蓮華

鎌目 秋摩

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島国の戦士

第219話 苦渋 ~高田 3~

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「まったくもって、加賀野のいうとおりですね。豊穣までのことはどうであれ、これから戻ってくる藤川の状態に万一のことがあるとするなら、我々は高田に従うことにしましょう」

「悪い意味で覚醒したとしたなら、そこにはなんらかの原因がある。誤った思考に囚われているのなら、それを正してやるのが我々の役目でしょう?」

「同じ印を受け、同じように国を守ってきた身としては、あれほどの功績と腕前を持った藤川を、排除などという簡単な言葉で片づけてしまうわけには行かないからな」

 高田以外は、それが加賀野でも尾形であっても、深い部分まで理解してくれるとは思っていなかった。

 まだ麻乃が幼かったころ、対応にはかなり手古摺った。
 高田自身でさえも、ほんの一瞬だけ重荷に感じたときもあった。

 ほかの誰もが面倒なことには関わりを持とうとせず、今の上層と変わらない反応をするだろうと思っていた。
 だからこそ、これまで誰にも詳細までは話さなかったというのに。

 それが今、加賀野と尾形の言葉にほかの元蓮華たちも賛同し、詳細を聞かずとも万一のときには手を貸すと言ってくれる。
 熱い思いが胸に込み上げた。
 この歳にもなって、こんな感情が湧き上がるとは思いもよらず、言葉を発することができずにいた。

「なんにせよ、藤川がここにいない以上、なんのしようもない。あなたがたは、ここに身のあるシタラさまに絡んだ調査を徹底されたほうが良いのではないですか?」

「藤川に関しては、我々は今後、高田のやりかたでやらせていただく」

「それ以外の件に関しても、我々はそれぞれの伝手で調べます。呼び出しはもう結構。互いの考えかたが相容れない以上、こうやって顔を突き合わせたところで、ただ睨み合うだけでしょうからな」

 矢継ぎ早にそう言うと、元蓮華たちは、上層の返事も待たず会議室を出ていってしまった。
 その後姿を見送りながら、最後に残った加賀野と尾形にうながされ、重い腰をあげた。

 背中に冷たい視線を感じて振り返る。
 カサネが目を細めて高田を見つめていた。
 シタラが亡くなって一番巫女に就任した途端、こんな問題に遭遇するとは誰も思っていなかっただろう。

 面倒だ。
 面白くない。

 と考えているのかもしれない。
 少しだけ申し訳なくも思うが、それと麻乃の処遇に関しては別の話しだ。
 無言のまま礼をして会議室を出た。

 加賀野は、まだ怒りが納まらないようで、ブツブツと文句を言いながら、速足で前を歩いている。

「まったく……かつては同じこころざしを持って戦場に立っていたとは到底思えん! だいたいおまえも、だんまりを決め込んだままじゃなく、文句の一つも言ってやりゃあ良かったんだ!」

「なんだ? 八つ当たりか? 私のぶんまでおまえが怒ってくれたんだ、それでいいさ」

 突然こちらを振り返り、キッとした目で睨んでいる加賀野に、そう言って笑った。
 出口の辺りから先に会議室を出た元蓮華たちのにぎやかな声が響いてくる。

「おまえってやつは最後はいつも甘いんだよ。あんなやつらのいうことを黙って聞いてやる必要はないだろうが!」

「黙って聞いてやるつもりはないが……全員でカッカしても仕方ないだろう? おまえももう落ち着け」

「落ち着けだと? あのむすめとは数回、しかも相当前に会っただけだが、あんな……切り捨てるようないいかた、落ち着いて聞いていられるか!」

 加賀野はますます興奮したようだ。
 高田は苦笑しながらその肩を軽くたたいた。

「正直いうとな……おまえを含めてほかの連中も、あんなふうに言ってくれるとは思っていなかった。本当にありがたいと思ったよ」

「馬鹿! そんなことは当たり前だろう? 少しくらい疎遠だったからってな、手を貸すこともしないような間柄じゃないだろうが!」

「おまえたち……いい歳になったというのに、いつまで子どものようなやり取りをしているんだ」

 後ろで尾形が呆れたように、ため息まじりにそう言った。
 そういえば昔も、こうして加賀野と言い合いをして尾形が止めに入る、そんなやり取りを何度も繰り返した。
 長い間、忘れていた感情と感覚が蘇って、なんとも言いがたい妙な気持ちだ。

 それに……。

(手を貸すこともしないような間柄じゃないだろうが)

 似た言葉を、麻乃に投げかけたことがあった。

(言えないことをわずかでも口に出すことで、周囲が汲み取ってくれて手を貸してくれる……そんな単純な喜びを、麻乃はちゃんと知っていたのだろうか?)
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