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第1章
第7話 灰色猫さん
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「緑の魔石楽しみ!……あ!クリス兄様、また絵を描いて欲しいの。王子様と令嬢と……。」
「うん。……また、夢を見たの?」
角兎の魔石のことで機嫌が戻ってニコニコしたメイリが、急に思い出したように僕の方を見て言った。メイリは王子様や勇者だとかお姫様が登場する絵本が大好きで、小さい頃は絵本を読んでとよくせがまれた。
時々、夢に見たという王子様やらお姫様やらを描いてくれと僕に頼んでくる。メイリも自分で描いたりするのだけど僕が描いた絵が好きだと言ってくれる。嬉しい。
「ふふ。じゃあ、角兎狩りから帰ってきてからね。」
「うん!約束よ!」
メイリがパアッと一際笑顔を輝かせた。可愛い。
メイリが機嫌良く送り出してくれて、僕と兄様は西の荒地に角兎狩りに向かった。出がけにマーサがおやつを持たせてくれた。
ナッツとドライフルーツを固めて焼いたものだ。時々おやつに出してもらえるものだけど甘くて美味しいから気に入っている。
出かけようと玄関を出たら、灰色の小さい猫が歩いているのが見えた。
「あ!猫さん!」
僕が一歩前に踏み出すと、猫はタタっと数メートル逃げて、立ち止まってこちらを振り返ってる。
近寄ってほしくないのかな。でも、ちょっと撫でていたいな。ダメかなぁ。
「追いかけ回したりしたら嫌われるぞ。」
兄上は、毛繕いを始めた灰色の猫さんをじっと眺めて言う。
「そんなことしないよ。……角兎の肉とかあげたら食べるかな。」
「魔獣の肉とか食べるのか?……あの猫は魔獣なのかな。」
「どうだろう。『害意』は感じないけど。」
「じゃあ、良いか。……可愛いし。」
「だよね。」
屋敷の周囲や町の付近には強い魔獣は現れないけれど、小さい魔鳥や魔モグラとかは姿を表す。
猫さんが魔獣の一種でも驚かないし、こちらに危害を与えようとしなければ、追い払ったりもしない。
魔獣か魔獣でない獣かの区別は、大雑把には魔石を持っているかどうかと言われている。でも、弱い魔獣の中には、魔石がないような魔獣もいる。魔石がないと言っても、もしかしたら極々小さい魔石は持っているのかもしれない。魔力を持っている獣は魔石の有無に拘らす魔獣だという説もある。
「ナーン……。」
猫さんが小さく鳴いてから、トコトコ歩き出した。兄上と僕は何となくそっと着いていく。追いかけてると思われると逃げられちゃいそうなので、猫さんが視界に入る範囲でそっと後ろを歩く。
裏庭の方に向かっていったと思ったら、離れの建物を回り込んで行った。
見失ったかなと思ったら、離れの中庭に入り込んでいた。離れの建物の中庭には小さい祠がある。
屋敷が立つ前からこの地にあった祠で、屋敷を建てるときに壊さずに、祠の周りに屋敷を建てたのだそうだ。
離れの中庭にある小さいこの祠を、僕達家族は「虹の祠」と呼んでいる。
岩を削り取って穴をあけ、中に石を削って作られたらしい小さいドラゴンの像がある。ドラゴンが虹色の玉を掴んだ形になっている。
父上の話では古い時代に信仰されていたのではないかとのことだ。この国では女神様が信仰されていて教会には女神様の絵や像が飾られている。
教会の絵にはドラゴンは描かれてはいないそうだ。
屋敷を建てる時は、何となく壊さない方が良い気がしたという理由で残されたのだとか。
ドラゴンの像の前には、丸く中がくり抜かれた石がある。供物とかを捧げる為のものだろうと果物とかが手に入ったときにはそこに置いたりしているのだが
その丸くくり抜かれた石の中に猫さんが入り込んで丸くなった。
「あ!」
「おお!」
可愛い!そう思ったとき、頭の中に声と絵が浮かんできた。
上部の岩が半分崩れて破壊された祠。ドラゴンの像も砕けていて割れた虹色の玉の欠片が地面に転がっている。
地割れ。ぽっかりと穴が奥まで続く洞窟。虹色に煌めく岩肌。
ーーー猫って狭い場所好きだよねぇ。
木や草木が生い茂る中に崩れたと思った祠が元の形のままで現れる。手前の丸い石の窪みに丸くっている猫の姿。
「クリス。そろそろ行くぞ。角兎獲ってくるんだろ。」
「あ、うん。」
兄上に声をかけられてハッとする。目の前には日の当たる中庭の祠で日向ぼっこするように丸くなっている猫さんの姿がある。
祠だって、木々が生い茂るような場所ではなくて手入れされた庭の中に立っている。
崩れてなんていない。
幻だったのか。
兄上が門の方に向かって歩き出したので、慌てて追いかける。一度ちょっと振り返ると、丸くなっていた猫さんの耳がピョコピョコと動いたのが見えた。やっぱり可愛い。
「うん。……また、夢を見たの?」
角兎の魔石のことで機嫌が戻ってニコニコしたメイリが、急に思い出したように僕の方を見て言った。メイリは王子様や勇者だとかお姫様が登場する絵本が大好きで、小さい頃は絵本を読んでとよくせがまれた。
時々、夢に見たという王子様やらお姫様やらを描いてくれと僕に頼んでくる。メイリも自分で描いたりするのだけど僕が描いた絵が好きだと言ってくれる。嬉しい。
「ふふ。じゃあ、角兎狩りから帰ってきてからね。」
「うん!約束よ!」
メイリがパアッと一際笑顔を輝かせた。可愛い。
メイリが機嫌良く送り出してくれて、僕と兄様は西の荒地に角兎狩りに向かった。出がけにマーサがおやつを持たせてくれた。
ナッツとドライフルーツを固めて焼いたものだ。時々おやつに出してもらえるものだけど甘くて美味しいから気に入っている。
出かけようと玄関を出たら、灰色の小さい猫が歩いているのが見えた。
「あ!猫さん!」
僕が一歩前に踏み出すと、猫はタタっと数メートル逃げて、立ち止まってこちらを振り返ってる。
近寄ってほしくないのかな。でも、ちょっと撫でていたいな。ダメかなぁ。
「追いかけ回したりしたら嫌われるぞ。」
兄上は、毛繕いを始めた灰色の猫さんをじっと眺めて言う。
「そんなことしないよ。……角兎の肉とかあげたら食べるかな。」
「魔獣の肉とか食べるのか?……あの猫は魔獣なのかな。」
「どうだろう。『害意』は感じないけど。」
「じゃあ、良いか。……可愛いし。」
「だよね。」
屋敷の周囲や町の付近には強い魔獣は現れないけれど、小さい魔鳥や魔モグラとかは姿を表す。
猫さんが魔獣の一種でも驚かないし、こちらに危害を与えようとしなければ、追い払ったりもしない。
魔獣か魔獣でない獣かの区別は、大雑把には魔石を持っているかどうかと言われている。でも、弱い魔獣の中には、魔石がないような魔獣もいる。魔石がないと言っても、もしかしたら極々小さい魔石は持っているのかもしれない。魔力を持っている獣は魔石の有無に拘らす魔獣だという説もある。
「ナーン……。」
猫さんが小さく鳴いてから、トコトコ歩き出した。兄上と僕は何となくそっと着いていく。追いかけてると思われると逃げられちゃいそうなので、猫さんが視界に入る範囲でそっと後ろを歩く。
裏庭の方に向かっていったと思ったら、離れの建物を回り込んで行った。
見失ったかなと思ったら、離れの中庭に入り込んでいた。離れの建物の中庭には小さい祠がある。
屋敷が立つ前からこの地にあった祠で、屋敷を建てるときに壊さずに、祠の周りに屋敷を建てたのだそうだ。
離れの中庭にある小さいこの祠を、僕達家族は「虹の祠」と呼んでいる。
岩を削り取って穴をあけ、中に石を削って作られたらしい小さいドラゴンの像がある。ドラゴンが虹色の玉を掴んだ形になっている。
父上の話では古い時代に信仰されていたのではないかとのことだ。この国では女神様が信仰されていて教会には女神様の絵や像が飾られている。
教会の絵にはドラゴンは描かれてはいないそうだ。
屋敷を建てる時は、何となく壊さない方が良い気がしたという理由で残されたのだとか。
ドラゴンの像の前には、丸く中がくり抜かれた石がある。供物とかを捧げる為のものだろうと果物とかが手に入ったときにはそこに置いたりしているのだが
その丸くくり抜かれた石の中に猫さんが入り込んで丸くなった。
「あ!」
「おお!」
可愛い!そう思ったとき、頭の中に声と絵が浮かんできた。
上部の岩が半分崩れて破壊された祠。ドラゴンの像も砕けていて割れた虹色の玉の欠片が地面に転がっている。
地割れ。ぽっかりと穴が奥まで続く洞窟。虹色に煌めく岩肌。
ーーー猫って狭い場所好きだよねぇ。
木や草木が生い茂る中に崩れたと思った祠が元の形のままで現れる。手前の丸い石の窪みに丸くっている猫の姿。
「クリス。そろそろ行くぞ。角兎獲ってくるんだろ。」
「あ、うん。」
兄上に声をかけられてハッとする。目の前には日の当たる中庭の祠で日向ぼっこするように丸くなっている猫さんの姿がある。
祠だって、木々が生い茂るような場所ではなくて手入れされた庭の中に立っている。
崩れてなんていない。
幻だったのか。
兄上が門の方に向かって歩き出したので、慌てて追いかける。一度ちょっと振り返ると、丸くなっていた猫さんの耳がピョコピョコと動いたのが見えた。やっぱり可愛い。
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