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第11話
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「クロードの婚約者はエレーヌ嬢よ。パスカルとの婚約がなくなってしまったことに対する王家からのお詫び。それに、せっかく長い時間をかけて王妃教育を受けて学んでもらっておいて、その頑張った時間を無駄にさせてしまうのは偲びないから他の令嬢に話をする前にまずは彼女に話を持ち掛けたの。エレーヌ嬢、クロード、それからエレーヌ嬢のお父様であるアルヴィア公爵にもきちんと話をして、双方合意したから決定に至ったわ」
「何でエレーヌさんなのよ!? パスカルの婚約者に選ばれておいて、その話がなくなったと思ったら今度はパスカルよりもさらに上等な男性との婚約が決定!? ふざけないでよ!」
カリンの怒りはお門違いも甚だしかった。
「ボーランジェ男爵令嬢。あなたは王妃や王子妃について何か勘違いしていらっしゃいませんか?」
「勘違い?」
「確かに私は公爵家に生まれて、血筋や権力バランスを鑑みて王子殿下の婚約者に選ばれました。でも、王子殿下の婚約者に選ばれても、それは始まりに過ぎませんの。むしろそこからがスタートなのです。私は6歳の時から次期王妃に相応しい令嬢になる為に王宮に通って毎日毎日王妃教育を受けてきました。6歳から始まって合格を頂いたのは約半年前。マナーやダンスのレッスン、外国語や法律関係や地理や歴史等の勉学。学ぶことは本当に多かったですわ。始まったばかりの頃なんてまだ遊びたい盛り。でも他の子のように勉強を休んで遊ぶなんて許されなかった」
エレーヌは過去を思い出しながら語る。
王妃教育が始まった頃、エレーヌも確かに子供らしく遊んでのびのびと過ごしていた。
メイドと着飾ったお人形で遊んだり、公爵邸の広大な庭を走り回ったり、母やメイドにせがんで絵本を読んでもらったり。
明日はどんなことをしようかなと楽しみにしながら日々を送っていた。
しかし、パスカルの婚約者に選ばれて王妃教育が始まったのと同時にそんな日々は終わった。
将来、王妃になるにふさわしい令嬢になる為に、朝から日が沈むまで王家の雇った一流の講師の元でみっちり勉強漬けになった。
講師達は出された課題をきちんと仕上げて正解すると誉めるが、基本的には厳しい。
少し間違えただけでも叱責が飛んで来る。
講師達が厳しかったのは期待の裏返しだとエレーヌが気づいたのはだいぶ後になってからだった。
「それと同時進行で私をパスカル様の婚約者の座から引きずり下ろしたい令嬢やその親からの嫌がらせや策略の対処が合間合間に入ってくる。全員が全員、私を婚約者として認めている訳ではないから。あなたならそんな日々耐えられまして?」
エレーヌが静かな瞳でカリンに問いかける。
「そ、それは……」
カリンはしどろもどろになって答えられない。
「王妃や王子妃はただ着飾って贅沢をして、後継ぎの男児を生むことだけが仕事、という訳ではないのです。当然のように王妃や王子妃もやるべき公務というものがありますの。例えば外国の王族の方が我が国に訪問された時、接待をすることになります。そこで相手の国の言葉を正確に聞き取れ、話せなければ会話が成立しませんし、良いように言いくるめられてしまうこともあります。また、相手の国の文化を理解していなければ、我が国でその言動をとったところで問題がなくても、相手の国には失礼にあたる場合もある。国同士の交流は一歩間違えれば戦争に発展しかねないのです」
エレーヌはさらに続ける。
「だから単に着飾って贅沢して後継ぎの男児を生めばあとは自分の仕事はない、というような認識でいるようなお嬢さんに務まるような立場ではないのです。あなたにも私と同じことが出来るというのなら話は変わりますが、そうではないでしょう? 学園の成績ですらいつも学年最下位付近のあなたでは到底不可能。物語ならば、お姫様は王子様に愛され、結ばれてハッピーエンド、なのでしょうがここは現実ですわ」
「エレーヌ嬢の言う通りよ。王妃や王子妃の立場を物語のようなそんな軽いものだと思わないで頂きたいわ。立場に見合った仕事をきちんとしているからその代わりに贅沢が許されているの。そんなことも分からないで、未来の王妃になりたいだなんて本当に滑稽よ」
「何でエレーヌさんなのよ!? パスカルの婚約者に選ばれておいて、その話がなくなったと思ったら今度はパスカルよりもさらに上等な男性との婚約が決定!? ふざけないでよ!」
カリンの怒りはお門違いも甚だしかった。
「ボーランジェ男爵令嬢。あなたは王妃や王子妃について何か勘違いしていらっしゃいませんか?」
「勘違い?」
「確かに私は公爵家に生まれて、血筋や権力バランスを鑑みて王子殿下の婚約者に選ばれました。でも、王子殿下の婚約者に選ばれても、それは始まりに過ぎませんの。むしろそこからがスタートなのです。私は6歳の時から次期王妃に相応しい令嬢になる為に王宮に通って毎日毎日王妃教育を受けてきました。6歳から始まって合格を頂いたのは約半年前。マナーやダンスのレッスン、外国語や法律関係や地理や歴史等の勉学。学ぶことは本当に多かったですわ。始まったばかりの頃なんてまだ遊びたい盛り。でも他の子のように勉強を休んで遊ぶなんて許されなかった」
エレーヌは過去を思い出しながら語る。
王妃教育が始まった頃、エレーヌも確かに子供らしく遊んでのびのびと過ごしていた。
メイドと着飾ったお人形で遊んだり、公爵邸の広大な庭を走り回ったり、母やメイドにせがんで絵本を読んでもらったり。
明日はどんなことをしようかなと楽しみにしながら日々を送っていた。
しかし、パスカルの婚約者に選ばれて王妃教育が始まったのと同時にそんな日々は終わった。
将来、王妃になるにふさわしい令嬢になる為に、朝から日が沈むまで王家の雇った一流の講師の元でみっちり勉強漬けになった。
講師達は出された課題をきちんと仕上げて正解すると誉めるが、基本的には厳しい。
少し間違えただけでも叱責が飛んで来る。
講師達が厳しかったのは期待の裏返しだとエレーヌが気づいたのはだいぶ後になってからだった。
「それと同時進行で私をパスカル様の婚約者の座から引きずり下ろしたい令嬢やその親からの嫌がらせや策略の対処が合間合間に入ってくる。全員が全員、私を婚約者として認めている訳ではないから。あなたならそんな日々耐えられまして?」
エレーヌが静かな瞳でカリンに問いかける。
「そ、それは……」
カリンはしどろもどろになって答えられない。
「王妃や王子妃はただ着飾って贅沢をして、後継ぎの男児を生むことだけが仕事、という訳ではないのです。当然のように王妃や王子妃もやるべき公務というものがありますの。例えば外国の王族の方が我が国に訪問された時、接待をすることになります。そこで相手の国の言葉を正確に聞き取れ、話せなければ会話が成立しませんし、良いように言いくるめられてしまうこともあります。また、相手の国の文化を理解していなければ、我が国でその言動をとったところで問題がなくても、相手の国には失礼にあたる場合もある。国同士の交流は一歩間違えれば戦争に発展しかねないのです」
エレーヌはさらに続ける。
「だから単に着飾って贅沢して後継ぎの男児を生めばあとは自分の仕事はない、というような認識でいるようなお嬢さんに務まるような立場ではないのです。あなたにも私と同じことが出来るというのなら話は変わりますが、そうではないでしょう? 学園の成績ですらいつも学年最下位付近のあなたでは到底不可能。物語ならば、お姫様は王子様に愛され、結ばれてハッピーエンド、なのでしょうがここは現実ですわ」
「エレーヌ嬢の言う通りよ。王妃や王子妃の立場を物語のようなそんな軽いものだと思わないで頂きたいわ。立場に見合った仕事をきちんとしているからその代わりに贅沢が許されているの。そんなことも分からないで、未来の王妃になりたいだなんて本当に滑稽よ」
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