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許してなどやるものか

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国王ジョーセフの眼前で、裸体のタスマが不敵に笑った。

羞恥などとうの昔に捨てたのか、タスマは昂る自分自身を見せつけるようにわざとらしく足を広げ、寝転がったままジョーセフを見上げた。



タスマ・クロイセフ。

王家直系の血を守る云々、そんな理由で処刑を免れた男。

ジョーセフの父と母を―――前国王夫妻を―――事故に見せかけて殺しておきながら、幽閉程度で今ものうのうと生きている男。

そして、王統保持を最優先する宰相の手引きで、ジョーセフを欺き、カレンデュラとの間に子を成した男だ。


そうだ。このふたりは子を成した挙句―――



ジョーセフは、背後で侍女を拘束していた護衛騎士の腰帯からおもむろに剣を抜き取り、寝台の上の2人に向けた。


体にシーツを巻きつけたカレンデュラが、顔だけを出して叫んだ。


「ひっ! やめて、ジョー! そんなものをあたしに向けないで!」

「そうだよ、ジョーセフ。カレンはお前が深く愛する妻じゃないか。剣を向けるなんてとんでもない」

「黙れ。マーカスはお前の子だったのだろう。それを毒殺するような人間に言われる筋合いはない」


剣を向けられているというのに、カレンデュラとは違い、タスマは余裕の笑みを崩さない。

その態度が、更にジョーセフを苛立たせた。


「おや、それもばれているのか。よほど腕のいい諜報員を雇ったと見える」


タスマの答えに、これもまたデンゼルの報告書の通りだったと思い知り、ジョーセフは唇を噛んだ。


「だが仕方がなかったのだよ、ジョーセフ。どう考えたって、種無しのお前より私の方が有用だ。
けど誰に気づかれたのか、あれから毒が手に入らなくなってしまってね。そうでなければ、確実にお前を殺してやれたのに、残念だよ。
カレンが狂言用に少し使ったせいでもう中身は殆ど残ってないと言うし、一番体が小さい赤子なら効くかもしれないと試させたのさ」


罪悪感など欠片もない、実にあっさりとした口調でタスマはそう言った。


どんなルートか、塔に幽閉されていながら毒を入手したタスマは、それをカレンデュラに渡してジョーセフの暗殺を指示した。

カレンデュラは素直にジョーセフの飲み物に毒を入れ、思惑通りジョーセフは倒れた。

幼い頃から毒に体を慣らしていたジョーセフでなかったら、きっと死んでいただろう。何日も寝込み苦しみはしたが、最終的にジョーセフは回復した。

困ったのがタスマとカレンデュラだ。

王位継承権を持つ男児ふたりが誕生した事で、タスマの処刑が決まってしまった。
命の期限は第二王子マーカスが3歳になる日まで。

その時マーカスは10か月。
まだまだ時間の余裕があるなどと悠長に構えず、血の繋がった我が子を迷わず次の標的にしたところが如何にもタスマらしかった。







考えてみれば簡単なことだった。


毒殺未遂が起きた時、ジョーセフはカレンデュラの部屋だけは捜索から外していた。

毒の耐性のあるジョーセフが生死を彷徨うほど深刻だったのに、カレンデュラはわずか半日で回復した。

赤子の第二王子に近づける者は限られていた。


アリアドネが死んで、第二王子も死んで。

膨大な量の執務と、王城内に張りつめる異様な緊張と、精霊王の裁きによる異常がもたらした国内の騒動への対応と。

そんな中で、あの・・宰相が新たな妃を勧めてきた。


こんな時でもこの男宰相は王家の血と騒ぐのかと腹が立ったが、きっと違う。

宰相は気づいたのだ。

第二王子に毒を飲ませたのがカレンデュラだということに。それはつまり、ジョーセフに毒を盛ったのもまた彼女という事で。

王統保持が最優先の宰相が、その犯人を見逃す筈はない。

新たな妃を用意したら、カレンデュラを処分するつもりでいたのだろう。


対して、カレンデュラがジョーセフに閨を強請ったのは、反省したのでも宰相の思惑に気づいたからでもなく、ただタスマに抱かれたかったから。

ジョーセフに抱かれないままタスマに抱かれてしまっては、万が一子を孕んだ時に言い訳ができないから。


―――種無しのお前より私の方が有用だ―――



「ふざ・・・っ、けるなぁぁぁっ!」


ジョーセフは高く剣を振り上げた。


国王を欺くなど。

国王を馬鹿にするなど。


許せるか。許してなどやるものか。


国王を侮るなどあってはならない。

あっては、ならないのだ―――


凄まじい勢いで剣が振り下ろされた。


カレンデュラの甲高い叫び声が上がる。

それまで、ずっと薄ら笑いを崩さなかったタスマの顔が、初めて醜く歪んだ。





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