転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

文字の大きさ
136 / 334
第1章

第136話 試験に出るらしい

しおりを挟む
水筒の時に使うカップは前に使った竹筒みたいに底に皮を張ってはいないけど、耳にカップを当てて、カップの底を爪でトントンと叩いてみたら凄く音が響いて聞こえた。これなら使えそうだ。カップの底に音を集めていくように魔法で調整して言ったら、思った以上に話し声が聞き取れる様になった。

『……そもそも、初討伐の時の話題が学園の面接試験でされるなど、なぜ急に殿下に話したのよ。マホニル小隊長!』
『嘘を言ったわけではない。実際にどのように訓練をしてきたかは、面接試験で訊かれることが多いと聞く』
『初討伐の祝杯をあげて良い思い出になったと話すと面接で印象が良いだなどと言われれば、
 殿下がそうなさりたいとおっしゃるのは想像がついたでしょうが』
『討伐を祝いたいとおっしゃることの何が問題なんだ』
『タイミングの問題よ。角兎討伐からの帰還後に言い出すなど……。私が他家の騎士の問題で呼ばれている間に……。
少なくともゲンティアナ家にはあらかじめ伝えておくべきだったわ』

マホニル小隊長と呼ばれた人とレオノールさんが話している声が聞こえる。
言い争いというかレオノールさんが怒っていて、マホニル小隊長って人は悪びれない感じだ。

『ゲンティアナ家も了承したそうじゃないか。多少ごねていたようだが』
『彼らからしたら、了承せざるを得ないじゃない。しかも、ほとんど魔法と剣の練習の的になって痛めつけまくった魔獣を殿下にお出しするなど』
『まあまあ、ライラック小隊長~。痛めつけた角兎なのはネイサン殿下もご承知なのでぇ』
『ドレイク、殿下が魔獣の状態をよくご覧になっていたかわからないじゃないの』

軽い口調の人物が会話に加わってきた。
どうやら急に「初討伐の宴」なんて企画が持ち上がってきたのは、あのマホニル小隊長が原因のようだ。レオノールさんはゲンティアナ家の事を気にしてくれているみたいだね。

植込みの陰にしゃがみ込んで兄上と二人で聞き耳を立てていたんだけど、足音が聞こえてきたのでカップを耳から離した。兄上の手からもカップが消えた。あ、「収納」の魔法陣が浮かび上がってる。

他の騎士が彼らを呼びにやってきたみたいだ。呼びかける声が聞こえてきた。
風魔法を止めて様子を伺っていると、呼びにきた人とレオノールさんが足早に本館の方に向かって行くのが見えた。
残った騎士達は、その場に立ってレオノールさんが去っていく方向を見ていた。それからゆっくりと歩き出した。

兄上と僕は何となくだけど息を潜めて植込みの陰に隠れていた。

彼らの気配が本館の中に消えてから、立ち上がり深く息を吸って、「フゥゥー」と長く息を吐いた。

「ネイサン殿下が急に思いついて我儘言ったってわけじゃないみたいだね」
「……『試験に出る』とか……。訊かれても、討伐したことをそのまま答えれば良いんじゃないのか?
どんな試験か知らないから何とも言えないけどさ。もしも五分間語れって言われたら話題が沢山あった方が良いんだろうけど」

「兄上が学園に入学するときもその面接試験っていうのを受けるんでしょう?初討伐のこと訊かれるのかな。何を倒したか覚えてる?」
「面接試験とか考えてなかったなぁ。……初討伐は角トカゲだったな」
「僕も!初討伐は角トカゲ狩りだったと思う」
「いや、クリスは角トカゲ狩りに行って、その手前で二角モグラが穴から顔を出しているのをぶっ叩いてたから、二角モグラが初討伐だろ。」
「ええ?そうだっけ?」

風魔法が攻撃できるくらいになったって認めてもらえて初めての討伐に出かけて角トカゲの生息地を目指した記憶はあったんだけど、二角モグラがピョコピョコ顔を出してたら、確かに叩いちゃう気がするなぁ。

初討伐の後、お祝いの宴とかは特になかったと思う。ああ、でも魔石だけは渡されたんだった。
オレンジ色の魔石だった。今も文机の引き出しの奥の方にしまってあったはず。

「そうだ。角兎の魔石、綺麗にして渡せる様にしておいた方が良いね!」

角兎から取り出した魔石は解体の時に一度水魔法で洗ったけど、ざっと洗っただけだから、もう一度丁寧に洗っておこう。

「ああ。初討伐の話題の一つにしてもらえるかもな」
「角はどうする?折れたりしているのばっかりだったけど」
「うーん……。『一応、取っておきました』って魔石と一緒に渡しておこう。後から角はどうしたって聞かれるかもしれないし」

初討伐記念ということで一人魔石を二個ずつとか綺麗な箱に入れてご贈答って感じで渡すことをちょっと考えたけど、解体する時点で魔石を取っていなかったから、要らないって言われる可能性もある。
魔石も角も全部一緒のケースにまとめて入れて、どうするか決めてもらおうってことになった。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...