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58日目―相互人質―

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 猿ぐつわを付け、後ろ手に縛った蛍を引っ張って部屋に戻ると、恭しくあかりが頭を下げた。
「おかえりなさいませ」
「ただいまぁ」
 あかりには二面性がある。元々の優しくていじりがいのある人格と、後天的に発生した深みのある無表情。どちらが主ということではなく、場面で切り替えているのだろう。今は後者なようだ。
 寝室では、四つん這いを強要された梓が、ふっくらとした尻をこちらに向けて振っていた。
「あら、なあに? 誘ってるのかしら」
「うるさ、いぃぃっ! ぁ、ああ……っ」
 サドルが震えて感じるのだろう。ときおりぴくぴくと菊門が締まる。
 何かをうめく蛍を無視して、姉の足を縛り上げるあかりに、アイリーンは確認した。
「あかり、ちゃんと伝えてくれた?」
「はい。主様も、お姉ちゃんに?」
「ええ、それじゃあ後はよろしく」
 そう言って、アイリーンは透明な棺桶の中に蛍を引きずり入れ、自らも中に入る。
 寝返りが打てるぐらいの大きさとはいえ、二人もはいれば余剰はない。
 ばたん、とあかりが外から蓋を締めて、アイリーンは蛍の猿ぐつわを取った。
「う、はぁ……。なんなのよ、さっきから一体」
「ああ、気になるわよね。でもまあ、あなたは何にも考えなくていいわよ」
 手足を縛られた蛍を後ろから抱きしめて、アイリーンはぷっくりと腫れた乳首と陰核に指を伸ばした。
「あなたは悶えるだけだから」

■■■

 そして、陰部をサドルで持ち上げられて、尻を突き出す格好で四つん這いをさせられていた野茨梓は、股間への振動を止められて切なげな息を漏らした。
「あぁ……」
「物足りなかったですか? でも梓さんがすぐにイっちゃうのが悪いんですよ」
「アイリーンの腰巾着のくせに……っ、ゔっ!」
 ぴくぴくと体を震わせる梓の顎を掴んで、棺桶を向かせる。
 中では、アイリーンに後ろから抱きつかれた蛍が、苦悶と悦楽の混じった表情を晒していた。
 なんとか快楽から逃げようとし、でも狭い空間で戒められているので逃げようもなく、必死に閉じた太腿からは愛液の筋が幾本も垂れている。
 アイリーンが耳を食んで、両手で乳首を転がすと、蛍は大きく腰を前後に振った。
 絶頂させられたのは明らかだった。
「音は聞こえませんよ」
 耳元で、あかりが囁く。
「元々は主様の安眠用らしくて、内外の音を遮断するモードがあるんです。悔しいですか、梓さん。お姉ちゃんを好きにできたのは、今まであなただけだったのに」
「別に……。蛍ちゃんはただの被験体だよ」
「嘘ばっかり」
「ひっ……っ」
 あかりの指が、サドルと梓の陰部の間に滑り込む。
 ゆっくりと一度奥まで入れて、引き抜かれる。その指には、掬えるぐらいの愛液が溜まっていた。
「お姉ちゃんが来てからですよね。こんなにあふれ出したのは」
「そんなわけないだろ! デタラメ言うな!」
「嘘ついたってわかるに決まってるじゃないです、私も同じなんですから」
 もじ、と内腿を擦り合わせて、あかりは言う。
 延々と喘がされて、唇の端からとろりと唾液を垂らす蛍と、悦に入った表情で滑らかに指を動かすアイリーンを、同じ目線から見る。
「主様のあの顔を見るとどうしても興奮しますし、その顔が、指が自分以外に向いていると、どうしたって嫉妬します。梓さんも、同じなのでは?」
「私は、そんな……っ」
「責めているときは好き好き言っていたじゃないですか」
「あれはその場の雰囲気で言ってただけだしっ!」
「また、嘘」
 愛液がつくのも構わずに梓に上から覆いかぶさって、あかりは囁く。
「梓さんさえこちら側に来てくれれば、もうそんな思いはしなくていいんですよ?」
 できるだけ優しく、染み込ませるように。
「一緒に説得する側に回れば、お姉ちゃんの調教は梓さんに一任されるそうです。いいことずくめじゃないですか。あなたは研究員に復帰、お姉ちゃんとも愛し合える。違いますか?」
 アイリーンと蛍は体勢を変えていた。
 アイリーンが上で、蛍が下。
 上気した顔、ふっくらと色づいた唇に、アイリーンが貪るように自らのを合わせていた。
 吸って、吸わせて、唾液を混じらせ。とろりと線を引かせて、また貪って。
 なぜだか蛍も許否をせず、延々と続く肉感的な口付けに、梓は目を奪われていた。
 あの役を、代われるならとは思う。
 また、蛍ちゃんと愛し合えるならとも、思う。
 だけど。
「ば、っかだなあ」
 土台無理な話なのだ。蛍からの愛をもらえるなんて。
 だから、あかりの説得で立場を翻すなんて絶対に嫌だった。
「違うよ、ぜんっぜん違う。まず、私が妹ちゃんの説得を受けるのがもう無理なんだよ」
 想い人の接吻を見つめさせられながら、梓は問う。
「妹ちゃん。一個聞いても良いかな」
「なんですか」
「妹ちゃんはさ。蛍ちゃんにこんなところに来てもらえるぐらい愛してもらってたのにさ、なんでそれを、捨てちゃったんだよ」
「主様と、出会えたからです」
「あんたたち、仲いいよね。愛し合ってるんだ」
「きっと。私は信じています。それに見合うぐらい、愛していただいてもいます」
「そっか、そっかぁ。蛍ちゃんから愛してもらえて、アイリーンにも愛してもらえて、かあ」
 それは、蛍が目の前にいなければ、口をつくほど膨張しない気持ちだっただろう。
 あるいは、蛍の耳に声が届くのなら、必死で抑え込んでいた言葉だっただろう。
 恰好も何もなく、むき出しの言葉が梓の口をついて出た。
「そんなに持ってるなら、ちょっとぐらい私にも、分けてよ………」
 目の前で、アイリーンと舌を絡ませていた蛍が、また果てた。

■■■

 そして、息つく間もないぐらいの口吸いを強要されていた蛍は、ぎょっとして棺桶の外に目をやった。
 尻を突き出した格好の梓がぽろぽろと涙を流していて、その後ろでは、あかりがバラ鞭を取り出している。
 アイリーンにおでこを当てて、蛍は叫んだ。
「やめさせなさい! いますぐ!」
「嫌よ。だってこれは、あなたのせいだもの」
 音はしないが、視界を上から下に黒い線が一閃した。
 梓が顔を跳ね上げさせる。その頬を幾筋もの涙が伝っていて、蛍はアイリーンにそれを見せられた。
「あんたが意地張るからよ。あかりが暴力を振るわされるのも、梓が痛めつけられるのも」
「なんで……っ」
「まず一つ。あなたが逃走なんかするから、梓は家畜に成り下がった。二つ目、あなたが全然堕ちないから、こっちも方針を変えたの。まずは強引にでも梓を堕として、それから3人がかりであなたを堕とそうってね」
 二度目の鞭が叩きつけられ、小さな体を目いっぱい反らして梓は震える。大きく開けられた口は絶叫しているに違いなく、ふるりと揺れる胸にぼたぼたと唾液が滴った。
「そんなの、屁理屈でしょ!」
「ええそうね。だけど私たちはそういう理屈で動いてるの。ついでに付け加えるなら、もう一つ」
 蛍の耳を軽く食んで、アイリーンは告げた。
「あなたがこちらに来てくれれば、少なくとも手荒なことはしなくて済むの。三人で説得すれば、元々が純粋培養な梓はきっと首を縦に振るわ」
 悪魔が、囁く。
「これ以上梓の体に赤線を増やしたくなければ、私の話に乗りなさい?」
 一瞬だが、蛍はぐらついた。
 そして、自分でも理由はわからないが。
 悪魔でしかなかったはずの梓にそれ以外の感情を持ち始めていることに、いまさら気づいた。
 でも。
「……だめ、できない」
「あら、梓がずたずたになってもいいの?」
「よくはない! ……けど」
 上手くは言えないが、優先順位的な話だ。
 加害者だが被害者でもある梓も、助けはしたい。
 だけど、それで四人揃って悪事に加担するのは、絶対に違う。
 何度も鞭打たれる梓を苦しげに見て、蛍はそれでもはっきり言う。
「私には私の、正義があるから。あんたには従えない」
「………ふうん、なるほど」
 アイリーンは軽く頷いて、蛍の女陰に指をうずめた。
「あ………あああっ、………ぅ、ぁ、んっ」
「じゃあ、存分に玩具にされなさい」
 
■■■
 
 そして。
 サドルによる振動とバラ鞭で、何度も絶頂と苦悶を繰り返させられた梓と、アイリーンに凌辱され真っ白な本気汁を迸らせて喘ぎ続けた蛍だったが。
 気の遠くなるような時間を経て、ようやくアイリーンが棺桶を開ける。
「ふう、頃合いかしらね」
「もう夜ですしね。十分かと」
 そして、梓と蛍の体勢が、また変えられる。
 お互いに、お互いの陰唇に口をぴったりと合わせられた、シックスナインの姿勢を強要されて。
 両腕は相手の胴体に回されて結わえ付けられ、両足も首と括られて動けなくされ。
 最後に乳首に怪しげなローターを張り付けられて、棺桶に詰められる。
 梓の背中が擦れないように、蛍は下に回り込んで、アイリーンを睨んだ。
「じゃあ、ごゆっくり」
「ふざけんじゃないわよっ! あ、あっ⁉ あうっ……」
「あ、胸のそれ、人語をしゃべるとすごい振動するから気を付けてね」
「言う、の、遅っ、あ、また……っ、あ、んっ、――~~~~~~っ!」
 ぷしっ、とぐったりした梓の顔に早速愛液を噴き出して、蛍は果てる。
 閉める寸前、アイリーンとあかりは、それぞれ同じことを言った。
「蛍さん? さっき言ったこと、わかってるわよね」
「梓さんも、頑張ってくださいね」
 そして、ばたんと蓋を閉じて、布を被せてあとは放っておいた。

■■■

 (午後13時11分,リビングにいた奴隷が聞いていた会話)
「実は真壁元部長が、お姉ちゃんに興味を持っちゃったみたいで、下手すると取られちゃうんですよね」
「っ⁉ 妹ちゃんだってわかるだろ、それだけはダメ!」
「はい、私も嫌なんですけど。拷問が甘いって判断されちゃうとそうもいかなくなっちゃうんです。そこで、梓さんに提案なんですけど」
「…………嫌な流れだね、なにさせるの?」
「簡単ですよ。感度のいかれたお姉ちゃんを、毎晩たくさん気持ちよくしてあげてください。最低でも、500回以上」

■■■

(午後13時12分、研究所地下階段の監視カメラの映像)
『蛍さんは、今夜から梓と同じ場所で過ごしてもらうけれど』
『……それで? また責めろとか言わないわよね』
『ご明察。実は私の調教スケジュールが上手くいかないと、真壁沙羅って怖い人が出張ってきちゃうのね。そうしたら梓はズタズタになっちゃうから。それを止めたいなら拷問になるぐらい責めてほしいの』
『…………なにを、しろって』
『ああ、真壁部長のこと知ってるんだったわね。うーん、そうねえ。さしあたっては一晩500回ぐらいイかせてあげなさい? そしたら言い訳ぐらいはできるから』
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