転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第15話 尾行?

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僕は思わずぎゅっと拳を握りしめた。兄上が僕の頭をポンポンと撫でた。

「後ろが気になるか?大丈夫だよ。」
「そうよ。安全な場所まで送って行くわ。」
「そうだよ。俺達がいるのに手を出して来たりしないさ。」

レオノールさんもジャンさん達も口々に僕を宥める言葉をかけてくれる。確かに、レオノールさん達が一緒について来てくれていて、今のところ誰にも絡まれることなく無事だ。
だけど、不安なのはそれでもまだ「害意」が完全に消えていないってことだ。

それってレオノールさん達から離れるのを待っているのでは?
目的って角兎だよね……。

「……ねえ、兄上。それ、レオノールさん達にあげちゃわない?」

僕は兄上が手にぶら下げている角兎を指差した。

「うん……?クリスが良いなら、別に良いけど……。」

兄上は手にしていた角兎をちょっと上に持ち上げた後、レオノールさんとジャンさん達を見回した。

「え?くれるの?いや、買い取るよ!ギルドの買取額、さらに色付ける!」
ジャンさんの目が輝いた。ちょっと嬉しそうだ。
「……。」

兄上はじーっと、彼らの様子を見てから訝しげに言う。

「値段は良いんですけど、……今渡すと、いなくなっちゃいます?」
「まさか!ちゃんと送り届けるよ!」

兄上はジャンさん達が、角兎を受け取った途端にどこかにいなくなってしまうことを懸念しているみたいだ。
ジャンさん達がついて来てくれていることで、他の角兎を狙っている人達を遠ざけることができているみたいだし。

キョロりと思考するように目を動かした後、兄上はロープで縛りつけていた角兎をレオノールさんに差し出した。

「差し上げます。後で分けるなりしてください。」
「私に?」
「はい。送ってくれたお礼です。」

レオノールさんは長いまつ毛をパチパチとさせて、兄上から差し出された角兎を受け取った。

「ありがとう……。でもどうして私? 彼らにあげてしまっても良いの?」
「それは構いませんけど……。できればレオノールさんにもジンジャーソテーを食べてみてもらいたいかなと思って。」
「あら!ふふっ……。」

レオノールさんの顔が綻んだ。
レオノールさんが、角兎を掲げてジャンさん達の方を見た。

「そういうことらしいので、後で分けましょう!」
「は、はあ……。……ありがとう、ローレン君、クリス君。」

ジャンさん達が口々に僕達にお礼を言った。
ジャンさん達は上司の人も含めてどのくらいの人数で食べるのかな。角兎半分だとして足りるだろうか。
まあ、他の狩場の情報を得たら、狩れるかもしれないしね。

それより、角兎がレオノールさんの手に渡ったら、背後から来ていた「害意」の気配が消えた。
諦めたのかな。

と言うことは本当に角兎目当てで僕達に「害意」を向けていたってことみたいだけど。なんなの?食いしん坊なの?

町まで戻ってくると、なんだか物々しい雰囲気がしてちょっと戸惑う。「害意」とは違うけど妙に緊張した空気がある。
レオノールさんが着ているのとは違う騎士服を着た人達が何人か歩いているのが見えた。
夕方くる予定だった人達が町に到着したのだろうか。

「ローレン君達は、まだ冒険者じゃないんだよね?この町の子は、みんな狩りが得意なの?」
「……他の人が狩りが得意かどうか、見えないのでわからないですけど。多分。
周辺は魔獣がいるところばかりだから、ある程度は戦える様にならないとって言われてるんで。」
「ああ、まあ、そうだよね。戦闘訓練の場所に選ばれるわけだね。」

レオノールさんが納得した様子で頷いた。
岩場から町に戻る途中にも、一度、小さめのボアが現れてた。それはジャンさん達が追い払っていた。
追い払うと言うより、狩る気だったけど、逃げられたみたいではあった。

あれ?ジャンさん達、狩場を変えても狩れないかもしれない疑惑?ま、まあ、食糧は町で手に入るはず!

「レオノールさんは、岩場まで何をしに来ていたんですか?角兎狩りじゃなかったんですよね。」
「私は周辺の視察よ。危険な場所じゃないか、とかね。そうしたらジャン達が子供を脅かしている現場に遭遇しちゃったわけ。」
「お、俺たちは脅かしていたわけでは。」
「怖がらせちゃってたじゃないの。」
「まあ、そうですけど。」

レオノールさんに言われて、ジャンさんは口をモゴモゴとさせていた。

町の宿の建物などが建ち並んでいるメイン通りに入ると、通りの向こう側から声をかけてくる人がいた。

「小隊長!」

レオノールさんと同じ騎士服を着た背の高い男性が通りを渡ってこちらに向かってくる。
痩せていて糸目のちょっと神経質そうな顔をした男性。レオノールさんよりだいぶ年上っぽい。レオノールさんの近くまで来てから僕達をジロリと一瞥した。
うわ、何だか怒ってる?
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