20年越しの後始末

水月 潮

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第12話

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「少し話が逸れたけれど、とにかくパスカルが王家から除籍されてもクロードを養子として迎えたから後継者問題はなく、そしてクロードの婚約者もエレーヌ嬢で決まっているからパスカルがいなくて困るということは何一つないわ」

 ミシェル正妃は改めてパスカルに現実を突き付ける。

「私がいなくて困ることはない……だと!?」

「だから自分がいなくなった後については何も心配することはないわ。心置きなくそこのお嬢さんと一緒にいればいい。先程、あなたの籍はキャロル側妃殿下の実家のカッセル男爵家に移るとは言ったけれど、あなたの衣食住の一切をカッセル男爵家で面倒を見てくれる訳ではないからそこは勘違い無きよう」

「カッセル男爵家で面倒を見てくれるのではないのか?」

「違うわ。籍だけは置いても構わないけれど、あくまで生活は別々。だからあなたは早いうちに仕事を見つけて自力で生活するか、ボーランジェ男爵家にカリン嬢の夫としてお世話になるか決める必要があるわ。あなたが使う・使わないはどちらでも構わないけれど、私からの餞別ということで小さい家と三ヶ月分の食糧は用意する。でも、それ以降は一切関わらない。お金を無心に来ても一切相手にはしないから、王宮に来ても無駄だと言っておくわ」

 ボーランジェ男爵家も恐らくはカリンとパスカルを受け入れない。

 ミシェル正妃はボーランジェ男爵家にカリンの婿として婿入り結婚なり平民の夫婦として生きるなりお好きにどうぞとは言ったが、カリンは王子様ではないパスカルはお呼びでないことから、実質パスカルは自力で生活費を稼ぎ、一人で生きていくということになるのだろう。

「パスカル、私、もうパスカルとはさよならするわ! せっかく貴族になったのにパスカルと一緒に平民に逆戻りなんて絶対に嫌よ!」

「カリン……」

 カリンは清々しい表情で別離を宣言し、パスカルはがっくりと膝をつく。


「それから、話すことがたくさんあって後回しにしていたけれど、パスカルの側近のバスク伯爵令息とプレボー侯爵令息。あなた達の言動は調べさせてもらったけれど、王子の側近として不適切だったわね。クロードの側近としてはあなた達以外から側近を選ぶから、側近としてはこれでお役御免よ」

「そ、そんな……!」

「どうしてですか? それに何故私達だけお役御免なのですか!? リシャールも処分があるはずでは?」

「あなた達は婚約者がいるパスカルが他の令嬢に現を抜かしていても、パスカルを諫めることもしなければ、彼からその令嬢を何とか遠ざけることもしなかった。パスカルと一緒になって恋愛ごっこを楽しんでいたでしょう? 側近は仕える主人が間違っていることをしていれば道を正さなければならないのよ」


 側近は主人のイエスマンをしていればよいというものではない。

 主人と側近で身分差はあれど、主人が人として道理に反しているようなことや間違っていることをすれば、自分の身は顧みず注意するのが側近の正しい有り様だ。


「リシャールは間近であなた達の言動を間近で監視する為に側近として行動を共にしてもらっていたの。彼は私の甥だから、私を裏切って虚偽報告はしないと信用出来る。それに自分の役目を果たしていたからお咎めは何もないわ」

 ミシェル正妃は学園でのパスカル達の動向を監視する為、密かに王家の影を付けていたが、ちょうど彼女の兄の息子のリシャールが彼らと同い年だったから側近として加え、より近くで監視してもらうことにした。

 役目を果たしたら、リシャールの願いを一つ聞くという褒美も約束している。


「それと、あなた達二人の婚約者の令嬢はとうとう婚約解消に踏み切ったそうよ。側近を下ろされ、婚約者から見限られる。家に帰ったらあなた達のお父様から今後の身の振り方について話があるかもしれないわ」

 二人はそれぞれ騎士団長と宰相の息子である。

 人前で王子の婚約者を貶めることに加担して、側近として不適切だとミシェル正妃から烙印を押され、婚約者から婚約解消される。

 問題行動が多すぎて、当主である父親から何らかの処罰があることは必至である。


 ミシェル正妃はパーティー会場に同伴させていた近衛騎士にパスカルとカリン、側近二人を会場から退場させるよう命じ、近衛騎士は指示に従う。

 そして、本来卒業パーティーで行われる予定だった国王からの挨拶が始まる。

「卒業パーティーとは関係のない、王家の私的なことで騒がせてすまなかった。本来する予定だった卒業生の挨拶をさせて頂く。卒業生の諸君、卒業おめでとう。これからはもう大人の仲間入りだ。学園を卒業した諸君達の今後の活躍を国王として期待している」

「卒業生の皆様、そしてこの場にいらっしゃるそのご家族の皆様。本日は王家の一員だった者の暴走で、卒業パーティーを私的に利用して大変申し訳ございませんでした。ご迷惑をおかけした代わりに、成人している方には秘蔵の赤ワインを、未成年の方には秘蔵の葡萄ジュースを王家より提供させて頂きますのでどうぞお楽しみ下さい。赤ワインも葡萄ジュースもモンブール領産のもので、豊作の年に生産されたものですわ」

 モンブール領と言えば国内のワインの名産地である。

 モンブール領産のワインは貴族の間では大変人気があり、入手することは中々難しい。

 未成年の為に振る舞われた葡萄ジュースの方も、非常に濃厚な味わいで、ワインは苦手だが近い味を楽しみたい大人から飲酒を許可されていない子供まで幅広い世代で楽しまれている一品である。

 それを気前よく王家からの詫びとして出すことで、誠意を見せた。


 こうして、婚約破棄は幕を閉じた。
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