【完結】がり勉地味眼鏡はお呼びじゃない!と好きな人が婚約破棄されたので私が貰いますわね!

水月 潮

文字の大きさ
13 / 15

第13話

しおりを挟む
 フローレンスを庇って葡萄ジュースを頭から浴びたアドリアンの前髪からぽたぽたと葡萄ジュースの雫が滴り落ちる。

 アドリアンは煩わしそうに右手で前髪をかき上げ、分厚い眼鏡を外す。


 すると今まで隠れていたアドリアンの素顔が大勢に晒された。

 ユージェニー王女殿下が大声で騒いでいたので、ユージェニー王女殿下とクレメントとアドリアンとフローレンスはいつの間にか周囲の注目を集めていたのだ。


 中性的な美人顔で、蜂蜜のようにとろりとした金色とエメラルドのような鮮やかな緑のオッドアイ。

 あまりにも綺麗な顔立ちで皆、声を失う。


 ユージェニー王女殿下は間近でアドリアンの素顔を見て、顔を真っ赤にする。

 その様子にクレメントだけは心底面白くなさそうな表情を浮かべる。

 彼は自分よりも格上の身分で王女殿下の婚約者でもあったが、冴えない容姿のアドリアンを差し置いて、美少年顔である以外は特にこれと言ったものを持たない自分が王女殿下の婚約者として正式に認められて有頂天だった。

 ここに来て実はアドリアンは美青年だという事実が発覚すれば、王女殿下は簡単に乗り換えるだろう。

 それが手に取るようにわかるからこそ面白くないのだ。


 皆が驚愕して動けない中、フローレンスだけはいつも通りだった。

「アドリアン様、ハンカチをお貸ししますわ。どうぞこれで顔と眼鏡と濡れたジャケットを拭いて下さい」

「ありがとうございます。後日洗濯してお返ししますので、お借りします。それよりも約束を守れなくてすみません」

「いいえ。元はと言えば私のせいでもあります。この状況でそんなことは言えないですわ」


 二人はそんなやり取りをしていたが、お構いなしに顔を真っ赤にしたユージェニー王女殿下が興奮気味にアドリアンに詰め寄る。

「アドリアン、あなたそんな素敵なお顔立ちだったのね! クレメントとは婚約破棄するからもう一度わたくしと婚約しましょう! あなたはフローレンス様よりもわたくしにこそ相応しいわ!」

「ユージェニー!? 僕と婚約破棄するの!? あんなに愛し合った仲なのに!?」

 クレメントが必死に縋りつくが、取り付く島もなかった。

 実はユージェニー王女殿下とクレメントは肉体関係を持っていた。

 クレメントが言っているのはそのような意味合いだ。


「あんたなんてもうお呼びじゃないわよ! アドリアンの気に入らない所なんて容姿だけだったんだから、その容姿が良いと分かった今、わたくしの相手として相応しいのはあんたじゃなくてアドリアンよ! 元々はわたくしの婚約者だったんだからアドリアンもフローレンス様と婚約破棄してわたくしと再び婚約して下さいますわよね!?」

「お断りします。フローレンス嬢と婚約破棄して再度あなたと婚約を結ぶなんて死んでもお断りです」

「な、何でよ!? わたくしを妻に迎えればあなたに箔がつくわ! こんなに可愛いわたくしを妻に出来るんだから嬉しいでしょう?」

「箔なんてどうでもいいです。それにあなたを可愛いなんて思ったこともないです。外見は良くても中身は醜悪。あなたが覚えているかどうかわかりませんが、初めてあなたと顔を合わせた時、あなたは私に何と言ったと思います?」

「”素敵な子ね! 特にその瞳が綺麗!”って言ったと思うわ。もう覚えていないけれど……。だからあなたとの婚約が成立したのよ」

 ユージェニー王女殿下がそう告げた途端、アドリアンはお腹を抱えて笑い出す。

「何で笑っているのよ? おかしなところなんて何もなかったじゃない」

 ユージェニー王女殿下は訝しげな顔をするがアドリアンは笑い続けている。

「ふふっ。あまりにも可笑しくて。覚えていないって本当に幸せですね。あなたはこう言ったのですよ、”なに、そのおめめ。みぎとひだりで色がちがう! きもちわるいわ……!”、と。あなたは忘れていらっしゃったけれど、私はずっとその言葉を忘れておりません。あなたにそう言われて傷ついた後、初恋の少女に出会ってその子とこうして婚約を結べたのですから、人生何が起こるかわかりませんね」

「えっ!? そんなはずはないわ! それに初恋の少女ってどういうことよ!?」

 ユージェニー王女殿下がキャンキャンと子犬のように捲し立てるが、アドリアンはその疑問に答えることはなかった。

「人を容姿で拒絶して人前で婚約破棄を突き付けておいて、その容姿が良かったら今度は手の平返しで再度婚約を結びたいなんて。私は今までのことを全て水に流してあなたと仲良くしたいかと言われたら無理です。あなたの都合に振り回されるなんて真っ平ごめんですよ。あなたには私ではなくてその男爵令息がお似合いです。顔は良くても中身は真っ黒な彼がね。もう二度と私の前に姿を現さないで下さい。不愉快です」

「そ、そんな……」


 ユージェニー王女殿下はアドリアンのはっきりした拒絶にがっくりと膝をつく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄ですか? では、最後に一言申しあげます。

にのまえ
恋愛
今宵の舞踏会で婚約破棄を言い渡されました。

【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~

ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。 「かしこまりました」 と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。 その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。 ※ゆるゆる設定です。 ※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。 ※Wヒロイン、オムニバス風

聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました

もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」 王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。 だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月
恋愛
 それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた── 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は── ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

処理中です...