転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第213話 ブローチの性能実験

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「魔道具も試したいですけど、氷の凄い魔法、見てみたいです」
「……それなら、魔道具を試すところを見せてもらったら、私の魔法を披露するわ」

レオノールさんがクスッと笑った。

「良いんですか?」

魔道具を試すところを見たってレオノールさんの得になるわけじゃないのに
僕の要望を聞いてくれたようだ。
兄上の方に振り向いて反応を伺う。

「レオノールさんにお見せしても大丈夫?」

兄上は微妙そうに眉を顰めた。少し間をおいて渋々と言う感じで頷いた。

「まあ……。……買ってから試したことがないやつだからな……」

渋々了承してくれた感じ。行商人から買ったっていうことにするから何でもないですよって作戦?

魔道具は不具合がないか確認するから、一つずつ全部確認する予定だけど
まずは、四種類の魔石の機能を一通り試す。

ブローチを左手の指で持ち、ブローチの正面を的に向ける。
赤い魔石がついている葉を右手の指で摘んで魔力を通す。

親指の爪くらいの大きさの小さい火の玉がポーンと出てきた。
的に向かって飛んでは行くけど、半分位の距離のところで失速して落ちた。

「……火魔法の魔道具なの?かなり飛んだわね」
「思ったより飛びました」

レオノールさんが興味深げに目を見開いた。蝋燭に火を付けるくらいの火魔法を
想定していたのに、思ったより勢いがあった。
蝋燭に向けて放ったら蝋燭が壊れちゃうかもしれない。
ファイヤーボールの魔法陣のかなり威力を抑えたバージョンだったんだけど、
弱目のファイヤーボールだった。

これはこれで、護身用としてはあり、かな?
気を取り直して、風魔石を試す。

ヒュン!

螺旋の風は音を立てた。氷漬けの的まで届いたみたいだけど、氷漬けになった的を壊したりはしなかった。
風刃みたいに切り裂くような魔法じゃないからこんなものかな。
「え?風魔法も?」

最初の火魔石で終わりかと思っていたのかレオノールさんが驚いた声を上げる。

「続きます」

オレンジ色の魔石に魔力を流したら、的と立ち位置の中間くらいの地面が盛り上がった。
高さは膝丈の半分くらいだ。思ったより遠い場所にできてしまったけど、
ブローチの正面の向きの問題かな。次に試すときは足元にブローチを向けてみよう。

「続きます」

ホワンと柔らかい魔力が手元に広がった。治癒魔法だ。怪我してないからわかりにくいけどちゃんと治癒魔法の魔法陣が浮かび上がっていた。

使い方に工夫が必要そうだけど、とりあえずブローチについている全部の魔石を試した状況だ。

「全部発動したね!」

やり遂げた気がしてフゥ~と大きく息を吐いた。
レオノールさんは、僕の手元のペンダントをじっと見つめた。

「……最後のは、見ただけだとよくわからなかったけど、もしかして治癒かしら」
「傷とかないとわかりにくいですね」
「効いたみたいなのよ」

レオノールさんが右腕の袖をめくる。
手首より少し肘寄りのところにうっすらと傷がある。
口の端を上げて、その傷を僕達に見せるように突き出した。

「ほら、近くにいただけなのに傷がほとんど治ってる」
「怪我していたんですか!?」

もしや、檻から逃げ出した魔獣を討伐した時に怪我したのかとギョッとしたら、違う時の傷らしい。
レオノールさんは細い眉を少し歪めて苦笑いしながら袖を元に戻した。

「いえ、……その後ちょっとね」
「その後?」
「……騎士団内でのことよ……」
「檻を屋敷に持ち込もうとした人とのことですか?」

兄上が尋ねるとレオノールさんは伏せていた目線を上げて、兄上を見た。
長いまつ毛がバサリと音を立てそう。

「……鋭いわね。そうよ。問いただそうとした時に出来た傷なの。
そのブローチの魔法を使った時に痛みがスッと消えた気がしたのよ。治癒玉のような効果があるわ」
「傷が治ったなら良かったです!」

小さい魔石だけど、傍に立っていたレオノールさんの傷まで治るなら
なかなか高性能だと思う。
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