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第1章
第217話 出発の予想
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殿下が紅茶を一口飲んだ。それを合図みたいに、ハロルド君達もカップに手を伸ばした。
すでにお茶とデザートの毒見は済んでいる。
紅茶に添えられたデザートは良く冷えたリンゴのコンポート。
夕食後だからあっさりデザートをジャックが用意してくれたんだ。
シャクシャクのリンゴも美味しいけど、甘酸っぱく煮て冷やしたリンゴも美味しいんだ。
リンゴのコンポートを口に含んだ途端
それまで不安そうな顔をしていたリネリア嬢の表情が和らいだ。
「美味しいですわ!とっても爽やかですわね」
「酸味があるからかしら。甘すぎなくて美味しいわ」
シェリル嬢も気に入ってくれたようだ。
「ゲンティアナ家の料理人は腕が良いのだね。城でも働いてもらいたいなぁ」
ネイサン殿下の言葉にギョッとした。ジャックが王宮に連れて行かれちゃうかも?
「王都や他の土地のレストランなどでも食べられるメニューだと聞きましたよ。
お気に召したメニューがあれば、レシピを書かせてお渡ししますけど」
「本当かい?それは嬉しいな!確かに、このデザートに似たものも角兎のソテーも、他の土地でも食べられると思う。でも、一味違うような気がするんだ」
兄上が、レシピを渡すと提案したら、ネイサン殿下が破顔した。
他では珍しいようなメニューは、お客様にはお出ししないことになっているけど、
そうなるとジャックの料理の腕の方に注目されちゃうのかと焦ってしまった。
「料理する素材の新鮮さの違いもあるかもしれません」
「確かに……。王都で同じものをと思っても難しいね」
魔獣の肉は狩ってからすぐ血抜きしたものとそうでないものだと臭みとかがかなり違う。
血抜きの有無にもよることもある。
リンゴも鮮度によっても違うし、品種によっても酸味や甘さ、香りが違う。
レシピ以外の事でも、料理の結果に違いは出てくるものだよね。
とりあえずジャックが王都に連れて行かれるって話にはならなかったみたいだ。良かった!
「先ほどの話ですが……。魔獣が逃げ出したら怖いって思われるのは、
そういうことが起きる可能性があると考えられているからですか?」
カップをソーサーに静かに戻して、兄上がリネリア嬢に尋ねた。
「……ええと……」
リネリア嬢が瞳を少し揺らしてから、ゆっくりと目線をネイサン殿下に向けた。
「……毒の件もありましたから……。もしかして檻の鍵も誰かがわざとって……。申し訳ありません……」
「どうしてリネリア嬢が謝るの?」
謝って俯いてしまったリネリア嬢にネイサン殿下が話しかけた。
リネリア嬢は少し顔を上げた。
「……ネイサン殿下が命を狙われているって言っているようなものですから……」
「狙われるのは良くあることだから。むしろ、みんな、巻き込んでしまったね……」
ネイサン殿下はハロルド君達を見つめてから視線を僕と兄上の方に移した。
「ゲンティアナ男爵家の人達には苦労をかけたし世話になったね。
多分……、明日の朝辺りにここを発つんじゃないかと思う。
ありがとう。楽しかったよ」
「明日発つと決まったのですか?……出発日は秘密なのではなかったでしょうか……」
「僕の予想だよ。もう、毒事件が起きてからは、いつ出発しても良いようにってことにはなっていたし」
「予想、ですね……。……では、いつ出発となるかわからないということですので、
ささやかながら今、贈り物をさせていただこうかと思います」
殿下の言葉を受けて兄上がそう応えた後、チラリと僕の方を見た。
贈り物!
出番!
長椅子を降りて、お茶の支度の台のそばに置いていた箱を取りに行く。
背中に注目を浴びている気がする。「興味」みたいな気配がすごく押し寄せてくる!
ちょっと焦ってしまって、箱を持ち上げた時に中に入れているものが揺れた。綺麗な柄の布でしっかりと包んでいるから多少は中の物同士がぶつかっても大丈夫だと
思うけど、転けてぶちまけたりしたら大変だ。
ふぅっと息を吐いて姿勢を正した。
すでにお茶とデザートの毒見は済んでいる。
紅茶に添えられたデザートは良く冷えたリンゴのコンポート。
夕食後だからあっさりデザートをジャックが用意してくれたんだ。
シャクシャクのリンゴも美味しいけど、甘酸っぱく煮て冷やしたリンゴも美味しいんだ。
リンゴのコンポートを口に含んだ途端
それまで不安そうな顔をしていたリネリア嬢の表情が和らいだ。
「美味しいですわ!とっても爽やかですわね」
「酸味があるからかしら。甘すぎなくて美味しいわ」
シェリル嬢も気に入ってくれたようだ。
「ゲンティアナ家の料理人は腕が良いのだね。城でも働いてもらいたいなぁ」
ネイサン殿下の言葉にギョッとした。ジャックが王宮に連れて行かれちゃうかも?
「王都や他の土地のレストランなどでも食べられるメニューだと聞きましたよ。
お気に召したメニューがあれば、レシピを書かせてお渡ししますけど」
「本当かい?それは嬉しいな!確かに、このデザートに似たものも角兎のソテーも、他の土地でも食べられると思う。でも、一味違うような気がするんだ」
兄上が、レシピを渡すと提案したら、ネイサン殿下が破顔した。
他では珍しいようなメニューは、お客様にはお出ししないことになっているけど、
そうなるとジャックの料理の腕の方に注目されちゃうのかと焦ってしまった。
「料理する素材の新鮮さの違いもあるかもしれません」
「確かに……。王都で同じものをと思っても難しいね」
魔獣の肉は狩ってからすぐ血抜きしたものとそうでないものだと臭みとかがかなり違う。
血抜きの有無にもよることもある。
リンゴも鮮度によっても違うし、品種によっても酸味や甘さ、香りが違う。
レシピ以外の事でも、料理の結果に違いは出てくるものだよね。
とりあえずジャックが王都に連れて行かれるって話にはならなかったみたいだ。良かった!
「先ほどの話ですが……。魔獣が逃げ出したら怖いって思われるのは、
そういうことが起きる可能性があると考えられているからですか?」
カップをソーサーに静かに戻して、兄上がリネリア嬢に尋ねた。
「……ええと……」
リネリア嬢が瞳を少し揺らしてから、ゆっくりと目線をネイサン殿下に向けた。
「……毒の件もありましたから……。もしかして檻の鍵も誰かがわざとって……。申し訳ありません……」
「どうしてリネリア嬢が謝るの?」
謝って俯いてしまったリネリア嬢にネイサン殿下が話しかけた。
リネリア嬢は少し顔を上げた。
「……ネイサン殿下が命を狙われているって言っているようなものですから……」
「狙われるのは良くあることだから。むしろ、みんな、巻き込んでしまったね……」
ネイサン殿下はハロルド君達を見つめてから視線を僕と兄上の方に移した。
「ゲンティアナ男爵家の人達には苦労をかけたし世話になったね。
多分……、明日の朝辺りにここを発つんじゃないかと思う。
ありがとう。楽しかったよ」
「明日発つと決まったのですか?……出発日は秘密なのではなかったでしょうか……」
「僕の予想だよ。もう、毒事件が起きてからは、いつ出発しても良いようにってことにはなっていたし」
「予想、ですね……。……では、いつ出発となるかわからないということですので、
ささやかながら今、贈り物をさせていただこうかと思います」
殿下の言葉を受けて兄上がそう応えた後、チラリと僕の方を見た。
贈り物!
出番!
長椅子を降りて、お茶の支度の台のそばに置いていた箱を取りに行く。
背中に注目を浴びている気がする。「興味」みたいな気配がすごく押し寄せてくる!
ちょっと焦ってしまって、箱を持ち上げた時に中に入れているものが揺れた。綺麗な柄の布でしっかりと包んでいるから多少は中の物同士がぶつかっても大丈夫だと
思うけど、転けてぶちまけたりしたら大変だ。
ふぅっと息を吐いて姿勢を正した。
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