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ヘタレ、動く
しおりを挟むベネディクトは今、廊下に立っている。
廊下の円柱の陰に、身を寄せるようにして立っている。
そうして、謁見室の扉が開くのを、今か今かと待っている。
そんな傍目にはちょっと怪しい人に見えなくもないベネディクトを、謁見室の扉を守る騎士たちは見て見ぬふりしてくれていた。
今といい、独断で自分の護衛騎士の数を減らしてティターリエ捜索に当てた時といい、王国騎士団の騎士たちは、国王一家がなんだかんだと可愛がっている末の王子に甘いのである。
そうして少しの時が経ち、カチャリ、と音がして扉が開いた。
謁見室の扉が開いたのだ。ベネディクトが待ちに待った瞬間であった。
「ティ、ティターリエ嬢!」
ベネディクトは柱の陰から飛び出した。
勢いよく飛び出して、一気に開いた扉にまで駆け寄った。
後戻りできないところにまで自分で自分を追い込まないと、ヘタレなまま動けないで終わってしまう気がしたから。
そう思ったから、扉が開くと同時に飛び出し、名を呼んだのだ。
――が。
「どうした、ベネディクト?」
「・・・あ、兄上?」
なんと、扉の向こうから出てきたのは長兄のアレクシスであった。
いや、違う。
アレクシスだけではない。
アレクシスの手は横に差し伸べられていた。その手のひらの上には別の人の手が乗せられている。要はエスコートだ。
誰をエスコートしているかというと、それはもちろん。
「・・・どうして兄上がティターリエ嬢の手を握っているのですか?」
色々とテンパっているベネディクトは、少々涙目になってそんなことを口走った。
「どう見てもエスコートだろう。お前はヘタレな上に、目も悪くなったのかい?」
やれやれ、と頭を振るアレクシスは、そのまま視線を横にいるティターリエへと移した。
「ティターリエ嬢。どうやら、私が愚弟のところに令嬢を案内する必要はなくなったようです。ヘタレを卒業できているといいのですが。
今ここで、ベネディクトにあなたのエスコートを引き継がせてもよろしいでしょうか」
「はい」
え、と顔を上げたベネディクトの前に、先ほどまでアレクシスに預けていた白い手が差し出される。
なのに未だ状況判断がつかないベネディクトは、え、え、と狼狽えてしまう。
「どうした、ベネディクト。ティターリエ嬢に会いに来たのだろう?」
再度アレクシスに促され、ようやくベネディクトが恐る恐る手を前に出せば、ティターリエの白い手がちょこんと乗せられた。
それが、ベネディクトに少しの勇気を与えた。
ベネディクトは、廊下で待っていた間、ずっと考えていた言葉を口にする。
「あの、あのそれでは、すこ、少し、僕との時間をもらえるかな?」
「・・・はい。実は、私も今からベネディクト殿下に会いに行こうと思っていたところでした」
「え」
ベネディクトの顔が赤くなる。
「城を出る前に、殿下ともう一度、きちんとお話がしたかったのです」
「え」
今度は青くなった。
「だから、よかったです。こうして機会をいただけて」
ティターリエの微笑みに、再びベネディクトの顔が赤くなる。
「ほら、ベネディクト。いつまでも扉の前で突っ立っていないで、ティターリエ嬢と話をするのだろう? どこにお連れするんだ?」
顔色が赤くなったり青くなったりと忙しいベネディクトに、アレクシスが先を促す。
「あ、ああ、ええと、貴賓室のサロンか、奥の庭を歩きながら、と考えていたのだけれど、ティターリエ嬢はどちらがいいかな?」
「そうですね・・・庭を歩きながらお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
「・・・分かった。じゃあ、奥の庭に行こうか。謁見室からなら、こちらだ」
ベネディクトはたいそう真面目な顔で頷き、ティターリエをエスコートしながら歩き始めた。
「やれやれ、ヘタレめ。やっと動いたか」
二人の後ろ姿を見送りながら、アレクシスが呆れ声で呟く。
だが、その眼差しは口調とは裏腹にとても優しげであった。
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