティーブに声を掛けた。

「駄目だ、今のエルウィン様はすっかり腑抜けになってしまわれた。スティーブ、お前が中心になってアリアドネ様の行方を追ってくれ」

「ふ、腑抜けって……よくも大将の前でそんな事言えるな?」

 スティーブが引きつった笑みを浮かべる。

「僕達も探すよ!」
「うん!リアは何処にも行かせない!」

ミカエルとウリエルが涙を拭った。

「私も……お手伝いします!スティーブ様、行きましょう!」

セリアがスティーブに訴えた。

「ああ。よし!それじゃ行くぞ!」

 スティーブの言葉に、3人は頷くと部屋を飛び出して行った。


「頼んだぞ、スティーブ」

 シュミットは彼らの背中を見送り……すっかり腑抜けてしまったエルウィンを見てため息をつくのだった――。
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