転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第135話 言い争う声

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沼地を荒らした騎士達の処罰がどうなるのかとかもっと聞いてみたかったけど、
初討伐の祝賀会の為に、着替えてきなさいと言われて離れに戻る為に厨房近くの勝手口から外に出た。

既に日が沈みかけていて空が紫色に染まっていて辺りは薄暗くなっていた。
ひんやりした風が頬を撫でる。その風に乗って何か口論しているような声が聞こえてきた。

「どうした、クリス?」

立ち止まって声がした方を見ていると兄上が話しかけてきた。

「誰か言い争いか何かしているみたい」

集中してみると確かに何人か集まって争っているような気配を感じた。
訓練場の方角だ。

「何だ?どこかの家の騎士かな……」

兄上が不安げに眉をぴくりと動かした。
ちょっと気になったので気配を辿って様子を見に行くことになった。

距離は結構ある気がするけど、兄上も僕も息を潜めつい足音を立てないように歩いてしまう。
訓練場の近くの木の陰になっているところに数人の人影が見えた。
暗くなってきたのではっきりはわからないけど騎士らしい。四人位いる。言い争いをしているようだ。

「あれ、レオノールさんじゃないか?」

目を細めて数秒様子を眺めた兄上の言葉に、僕も目を凝らした。手前に立っている人の影から、チラリと見えた人影はレオノールさんぽく見えた。

「レオノールさん、何があったんだろう。大丈夫かな」
「王宮騎士の内輪の話かもしれない。……聞かない方が良いかもな」

兄上は僕の肩にポンと手を置いて、「行こう」って離れを指差した。
頷いて踵を返そうとした時、風に乗って「ゲンティアナ」という単語が聞こえてきた。
うちのこと?

「今、『ゲンティアナ』って聞こえたよ」
「うちの家の話か?」

兄上が目を見開いた。チラリと言い争っているらしい人達の方を見やった。

「何だろう……。また面倒事の話じゃないだろうな」
「面倒事ばっかりだもんね」
「ダメだぞ。面倒事とか言ったら」
「兄上が先に言ってたよ」

気になって耳を凝らしてみたけど、よく聞こえない。レオノールさんが怒っているような声がチラリと聞こえたけど
内容はわからなかった。

「風魔法で音を集めてみようか」
「……立ち聞きだけど……、そもそも外で話をしているんだもんな」

かなり離れた場所でも、所々聞こえてくるっていうことは耳の良い人には聞こえてきちゃうだろうし
内緒話ではないんだろう、と理屈をつけて風魔法を発動させる。
彼らの声が聞こえそうな位置からこちらに向かって風を送る。音を集めるように意識したら突風みたいな風が
吹きつけてきた。

『……ゲンティアナ家の負担を……、……身勝手な……』
『……殿下の為……、……余計な口出し……』

先程より声は聞こえてくるようになったけど、風の音が混じってくるし吹き付ける風が顔にモロに当たってちょっと辛い。
手前で風の流れを緩めるように調整して、ふと思いついた秘密道具を取り出した。

水筒のカップだ。

前に兄上が教えてくれた遊びを思い出したんだ。竹筒の底に皮を張ってから小さい穴を開けて糸を通して、同じように底に皮を張ったもう一つの竹筒を糸つなげると、糸を伝って離れたところでも声が届くっていうやつ。
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