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島国の戦士
第43話 哀悼 ~修治 2~
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修治は八時半に麻乃の部屋へ来た。
今から麻乃を起こして支度をさせれば、泉の森にちょうど良い時間に着くことができるだろうと思ったからだ。
一応、ノックをしてからドアを開けると、麻乃はもう正装に着替えていて驚いた。
「まだ寝ているかと思ったら、珍しく早いじゃないか」
「珍しくは余計だよ。あっ、そうだ、修治! みんなに財布の中身のことを話したね?」
苛立った様子の麻乃が噛みついてくる。
「ああ、情報として、そんなこともあるって、みんなが知っておいたほうがいいだろう? まぁ、もう既に知っているやつもいたけどな」
「トクさんでしょ?」
間髪を入れずに問いかけられて、また驚く。
「なんだ、ずいぶんと情報が早いな」
「うん、さっき鴇汰に朝ご飯ごちそうになって、そのときに聞いた」
「鴇汰が朝飯? そうか……」
(鴇汰のやつめ、なかなかすばやく動きやがるじゃないか)
心の中でそうつぶやいた。
昨夜、みんなの前で麻乃が丸一日、なにも食ってないという話しをした。それを聞いて早くから飯の支度をしたってわけか。
鴇汰が入れ込んでるのは手に取るようにわかるけれど、麻乃のほうはどうなんだろうか?
二人がどうにかなったなんて話しは聞いたこともないし、そんな雰囲気を感じもしない。なにより麻乃がそのことを黙っているとは思えない。
「……今日の葬儀、きっとたくさんの参列があるよね」
麻乃が不安そうにつぶやいたのが聞こえ、ハッとわれに返った。
「そうだろうな。今回は大勢が亡くなっているからな」
「あたし……恨まれているだろうな……」
そう言ってうつむいた麻乃の顔は、今にも泣き出しそうに見える。食事も着替えも済んでいるならと、時間つぶしにコーヒーを淹れて出してやった。
「それを考えだしたらきりがないだろう? 俺たちは、それを背負わなければならない立場なんだ」
「それはわかってるよ! でも、あたしは――」
「落ち着け。おまえがそんなにうろたえていたら、あいつらが心配して旅立てないぞ。ゆっくり眠れるように、おまえがしっかりと見送ってやらなきゃいけないだろう?」
急に感情をたかぶらせたのを落ちつけようと、肩を抱き寄せて背中を軽くたたいた。黙ったままで寄りかかってきた麻乃は、右手で左腕をさすっている。
そういえば最近、麻乃はやけに左腕を気にしているように見える。西浜戦で海岸に倒れていたときも、庸儀の件で倒れた日も、どちらのときも左腕を押さえていた。
「おまえ、左腕、どうかしたのか?」
「うん……なんだか時々、火傷の痕がジリジリと焼けるみたいに痛むんだ。右腕のほうはなんともないのに」
「爺ちゃん先生には言ったのか?」
「傷は治りかけているから大丈夫だろう、って」
「そうか。でもな、あまり痛むようなら何度でも診てもらえよ。腕になにかあったら大変だからな。さて、そろそろ出かけるか」
うなずいたその頭をそっとなでた。最近の麻乃は以前にも増して不安定になっている気がする。
突然苛立つことも多くなったし、意識をなくす回数も増えたようだ。前を歩く麻乃を見つめながら、修治はいいようのない不安に駆られた。
(高田先生が言うとおり、麻乃はなにかを隠している。そのせいなんだろうか――?)
だとしたら、麻乃は一体、なにを隠しているんだろう。
ただでさえ言葉の足りない麻乃から、隠しごとを引き出すのは恐ろしく難しいと思う。
(けれど、それが原因で、無理に覚醒を抑え込んでいるんだとしたら……)
そのせいで起こる歪みが、こうして麻乃を不安定にさせているのなら、一日も早くそれを取り除いてやりたい。
いつでもそう思っているのに、どうしてやることが麻乃にとって一番いいのか、それがわからないままでいた。
今から麻乃を起こして支度をさせれば、泉の森にちょうど良い時間に着くことができるだろうと思ったからだ。
一応、ノックをしてからドアを開けると、麻乃はもう正装に着替えていて驚いた。
「まだ寝ているかと思ったら、珍しく早いじゃないか」
「珍しくは余計だよ。あっ、そうだ、修治! みんなに財布の中身のことを話したね?」
苛立った様子の麻乃が噛みついてくる。
「ああ、情報として、そんなこともあるって、みんなが知っておいたほうがいいだろう? まぁ、もう既に知っているやつもいたけどな」
「トクさんでしょ?」
間髪を入れずに問いかけられて、また驚く。
「なんだ、ずいぶんと情報が早いな」
「うん、さっき鴇汰に朝ご飯ごちそうになって、そのときに聞いた」
「鴇汰が朝飯? そうか……」
(鴇汰のやつめ、なかなかすばやく動きやがるじゃないか)
心の中でそうつぶやいた。
昨夜、みんなの前で麻乃が丸一日、なにも食ってないという話しをした。それを聞いて早くから飯の支度をしたってわけか。
鴇汰が入れ込んでるのは手に取るようにわかるけれど、麻乃のほうはどうなんだろうか?
二人がどうにかなったなんて話しは聞いたこともないし、そんな雰囲気を感じもしない。なにより麻乃がそのことを黙っているとは思えない。
「……今日の葬儀、きっとたくさんの参列があるよね」
麻乃が不安そうにつぶやいたのが聞こえ、ハッとわれに返った。
「そうだろうな。今回は大勢が亡くなっているからな」
「あたし……恨まれているだろうな……」
そう言ってうつむいた麻乃の顔は、今にも泣き出しそうに見える。食事も着替えも済んでいるならと、時間つぶしにコーヒーを淹れて出してやった。
「それを考えだしたらきりがないだろう? 俺たちは、それを背負わなければならない立場なんだ」
「それはわかってるよ! でも、あたしは――」
「落ち着け。おまえがそんなにうろたえていたら、あいつらが心配して旅立てないぞ。ゆっくり眠れるように、おまえがしっかりと見送ってやらなきゃいけないだろう?」
急に感情をたかぶらせたのを落ちつけようと、肩を抱き寄せて背中を軽くたたいた。黙ったままで寄りかかってきた麻乃は、右手で左腕をさすっている。
そういえば最近、麻乃はやけに左腕を気にしているように見える。西浜戦で海岸に倒れていたときも、庸儀の件で倒れた日も、どちらのときも左腕を押さえていた。
「おまえ、左腕、どうかしたのか?」
「うん……なんだか時々、火傷の痕がジリジリと焼けるみたいに痛むんだ。右腕のほうはなんともないのに」
「爺ちゃん先生には言ったのか?」
「傷は治りかけているから大丈夫だろう、って」
「そうか。でもな、あまり痛むようなら何度でも診てもらえよ。腕になにかあったら大変だからな。さて、そろそろ出かけるか」
うなずいたその頭をそっとなでた。最近の麻乃は以前にも増して不安定になっている気がする。
突然苛立つことも多くなったし、意識をなくす回数も増えたようだ。前を歩く麻乃を見つめながら、修治はいいようのない不安に駆られた。
(高田先生が言うとおり、麻乃はなにかを隠している。そのせいなんだろうか――?)
だとしたら、麻乃は一体、なにを隠しているんだろう。
ただでさえ言葉の足りない麻乃から、隠しごとを引き出すのは恐ろしく難しいと思う。
(けれど、それが原因で、無理に覚醒を抑え込んでいるんだとしたら……)
そのせいで起こる歪みが、こうして麻乃を不安定にさせているのなら、一日も早くそれを取り除いてやりたい。
いつでもそう思っているのに、どうしてやることが麻乃にとって一番いいのか、それがわからないままでいた。
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